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株は自分のシナリオから外れたら売り時


買う前にシナリオを思い描く癖

 バブル期の史上最高値を更新した日本株だが、好調な地合いとは裏腹に私は逆指値注文を建てている。殆どの銘柄で軒並み含み益が出ている状態ではあるが、何かの拍子に下落局面に転じることを想定してのことだ。

 ある程度のところで利確しておきたい銘柄を中心に、逆指値注文を入れて保険を掛けつつ、上昇局面が続くようなら、継続的に含み益が増える格好である。

 では、そろそろ利確しておきたい銘柄と、長期保有を前提として暫く売る気がない銘柄の違いは、どこから来るのか問われれば、保有時に自分自身が思い描いたシナリオとの乖離を感じている銘柄が前者であり、まだそのシナリオが到来していない銘柄が後者となる。

 そんな中、ある小売業の銘柄が約定した。5年前に買い入れた銘柄で、有名企業でありながら、当時は株主優待制度が設けられていなかったため、優待新設による株価上昇のシナリオを思い描いて保有した銘柄である。

 過去の自分と答え合わせをすると、一応は目論見通りに株主優待が新設されたものの、優待の内容が想定よりも渋かったことから、株価上昇の恩恵は限定的であり、当初のシナリオから外れてしまったことで、火傷する前に逆指値の保険を掛けて、売り注文を建て約定した格好だ。

 保有がコロナ前ということもあって、日本経済及び世界経済の前提条件が、現在とは大きく異なることから、当初のシナリオが到来しても、想像したほどの成果が得られていない以上、都合の良い解釈をして保有し続けるのはリスクでしかなく、一旦ポジションを解消して冷静になった上で、改めて買い直す価値があるのか判断するのが妥当だと考えた。

 投資初心者にありがちだが、何を期待してこの銘柄を保有するのか。というシナリオが存在しないまま、漠然と保有してしまうと、利確や損切りラインが曖昧となってしまう。

 そのため、塩漬けする可能性を悪戯に増やし、資金効率を悪くしては機会損失を生むことから、シナリオを明確にすることは、迅速な投資判断をする上で重要だと考える。

相場の天井が見極められたら苦労しない

 プロアマ問わず、投資をするうえで難しいと感じるのが「売り時」の見極めだろう。どこが相場の天井だったのかは、未来に振り返って初めてわかる性質のものであり、リアルタイムで天井が見極められたら苦労しない。

 投資の格言に「頭と尻尾はくれてやれ」があるのも、天井や底値で売買することは基本的にできないことから生まれた言葉で、私の両手で数えられる年数しかない投資経験でも、奇跡的に天井で売り抜けたり、底値で買い入れられたことは片手で数えられる程度しかない。

 天井で売り抜けられた例として、2022年の夏、某国の軍事衝突によりサプライチェーンが崩壊したことで、半導体不足が深刻となった。それにより、新車の販売が滞り、中古自動車の販売価格が新車の定価を上回った。

 そこで中古自動車関連銘柄の株価は上昇したが、私はこれがそう長くは続かないことを察した。というのも、自動車というのは生産しない限り、事故や経年劣化で台数が減ることはあっても、自然に増える性質のものではないからだ。

 つまり、中古自動車会社の仕入れは乗り換えが前提となる。しかし、半導体がボトルネックとなり、新車の供給が不足したことで、乗り換えに伴う下取り需要も無くなり、仕入れる玉数は必然的に減少する。

 今ある在庫を捌いてボロ儲けすることはできても、その在庫が捌き切ったら終了な訳で、新車よりも高値をつけ始めたあたりで、もう中古車市場も玉数が残っていないと判断。

 決算は単価上昇で市場が折り込んだ期待よりも、数量不足で悪い数字が出ると考え、決算発表前に売り抜けたのが、事実上の天井だった。

 この時、テレビでは中古事情がアツい的な特集が組まれていたため、それに感化された層が関連銘柄を物色して、株価が鰻登りとなっていた。そんな時期に世の中の潮流に抗い、冷静に売り時を見極めるのが難しいからこそ、バブルは繰り返される。

 私は自動車に興味がなかったが故に、機転が効いたに過ぎない。思い入れが強ければ強いほど、バイアスが生じて正常な判断ができなくなる可能性が上がるからこそ、保有前の冷静な時期にシナリオを立てることが何より重要と考える。

想定し得るリスクを地道に排除する姿勢

 自分なりにシナリオを思い描き、方向性が大きく外れていなければ継続保有。シナリオから外れたら売りを繰り返すことで、仮説検証の知見が蓄積する。

 あまり認めたくないかもしれないが、そもそも自分自身で立てた仮説が誤っている場合と、シナリオ自体は妥当でも、事業が思い描いた通りには動かないケースがあり、前者は知見を得ることで精度が上げられる。

 後者に関しても財務や会計の知識を身につけることで、ある程度までは、事業計画の妥当性を判断することはできるものの、疫病や戦争、個別の不祥事のような突発的なイベントで、前提条件が根底から覆ってしまう場合、分析の甲斐なく貰い事故となることも往々にしてあるため、あくまでも一定程度であって絶対はない。

 そうした知見をもとに、周囲の情報を鵜呑みにすることなく、自分の頭で本質は何かを考えて、想定し得るリスクをひとつひとつ地道に排除していく姿勢こそが、長期投資を行う上では何より重要なのかもしれない。


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