見出し画像

スタグフレーションに陥る日本社会。


賃上げよりも物価が上がり、実質マイナス。

 8日、厚生労働省が7月の賃金統計の速報を公表したが、案の定、名目値である賃上げ以上に、物価が上昇しているため、今月も実質賃金がマイナスの結果となった。

 2023年7月時点で16ヶ月連続マイナスと言うことは、2022年3月から実質賃金は下がり続けていることを意味する。物価高のターニングポイントが何かは、時期からして周知の事実となっているため記すまでもない。

 消費者物価指数(CPI)は、どの期間の、何の物価で切り取るかによって捉え方が変わるが、全体を平均すると2021年(軍事侵攻以前)から2022年(軍事侵攻以降)、2022年から今年にかけて、年率3%前後の上昇率で推移している傾向にある。

 裏を返せば、賃上げ圧力が政府主導でありながらも、平均すると3%も上がっていないことを意味する。数字で考えれば明白だが、仮に年収400万円の人なら、基本給が1万円以上は上がっていないと、賃金上昇率よりも、物価上昇率の方が高いため、実質賃金はマイナスとなる。

 日本人の年収において、400万円は中央値(360万円前後)よりも上となるため、およそ3,500万人居ると言われる、正規雇用者の上位半数に位置する。

 しかし、その人たちですら平均して月1万円以上の賃上げが行われていないとすると、日本社会全体で消費が低迷するのは、至極当然ではないだろうか。

 タチの悪いことに、税金と社会保険料で最低でも2割程度は召し上げられるため、1万円賃上げしたところで、2,000円程度は懐に入らず、それでいて政府の税収が過去最高では、国民感情を逆撫ですると同時に、失速した経済に更なるブレーキを掛けている自虐にしか思えない。

「成長なくして分配なし」の真意。

 2年前、どこかの首相が成長と分配の前後関係を、これまでの言い方からしれっと入れ替えたワードが上記の小見出しである。

 景気が冷え込んでいるのだから、分配が先だとの意見も散見されるが、個人的には成長ありきでの分配が、本質的には正しいと考える。

 分配を優先したところで、成長するか定かではない。日本的経営の典型とも言える年功序列制も、労働生産性の高い若手が稼いだ売り上げを、労働生産性が落ちた年配者に、割高な賃金へと形を変えて分配しているとも捉えられる。

 それにより日本企業が成長したかは、この失われた30年を見れば想像に難くないだろう。まずはバラマキの発想がMMT論者のようで眉唾物である。

 そんな「成長なくして分配なし」だが、実質賃金はマイナスで推移し成長性は皆無。分配に関しても、異次元少子化対策で、国民ではなく財務省の方向を向く異次元っぷりを発揮し、児童手当を拡充する代わりに、子育て世帯の税制優遇を取り上げるように、ラベル替えどころか、むしろ中抜きでマイナスだとすら思う。

 言っていることと、やっていることが違うではないかと思いきや、どうやら私の日本語力の問題だったらしく、成長を無くして(脱成長)、分配も無くす意図で発言したのであれば、確かに「成長なくして分配なし」で、これほどまで忠実な有言実行を果たした政治家は、近年では類を見ない。

預金で備えるのは悪手。

 そんな、資本家を除いて等しく貧しくなる社会となりつつある昨今だが、ワイドショーでは未だにコストプッシュ型の物価上昇、すなわち悪いインフレ論が蔓延っているように思う。

 物価が嫌な上がり方をする意味では、悪いインフレもスタグフレーションも同じように捉えられるが、後者には景気後退の意味合いが含まれていることから、頑なに認めたくない何かがあるのだろう。

 表現としては後者の方が適切に思えるが、想定する視聴者の経済や金融のリテラシーに合わせているのか、大して使われていないような気がしてならない。

 限られた資源である公共の電波を使って、税収が過去最高だとか、上場企業は増収増益だとか、安直な内容を垂れ流すだけであれば、別に生成AIでも答えられるであろう。

 そうではなく、日本経済の置かれている状況や、なぜ物価高なのか。なぜ賃金に反映されないのか。それを改善していくために、国民一人ひとりができること、やるべきことは何なのか。

 そうしたある種の正解のない問いかけを行い、世論をあるべき方向に導くのが、報道の役割ではないのかと思う。

 私がテレビを所有していないのは、N○Kの受信料が気に入らないのもあるが、時間を含めたコストを掛けたところで、得られる情報は程度が知れていて、インターネットで代替可能な、観るに値しない内容であることも大きい。

 日経平均株価が高値で推移していることは報じられても、日経平均がたった5社の値嵩株の動きでほぼ決まり、株価指標の体を成していなかったり、ドル建てで見ると高値圏ではないことも、その背景も語られることなく、日経平均10万円超などの楽観論が蔓延る。

 そもそも国力が低下していて、日本円の価値が目減りしているのだから、日経平均株価が10万円となる頃には、最低賃金は2,000円くらいになっているかもしれないが、インフレが進んで100均は300円ショップになっているだろう。

 牛丼並盛が1,000円超、ドル円はプラザ合意前の360円に逆戻りで、iPhone1台が40万円みたいな世界観が、これから20年で起こり得るものと想定した方が良い。

 そう考えると、預金を溜め込む形で備えるのは悪手で、未来に価値を向上させるための投資、何も金融資産に限らず、自己の能力向上や学び直しなども含めた、広義の投資を長期目線で行うことが、等しく貧しくなる未来の回避に有効ではないだろうか。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?