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3A社会が、3Yない世の中を生む


安心、安全、安定な3A社会の成れの果て

 先月、30歳でこれ位の資産が築けたら良いなぁ、と20歳くらいに漠然と考えていた規模になった。2022年以前から保有資産を、円建てと外貨建てが半々になるよう心掛けていたことが功を奏したのか、愚直に賃金から種銭を捻出して運用し続ける当初の試算よりも、はやいペースで資産を形成できていたことになる。

 とはいえ、私は20代半ばで大病を患い、術後に主観では社会復帰に耐えられるほど容体が回復しなかったこともあって、そのまま休職期間を引っ張れるだけ引っ張りドロップアウト。

 期間限定の休職手当やら傷病手当金やらで慎ましく暮らしつつ、その後、専業投資家として利益を再投資せずに、生活資金として一部を利食いしながら生きるスタイルになって数年が経つ。

 最初は補助輪付きとはいえ、基本的に社畜時代の入金力は無くなり、殆ど入金することなく運用していたにも関わらず、必死になって賃金を入金していた時と大差ない生活を営めている現状は、安定を謳うサラリーマン人生に対する皮肉とも捉えられる。

 無論、昨今のようなボラティリティの高い相場環境は、コロナショックは経験して、リーマンショックは未経験の、私のしがない投資経験では、初めて体験するレベルの不安定な相場であり、今の上半期のようなリターンが、一瞬にして吹き飛ぶ脆さは心得ている。

 つまり、これは良い大学を出て、良い会社に勤める安心、安全、安定した予定調和な人生とは真逆の不安定な生き方であり、多くの人が選ばない道でもある。

 しかし、主たる収入源が不安定だからこそ、漠然とした経済的な不安を払拭するために知識を蓄え、固定費を引き締めることで、理論上は税引き後でも破綻しない状況を構築している。

 とはいえ内心、シン・ゴジラのヤシオリ作戦並みに「頼む、計算通りいってくれ」とビビり散らかしながら、働かないアリとして、日本社会という名のコロニーの余力として、毎日ダラダラと過ごしている。これはそれなりに楽しい。

 働かずに食う飯は美味い教を布教していると、羨ましい感情を通り越して、ルサンチマンの元凶になっている感すらあるが、サラリーマンの友人に、真似すれば良いのに…と鬼畜ロボに準じた返答をすると、それができたら苦労しないとテンプレ回答が返ってくる。

 パンピーの感情的には働きたくないものの、それによって否応にもお金をどうにかして工面しなければならない状況となる位なら、働いてサラリーを得た方が気持ちの面で楽だと考え、多くが安心、安全、安定したサラリーマン人生を望む3A社会が出来上がる。

 その副産物が、満員電車、社畜回廊、過労死だと思うと、この社会に閉塞感を感じては、希望を持てないのは必然で、これが改善されない限り、少子化に歯止めは掛からないだろう。

欲ない、夢ない、やる気ないの3Yない世の中

 しかし、誰かが敷いたサラリーマンという名の安心、安全、安定したレール上の人生を誰もが望んだ結果、猫も杓子も不確実な要素を毛嫌いするようになった。

 そうして、あれこれ欲しい的な欲もなければ、起業や自己実現といった夢もなく、かといって出世も望まないため、目の前の仕事もやる気がない、3Y(欲ない、夢ない、やる気)ない世の中となっている気がしてならない。VUCAの時代にこれで労働生産性が上がったら奇跡だろう。

 そもそも、若くて良い仕事をする時期に安く使われ、お金が掛かるライフステージに差し掛かる世代に対して、生産性が低くとも手厚く支援する、メンバーシップ型雇用は、社会保障的な側面が色濃く、営利企業と相性が悪いのは火を見るよりも明らかだろう。

 しかも、年功序列と終身雇用が機能していた頃はまだマシだったが、今の若年層は、そもそも実質賃金が上がっておらず、壮年に高給取りとなって、若い頃の低賃金を回収できるかも怪しい以上、安心、安全、安定を求める組織人が、責任だけが重くなる出世を嫌うのは必然だ。

 雇用に関しても、大手企業でさえ業績悪化で早期希望退職者を募るのが当たり前の光景となったものの、雇用の流動性は解雇規制の影響で未だ低いまま。これでは安定した社会のレールを外れてまで、何か挑戦しようと、賢い人ほど思わないのは明白だ。

 再挑戦できないキャリアシステムにより、挑戦心は削がれて夢はなく、かつての昭和的人生を営んだところで、報われるとは限らないどころか、やれ年金はアテにせず自助努力で備えろ、でも重税は負担しろと、社会から搾取される一方ならやる気など沸く訳がない。

 そうして金銭的には低カロリーなスマホ上のSNSやサブスクで娯楽を賄い、大して欲も持たずに変わらぬ日々を過ごす。この社会が安心、安全、安定した環境を維持し続けたことが、やる気のない仙人染みた若年層が量産する側面を生み出したとも捉えられないだろうか。

 戦後の高度経済成長が成り立った条件が「低賃金」、「勤勉」、「技術」の三要素だと仮定したら、経済成長によって低賃金が失われ、日本的雇用慣行で先述の通り勤勉さも失われている。そして経済の長期低迷により、技術者を蔑ろにしたツケで技術も失われつつある。

 3A社会が、3Yない世の中を生んだとしたら、我々現代人の行動規範を、安心、安全、安定から改めなければならない日が、近い将来、到来するのだろうか。


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