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あまり語られない4%ルールの盲点


毎月キャッシュフローが得られない不安感

 今年から始まった新NISAのつみたて投資枠の資金流入ランキングを見ると、悉く外国株式のインデックスファンドが上位にランクインしている。

 金融資産所得で経済的な自由を得ようと画策している方は、ほったらかし運用でトリニティスタディの4%ルールに則って取り崩せば良いと、出口戦略を漠然と考えている方が多いように感じるが、毎年4%ずつ取り崩す理論上の正解と、心理的な正解が必ずしも一致しない可能性がある。

 それを理解した上で、高配当銘柄や、REITなどのインカムが得られるアセットを検討する一助となれば幸いである。

 私はインデックスファンドの取り崩しと、高配当銘柄の配当の半々で生計を立てて1年が経過したが、経験して感じたことは、年に一度、4%取り崩して1年間過ごすことへの、心理的なハードルの高さを感じたため、パッシブ運用の出口戦略は、よくよく考えた上で投資方針を決めるべきだと感じた。

 というのも、生活費用の25倍の金融資産をコツコツ貯められる部類の人は、家計管理がしっかりできていることから、毎月の家計簿上で、プラスのキャッシュフローがないことへの不安感が、取り崩す抵抗感よりも大きいことを発見したからである。

 理論上は年間に必要な生活費を取り崩している訳で、年間収支で見ればトントンになり、残高が不足する事態は避けられる筈だが、それにも関わらず、定期的に口座残高が減算されるだけだと、心理的に辛いものがある。

 受取配当と半々にしていても、それを感じる節があったため、インデックスファンド取り崩しだけでFIREを考えている人が、キャッシュフローのプラスが年に一度だけで耐えられるものなのか、いささか疑問である。

不安感の正体

 なぜ、年間収支ではトントンか、むしろ多少の余力があるにも関わらず、不安感がついて回るのか。仮説としてはいくつかあるが、

・サラリーマンとして生活してきた期間が長いことから、毎月一定のキャッシュフローが得られる状態にすっかり慣れており、それが喪失したことに違和感が生じるため。

・年間生活費用の25倍を早期に貯められる優良家計で蓄財に励んできた人ほど、毎月の家計簿が黒字で終わるのが当たり前であり、年に一度しか取り崩さないと年間収支では黒字でも、取り崩さない11ヶ月は支出がそのまま赤字として計上される。そのことに慣れておらず、持続するのか不安になることで、感情的にネガティブになり、その状態から逃れたくなるため。

・そもそも我々が生活している社会システムそのものが、1ヶ月毎に賃金をもらう前提のもとで、家賃や水道高熱通信費などを、1ヶ月毎に支払う月払いが常識となっていて、収支のバランスを取ろうとすると、必然的に定期的なキャッシュフローが必要な構造となっており、4%ルールがそれに抗った周期であるため。

 対策として、
・年初に取り崩したうえで、家計簿は年間収支でしか見ない。
・年払いが可能なものは、極力年払いにする(現在価値相当の割引があるとなお良い)
・高配当銘柄やREITを活用して、定期的にインカムが得られる手段を複数用意する。

 上記が小手先の落とし所としては妥当だと考えるが、パッシブ運用一筋で資産形成した人の場合、個別株の運用経験が乏しいことが想定されるため、最後の高配当銘柄やREITを活用する部分に関しては、損失を被るリスクもある。

 やはり、将来的に金融資産所得で食っていく覚悟を決めるのであれば、相応の金融リテラシーと投資経験を有しておくに越したことはないため、面倒でも資産規模が小さいうちから、様々な運用方法を試した上で、自分に合った手法を確立していくことが重要だと考える。

お金を気にせず働いた方が楽?

 資産運用ひとつ取っても、株式、債券、不動産(REIT)、金、投資信託、ETF、先物、FX、暗号資産と、伝統的な資産から、投機まがいなものまで、バリエーションがあるのに、そこから更にファンダメンタルズ分析やら、テクニカル分析なんて、色々用語や意味を覚えて、頭を使ったところで、稼げる保証などないのだから、残業で稼いだほうが手っ取り早い。

 おそらく高卒で社会に出た当時の私なら、そう考えただろう。今の私がタイムリープして何を伝えても、「未来から来たとか胡散くせぇw日本語でおk」とまともに取り合わず、過労死ラインまで残業しただろう。その方が圧倒的に楽だからだ。

 「王道」というのは、「安易な方法」、「楽な道」、「近道」の意味を持つ。日本社会ではサラリーマンを養成するために、子どもに学校教育を受けさせることが国民の義務となっているのだから、良い大学を出て、良い会社に就くのが、人生の王道である。

 一方で、生活費用の25倍をせっせと貯めて、それを運用して得られる名目値−インフレ率=実質値ベースで4%の資産所得を取り崩せば、25×0.04=1年分の生活費が賄える4%ルールで、不労所得で食っていく生き方は、我々が暮らす日本社会にとっては「邪道」そのものだろう。

 死んだ魚の目をして満員電車に揺られ、クソみたいな労働から逃れたい一心で、FIREムーブメントが礼賛されている節はあるが、王道な社畜人生に抗うことで、社会との接点の多くを失う。

 仕事一筋で定年で全てを失い、瞬く間にボケる老人ではないが、擬似的に社会から隔絶された環境下で、果たして自分自身が正気を保てるのか。という観点が不足している方が多いと感じる。

 私のように身体が壊れて、なし崩し的にドロップアウトしたり、ニート適正がある訳でもない真っ当な方は、お金のことを気にせず、好き勝手にゆるく働き、社会との接点を保持するくらいがちょうど良く、精神的に楽なのかも知れない。


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