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駅窓口廃止に反対する代償?


採算性と公共性は両立しない。

 先日の大雨の影響により、指定席を予約していた列車そのものが運休になった。元鉄道員として、WEBや券売機で済ませられるものは、基本的にそれで済ませる。

 しかしネット予約した割引きっぷの類は、発券後の乗車変更を受け付けない代わりに価格を抑えているため、このようなイレギュラーな事態は指定席券売機では対処できず、わざわざ窓口で並んで変更して貰わない限り、どうすることもできない。

 そうして渋々とみどりの窓口に並ぶが、往々にして券売機でも出来ることや、手元にあるスマホで調べれば解決しそうな要件で並ぶ人が多数派であり、駅員時代を振り返ると、経験上、私のように必要に迫られて窓口に出向く人は少数派である。

 指定席券売機のUIがユーザーフレンドリーではないことや、そもそもの運賃制度が複雑怪奇であることが要因と思われるが、多少のリテラシーを身につけさえすれば、事前に旅程が明らかなものは、ネット予約することで割引の恩恵が受けられる場合があり、普通に乗るよりもお得だったりする。

 そんなインターネットやキャッシュレス全盛の時代に、わざわざ対面で、それも多くは現金払いでのやり取りで切符を購入して、かさむ交通費で家計が苦しいと嘆く前に、知恵を絞れる部分があるのではないかと思う節はある。

 とはいえ、国民の半分は偏差値50以下(相対評価だから当然ではあるが…)であることは事実で、日本社会あるあるの弱者を切り捨てられずに、下に合わせる制度設計でコストばかりが膨らむ典型例が、鉄道の窓口と言えるだろう。

 税金で運営している公共施設ならともかく、一応は民営化した採算性を求められる民間企業に、コストの掛かる公共性の負担を求めれば、無理が生じるのは明白である。

事業者任せではなく、立ち位置を明確に。

 現にコロナ禍でJR私鉄各社の、2021年の決算は軒並み赤字と散々たる結果だったことからも、旅客が居ようが居まいが、定期的に支払わなければならない固定費用が莫大で、それなりの運賃収入が得られなければ経営としては成り立たない現状がある。

 とはいえ、公共交通機関としての役割を担わせるのであれば、特に採算の合わない地方路線は、国や行政側が金銭的な支援を行わなければ、廃止せざるを得ないだけでなく、自然災害などの何らかの拍子に復旧費用を捻出できずに、そのまま無くなるケースもちらほら出始めている。

 そもそもバス事業者なら、道路整備は行政側が担っているし、航空会社なら、そもそも走行に必要な設備は両端の滑走路だけであり、その整備も国や地方自治体が担っている。

 鉄道会社だけが軌道敷や駅などの、莫大な地上設備の全てを事業者側で維持管理するのは、人口減少時代でそれなりの利用者が見込めない地域ほど困難を極める。

 営利企業として採算を重視するのか、公共事業で地域の足として移動手段を確保するのか。国は鉄道の立ち位置、在り方を明確にしなければ、地方で公共交通を必要としている、いわゆる交通弱者ほど不便さに直面する未来となる可能性が高い。

線路の分断は貨物網の分断を意味する。

 殆ど利用されておらず、空気輸送などと揶揄される状態なら、バスに代替されてやむなし。そう言った意見も散見されるが、それを選んだ結果が現在、北海道が置かれている状況であり、数年後に到来するであろう地方の将来像とも言える。

 日本は鉄道と言うと旅客輸送のイメージが強いが、世界的には貨物輸送が主軸となっている国が多いことは、世界の乗降客数ランキングを見ても明らかである。

 それがコロナ禍以降、旅客輸送の需要そのものが減少したことで、採算の合う都市部の路線で、採算の合わない地方部の路線を維持することが難しくなってしまった。その影響が駅窓口の無人化や、列車のワンマン運転化につながっている。

 減便による積み残しは論外だとしても、それくらい大胆なコストカットを行わなければ、路線網を維持することができないレベルで、経営上の厳しさに直面している。

 とはいえ、積み残しで乗れないなら、鉄道利用者の減少は避けられず、より収支が悪化して減便…と、負のループになることは想像に難くなく、ただでさえ長期的には人口が減少するのだから、LTV(顧客生涯価値)が見込める顧客が離れるようなことを、仕方なしとはいえ事業者側が自ら行なっている状況は「論外」と記さざるを得ない。

 そうして時間経過とともにジリジリと悪化の一途を辿る、地方の路線バスのような状況で、路線網が維持できなくなると、貨物輸送に支障が出るだろう。

 この問題は既に北海道が直面しており、食料自給率が低い日本で、農作物の生産地域から、全国各地へ大規模輸送が可能な流通網が消える損失は計り知れない。分割民営化の功罪でもあるが、JR貨物に各地方の軌道設備を維持できるだけの体力はない。

 だからこそ、現状では利用者一人ひとりが窓口廃止などのコストカットに理解を示さなければ、いずれ廃線の危機に瀕し、通販の送料が販売者側で負担できなくなるほど、輸送コストが跳ね上がる形で、手痛いしっぺ返しを食らうだろうが、構造的には共有地の悲劇感が強く、リテラシーのある側がいくら嘆いたところで、回避できない未来以外にないのかもしれない。


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