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何も学ばないのをオタクって言う。

僕はオタクじゃないです。

 上記2つは、スタジオジブリのドキュメンタリー映画「夢と狂気の王国」で、零戦オタクを嫌悪する宮崎駿さんが言い放った言葉である。

 そのカットの直後に、零戦の模型片手に「グワァーン、ヴォーン」「インメルマンターンだよね」と、まるで子どものようにはしゃぎながら、先日、バイトテロの被害を被った庵野秀明と、ワケガワカラナイ横文字でガチな会話していたカットを繋げて来た、悪意ある編集に腹を抱えて笑ったのは私だけではないだろう。

 つい最近、写真撮影を趣味にする鉄道マニア、いわゆる撮り鉄が軌道敷地内で撮影したことで、列車が非常停止したことが話題となっているが、宮崎駿さんの言葉を借りるなら、彼らがオタクなのだろう。

 私自身も写真を撮ることは好きで、マニュアル設定で撮影したい場面で、SONYのRX10M3が週に何回か稼働するが、被写体が明確でなければ決して安価な機材ではないため、安易に持ち運ぶことはなく、基本はiPhoneだと思っていただければ良い。

 毎日更新しているnoteのサムネイルも、これまで自前で撮影してきたストックから使用している。サムネイルに使えそうな、それっぽいカットを1年で365枚用意することなど、造作もない程度に写真を撮っていると思っていただければ、趣味としての熱量に匹敵することは想像に難くないだろう。

 自分自身はレンズ沼にハマらないために、あえてネオ一眼と呼ばれる、レンズがはめ殺しで、広角から望遠までカバーできる一眼レフと同じ操作ができるコンセプトのコンデジを選んでいるが、それでも撮影機材の知識もゼロではない。だからこそ、軌道敷地内に立ち入って撮影した3人組のひとりが、白レンズと呼ばれる、キヤノンの望遠に特化した良い機材を持ち合わせておきながら、ツレと一緒に安直に軌道敷地内に立ち入って、アングルを探ったのは鉄道事業者に対しても、カメラに対しても敬意が感じられず遺憾である。

 僕はオタクじゃないです。

もっと知れよ、勉強しろよ、大きくなれよ。

 タイトルはマネーの虎の番組内で、南原竜樹さんがフランスロール屋さんの回で、オーナーがキッチンカー不足が、経営上のボトルネックになっている。南原さんの伝手で車を仕入れられないか?と相談した際の返答の一部だ。

 尤もらしいことを言っているが、重要なのはそこじゃない。だからこそ、「もっと知れよ、勉強しろよ、大きくなれよ。」と激昂したのである。

 話をオタクに戻す。なぜ何も学ばないのをオタクと言うのか、宮崎駿さんは明言していない。

 私の解釈としては、興味を持った対象物に対して、その全部を知ろうとするのではなく、自分の都合の良い部分だけを切り取って、視野が狭い状態でその全部を理解した気になって、何も学ばなくなるのがオタクだと言いたいのだろう。

 その観点だと、撮り鉄のオタク率は高いように思える。これは私が元鉄道員の経歴から、鉄道全般の予備知識を持ち合わせていることで、それなりの解像度で分析を試みれるから、記せることなのかも知れない。

造詣が深いと、近視眼的にはならない。

 故意か過失かは別にしても、撮り鉄が常軌を逸した迷惑行為に至るメカニズムとしては、「いかに貴重な列車運行の組み合わせで、見栄え良く撮るかに心血を注ぎ、結果として視野が狭くなる」の一点に恐らく集約される。

 貴重な列車運行の組み合わせは、イベント列車、ラストラン、新型車両が営業列車として運行する前の試運転の場合が特に顕著で、ヒトが一度きり、もしくは期間限定に弱いのは、マーケティングの希少性の原理からも想像に難くない。

 とはいえ、普段は走らない珍しい列車らしいから、記録として撮っておくか程度の温度感であれば、一般常識の範疇で撮影に至ることが多いため、大きなトラブルには発展しない。

 しかし列車だけを見栄え良く撮ろうと思うと、電車であれば電化設備で架線柱があることから、それが被写体と重ならない場所を選びたくなる。

 鉄道車両の長さは、規格にもよるが在来線が1両20m。新幹線が25m。それをいくつも連結した、100mを超える物体だけを、キレイに撮れる場所は限られる。

 そのため同じことを考える人が、撮影スポットとして整備されていない場所に集中して、何かの拍子にトラブルが発生する。

 私は人混みが何より嫌いな天邪鬼なため、競合するような被写体を撮りたい欲求が湧いたとしても、他人と同じ行動を取りたくないため、安直に思いつく場所ほど選ばない。

 むしろマイナーな場所から、いかに技量でそれっぽく仕上げるかに燃える身としては、もっと知れよ、勉強しろよ、大きくなれよ。と大きいお友達に対して激昂したい気もするが、そもそも他人と接触しないのと、これ以上図体だけ大きくなられても困る気はする。

 本当に鉄道が好きで造詣が深ければ、列車さえ見栄え良く撮れればそれで良いと、近視眼的な行動には至らないと思う。オタクが学ぶ日は来るのだろうか。


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