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JR特急「乗継割引」全廃で実質値上げ...


乗継割引とは。

 9/22、JR北海道、東日本、東海、西日本の4社が、来春のダイヤ改正の時期に、新幹線と在来線特急を乗り継ぐ場合に、在来線の特急料金が半値となる「乗継割引」を廃止することを発表した。

 四国にはそもそも新幹線がなく、九州新幹線も開業当初から乗継割引を設定していないため、4社の廃止は制度そのものが来春で全廃となることを意味する。

 そもそもJRの切符のルールである、旅客営業規則が複雑怪奇すぎるが故に、大衆に大きな影響はないと思われるが、鉄道での旅行に慣れている人には鉄板の、知って得する数少ない制度だったがために、残念がる声が散見される。

 そもそもこの制度は、国鉄時代に新幹線が開業したことで、在来線特急の運行区間が縮小したこと。

 特急券も乗車券同様、初乗りが最も割高で、長距離が割安となる遠距離逓減制を採用していること。

 そして、1列車につき1枚の特急券が必要な制度であること。

 上記の3点から、新幹線開業で運転区間が縮小した在来線特急と、新幹線を乗り継ぐことは、在来線で通しで乗れていた時よりも、特急料金が大幅に高くなることを意味したため、負担軽減措置として設けられた制度の色合いが強い。

 しかし、2024年春の北陸新幹線延伸後には、48都道府県のうち、33都道府県に新幹線駅がある状態で、ないのは、茨城、千葉、山梨、三重、奈良、和歌山、鳥取、島根、香川、愛媛、徳島、高知、大分、宮崎、沖縄の15県と、割合で見れば少数派となる。

 そんな現代と制度設計時では、時代背景が全く異なることから形骸化しており、切符のルールを知っている旅好きやマニアが、在来線特急をお得に乗るために利用するだけの、抜け穴的制度となっていたのが実態だろう。

新幹線だけでの移動とは違った良さ。

 見出し画像の特急券も、2021年春の制度縮小で使えなくなった手法だが、東京から静岡方面に向かう際に、東京駅で東海道新幹線には乗らず、並行在来線の特急踊り子を利用することで、在来線のグリーン料金よりも安い金額で特急に乗れる。

 そのうえ新幹線に乗る距離が減る分、料金も安くなる場合があるため、目的地にもよるが、新幹線だけ乗るよりも、特急+新幹線で乗継割引を使うほうが、2つの列車を使うにも関わらず、トータルの切符代が安くなる逆転現象が生じる区間もあった。

 安いと言っても数十円〜数百円レベルで、乗り換えは面倒で時間も掛かる。しかし、せっかく小田原で乗り換えるなら、途中下車して箱根でも観光してから…という、単に新幹線だけで移動するだけでは、味わうことのできない旅ができる良さがあった。

 新幹線→在来線特急はその日のうちに乗り継げば良く、乗継駅で半日近く観光することも多かった。驚くことに在来線特急→新幹線の場合は翌日でも適用可能と、ここにも当時、新幹線の本数が限定的で、在来線特急の方が夜遅くまで走っていた、今とは真逆な時代背景が窺える。

複雑で金にならない制度は取りやめたい。

 JRではないものの、元鉄道員の出自をいいことに、旅客営業規則のウンチクを垂れ流したが、大衆からすれば「知らんがな」としか言いようがない程度に、ワケガワカラナイ制度だろう。

 前身が国鉄なだけあって、役人にありがちな、曖昧模糊かつ複雑怪奇な造りとなっていて、ユーザーフレンドリーの対極に位置する制度なのは間違いない。

 JR時刻表の最後の方に、「きっぷあれこれ」という欄があり、十数ページに渡って、JRの運賃・料金制度を簡潔に記しているが、乗継割引はその中の1ページに過ぎない。

 そんな複雑なルールを設けたところで、直接収益に結びつかないどころか、現場で取扱う社員の人件費や、教育コストの方が高くつくため、複雑で金にならない制度は取り止め、コロナ禍で厳しくなった経営状態を、コストカットと実質値上げにより、少しでも建て直したいのがJRの本音だろう。

運賃・料金制度の抜本的な見直しを。

 しかし利用者目線で考えてみると、今やLCCや高速バスの台頭により、長距離移動における鉄道の独占的地位は崩れており、単なる実質値上げでは利用者が競合企業に流れる可能性が高い。

 減収→コストカット・値上げ→利用者離れ→減収と負のループに陥る可能性が高く、元業界人としては悪手としか言いようがない。

 今、鉄道業界に必要なのは、枝葉末節に過ぎない小手先の対応で、切羽詰まった状況で精一杯やってます感を出すのではなく、国交省や同業他社を巻き込む形での、MaaSを見越した抜本的な制度設計の見直しではないだろうか。

 例えば複数の運賃・料金表による遠距離逓減制ではなく、タクシーを参考に、初乗り運賃(料金)+加算運賃(料金)を基本として、これをJR、私鉄、公営問わず、国内の全ての鉄道事業者で統一する。

 初乗り運賃(料金)を200円前後で設定し、東京メトロのように、1時間以内に乗り継ぐ場合は1乗車とみなして、2乗車目以降は加算運賃のみの差額精算とすれば、在来線と新幹線、JRから私鉄、地下鉄を乗り継ぐ場合でも割高にならない。

 加算料金は距離と時間の二軸で算出。距離は直線距離で10円/km。時間はタクシーと逆で、表定速度ベースで85km/h※超の、速達性の高い列車で移動した場合は10円/km程度上乗せすれば、特急料金の仕組みが代替可能だろう。

 ※表定速度85km/hの根拠は、札幌-新千歳空港間の快速エアポートが84km/hと、料金不要列車の中で最速と思われるため。

 価格設定は一例で分かりやすい適当な数字を当てたが、上記のような仕組みを鉄道事業者全体で採用し、ゆくゆくはバス事業者などに波及させれば、日本中の公共交通網なら、どれで移動しようが移動距離(km)×10円+200円の明瞭会計かつ、ユーザーフレンドリーな制度設計となるのではないだろうか。

 初乗りの200円は電話のユニバーサルサービス料みたく、公共交通の維持に必要と思われる所に分配すれば、新幹線の開業で並行在来線の採算問題を行政に押し付け、廃線を余儀なくされることで、貨物網が分断する危機は防げるかも知れない。

 事業者は一律で旅客1人あたり1kmにつき10円しか取れないため、効率化して輸送密度を高めるインセンティブが働く。人口減少時代で、先行きが決して明るくない鉄道には、これくらいドラスティックな見直しが必要ではないかと、元業界人として考えてしまう。


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