無税国家は雑な論理だと言う無税国家不可能論に対して反論する~MMTの租税貨幣論の正しい捉え方で無税国家は論理的には実現可能である~

 私は兼ねてから無税国家は可能であるという主張を繰り返している。それに対して、無税国家は可能というのは雑な論理だとのお叱りの声を積極財政派からも頂いたので、今回はその声にお応えして、逆に積極財政派なのに無税国家不可能論こそ雑な理論ではないかということを述べていきたいと思う。
 なお、良く勘違いされがちではあるが、私自身は、無税国家は可能であると言っているだけであって、決して無税国家は好ましいとは考えていない。何故ならば、税金とは政府の財源ではないが、税金は格差を是正するために必要ものであるからだ。中間層以下は一切の無税でも良いと考えるが、富裕層には税金を課すことで格差を是正すべきである。
 もっと言うと、富裕層にまで無税にしてしまうと、より一層、富裕層のお金の力によって、政治権力が富裕層に集中してしまうのではないかという民主主義への危機感から富裕層課税は必須のものであると考える。要は富裕層が持つお金の力によって、政治が支配されてしまうということだ。そうした富裕層への権力集中を抑制するために、富裕層のお金を間引くというのが、実は税金の役割なのである。

 さて、無税国家不可能論については、大きく次の2つの観点から述べられていると言えるだろう。1つ目は無税国家にするとインフレが加速してしまって、ハイパーインフレになるという論理である。もう一つはMMTの租税貨幣論の観点から無税国家にすると、誰も通貨を使わなくなり、通貨が紙屑になるという論理である。今回はそれぞれの無税国家不可能論に対して反論していきたい。

・インフレ率を加速させないで無税国家にする方法

 まず、無税国家論への最もポピュラーな反論として挙げられるのが、無税国家にするとハイパーインフレになる論である。しかし、この論理に対しては本noteの初回の投稿にて、内閣府の計量シミュレーションモデルの試算を用いて、無税国家にしても言うほどインフレにはならないことを既に論じた。
 日本の国税に限って言えば、国税収入は約65兆円ある。この税収を0円にする場合、まず「財源はどうするのだ!?」と言われそうだが、財源は65兆円分の国債発行をすれば良いだけである。それに対して「将来世代にツケを残すのか!」と反論して来るのであれば、だったら日本銀行が同額の国債を市中から買い入れてしまえば、将来世代のツケは生じない仕組みとなっている。国債の返済期限が到来したら、新規国債への借り換えを政府と日銀の間で未来永劫続けるだけだ。また、日本銀行による国債の買い入れを行ってもハイパーインフレになるどころか、インフレにすらならなかったことは既にアベノミクスの異次元の金融緩和で実証済みとなっている。
 
 それで65兆円と聞くと、物凄く巨額の減税額に思えるかもしれないが、日本のGDPは540兆円もある。それに対して、65兆円分の減税をしても、GDP全体から見れば12%程度の金額に留まるレベルである。その程度の金額を減税したところで、年率13000%のハイパーなどは到底起こり得ない。全てが価格に転嫁したとしても年率12%のインフレ上昇に留まるレベルだ。
 しかも、実際のところは内閣府の計量モデルでも示されている通りに、減税分全てがインフレに転嫁されるわけではない。当然、供給能力の余剰もあるであろうし、所得税などは減税された分が消費ではなく貯蓄に回ってしまえばインフレに転嫁されることも無いのである。だから、無税国家にしてもインフレ率は2~3%程度の上昇に留まるというのは妥当な線であると言える。無論、ここに地方税や社会保険料まで含めれば、さらに金額は大きくなるので、よりインフレ率は上昇するであろうが、それでもハイパーインフレと呼ばれる13000%までは金額的には到底達し得ないのである。
 
 さらに無税国家を可能とするのに、より急激なインフレを引き起こさないようにする確実な方法がある。それは無税国家に向けて、毎年数%ずつ徐々に減税していけば良いのである。その時の供給能力に合わせた形で減税を行っていけば、高インフレを引き起こすことなく、納税する金額も減って行き、最終的には無税国家を実現することが出来る
 恐らくこの手法を用いれば、20~30年以内には世界各国で無税国家を誕生させることも可能ではないだろうか。インフレ率は需要と供給の関係で決まるのだから、これからAIやロボット化によって、格段に供給能力が引き上がって行くことも更に加味すれば、より一層、無税国家は現実味を帯びてくることになるであろう。
 この理屈に対しては、少なくともMMTの貨幣論を理解した積極財政派であれば反論は出来ないのではないだろうか。ただ、MMTの貨幣論を理解した者であれば、恐らく次のように言って来るであろう。「租税貨幣論に基づき無税国家は不可能である」と。次はこの租税貨幣論に対して反論をすることで、無税国家が可能であることを述べていきたい。

・MMTの租税貨幣論は税金が無くなれば貨幣が駆動しなくなることまで言えるのか

 MMTが強く主張する「租税貨幣論」とは、政府が国民から税金を徴収することで、その国の貨幣が駆動、流通する裏付けとなるという論理である。MMTは貨幣の仕組みなどは事実に基づいた記述が多く見られるので、ちゃんと理解出来る者であれば全く反論の余地があるものではないが、この「租税貨幣論」に関しては、あくまでも一つの「仮説」に留まるものではないかと考えられる。本当に租税が貨幣流通の裏付けになっているのかを言い切ることは難しい。また、仮に言えるとしても、それは十分条件であって必要条件には果たして成り得るのだろうか。あくまでも、租税とは貨幣を駆動させる一つの要素であり、貨幣を駆動させるのには他にも様々な要因が絡んでいるというのが妥当な見方ではないかと私は考える。
 そう考えれば、税金が無くなれば貨幣が駆動しなくなるという必要条件化された租税貨幣論まで成立し得るのかは非常に怪しい。そして、この理論はより現実的な側面から見れば、様々な突っ込みどころが生まれて来る。

 まず、第一に無税国家にした瞬間にその国の全ての人々が、自国通貨を使わなくなるなんてことは、果たして現実的に起こり得ることなのだろうか。今まで使っていた自国通貨を無税国家が成立した瞬間に国民が放棄することなど普通は考えられないのではないか。
 また無税国家にした瞬間から自国通貨を手離さなくても、徐々に外貨が流通するようになるとMMTerは述べていたが、それにも懐疑的である。無税国家にした後には、お店などで日本円だけでなくドルなどの外貨決済が導入されるようになるとでも言うのだろうか。
 もっと言うと、無税国家になると外貨が流通するようになるということだから、この理屈では自国通貨が安くなって場合によっては通貨の暴落も起きるということになる。MMTでは財政赤字は問題ない、財政支出の唯一の制約はインフレだと主張して来たわけであるが、無税国家では自国通貨が暴落するとなると、MMTには実はインフレ以外にも、為替レートという新たな制約が誕生することにもなってしまう。
 そういう意味で、MMTの唯一の制約はインフレと、無税国家では自国通貨が暴落というのは、矛盾した論理になってしまうのではないかと指摘したい。MMTerは無税国家のことになると、何故か財政破綻論者と同じような態度を表してしまっているように映るところではある。

 さらに無税国家になれば外貨が流通して自国通貨が暴落すると言うのであれば、では無税国家ではなく人頭税1円国家であれば、引き続き問題なく自国通貨は流通することになるのだろうか。租税貨幣論の観点で言えば、1円でも税金があれば、税は貨幣を駆動させると言えてしまうのではないだろうか。もし、1円ではダメだとMMTerが言うのであれば、では納税額がいくらならば貨幣は駆動するのか、1万円ならばOKなのか、10万円ぐらい取らないと貨幣は駆動しないのかといった、いよいよ納税額という金額ベースの話にもなって来る。もっと言うと、全国民が納税しなければ貨幣は駆動しなくなるのか、例えば日本国民のうち1億人が一切税金を納めなくても、残りの高額所得者の2000万人さえ納税すれば貨幣は駆動するのか。納税者の人数は上記の例の2000万人よりも、もっと少人数でも貨幣は駆動するのかという、納税者の割合や人数の話にもなって来るのである。

 以上のように、租税貨幣論を税金が無くなれば貨幣は駆動しなくなる論理と捉えると、様々な懐疑点や論理に綻びが見えて来るものとなる。そのようなことを踏まえると、やはり租税貨幣論とは税金は貨幣を駆動させる一つの要素に過ぎず、仮に無税国家になっても貨幣は駆動し続けると捉えるのが妥当ではなかろうか。もし無税国家になった場合、インフレの上昇以外に、一体どのような問題点が生じると考えるのか、MMTerは明確に示してもらいたいものである。

 最後に、これまで述べてきた無税国家不可能論に対する反論をまとめると下記の通りとなる。

・無税国家にするとインフレ率が高くなる!
→その時の供給能力を鑑みながら、徐々に減税をしていけば、高インフレになることなく、数十年後には無税国家が現実のものとなる。

・MMTの租税貨幣論から無税国家にしたら貨幣が駆動しなくなる!
→租税貨幣論は、税金は貨幣を駆動する一つの要素と捉えるのが妥当であって、無税国家になったら貨幣が駆動しなくなる論理ではない。無税国家を否定する論拠としては乏しい。

・池戸万作は無税国家にせよと主張している!
→私は、無税国家は論理的に「可能」と言っているだけであって、実施すべきとは言っていない。むしろ、富裕層や大企業に対しては公正な民主主義の実現という観点から、現在よりも税負担を重くすべきだという主張をしている。

 以上のように、無税国家の実現は可能である。しかし、無税国家は決して好ましいことではない。これが私の見解である。また、無税国家は雑な論理だと切り捨ててしまって無税国家の実現可能性を一切考察しないことこそが、雑な論理に陥ってしまっていないかということも、最後に付け加えて申し述べておきたい所存である。

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