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Sansanのリサーチ組織のゼロからの立ち上げ、そして開発現場でリサーチが当たり前になるまで【#ResearchConf 2023 レポート】

RESEARCH Conferenceは、デザインリサーチ、UXリサーチをテーマとした日本発のカンファレンスです。より良いサービスづくりの土壌を育むために、デザインリサーチやUXリサーチの実践知を共有し、リサーチの価値や可能性を広く伝えることを目的としています。

本記事は、Sansan株式会社・大泊 杏奈さん、倉内 香織里さんのセッション『0からスタートしたリサーチ組織の立ち上げ。開発現場でリサーチが当たり前に行われるようになるまでの歴史』の模様をお届けします。

Sansanのリサーチ組織「UXリサーチセンター」立ち上げから2年。客観性と中立性を担保した調査を行うため、独立した組織として会社に存在しているUXリサーチセンター(プロダクトマネジメント室)ですが、会社全体でリサーチの価値が理解され、リサーチャーへの相談が尽きない環境作りに成功しています。

RESEARCH Conference 2023のテーマは「SPREAD 広げる」。UXリサーチセンターがどのように組織へリサーチ文化を広げてきたのか、具体的な施策や事例と共にご講演いただきました。

■登壇者

大泊 杏奈
Sansan株式会社
UXリサーチセンター UXリサーチャー

マーケティングリサーチ業界での経験を経て2021年からUXリサーチャーとしてSansan株式会社に入社。現在はEightおよびContractOneのリサーチ担当をしている。

 倉内 香織里
Sansan株式会社
UXリサーチセンター UXリサーチャー

2019年12月にSansan株式会社へ入社し、マーケティング部でナーチャリングやコンテンツの企画を担当。2021年2月より、全プロダクト横断でUXリサーチを担当する「UXリサーチセンター」立ち上げに参加。現在は主にSansanプロダクトの調査を担当している。


独立した組織体制とOKRの変化でミッションを実現

「出会いからイノベーションを生み出す」というミッションのもと、名刺管理から営業を強くするデータベース「Sansan」、請求書のDXサービス「Bill One」、契約書のDXを後押しする「Contract One」、個人向けの名刺アプリ「Eight」などビジネスに欠かせないプロダクトを展開しているSansan株式会社。

大泊さんと倉内さんは、UXリサーチセンターに所属しています。Sansanが開発・提供するさまざまなプロダクトのリサーチを一手に引き受けている組織です。

UXリサーチセンターのミッションは図のように定められており、


  • 定量・定性の両側面から専門性を持つ

  • 客観的な視点・中立的な立場でリサーチする

  • プロダクトの意思決定を支援する

に重きを置いてリサーチと向き合い、プロダクトの成長に伴走しています。

UXリサーチセンターが所属するプロダクトマネジメント室は、ビジネス統括本部と技術本部とは独立した組織。このような組織体制をとっているからこそ、客観的な視点・中立的な立場からのリサーチが実現しているのだそうです。

UXリサーチセンターは、半年ほどの準備期間を経て2021年6月から本格稼働。「フェーズに合わせてOKRを変更し、社内へのリサーチ文化の浸透に取り組んできた」と大泊さんはいいます。最初の9ヶ月間のOKRは、案件本数に重きが置かれていました。

「とにかく『開発現場でリサーチを使ってもらう』ことに注力していました。リサーチャーである私たちの経験も増やしたかったんです。4ヶ月ほど経過したころには、1クォーターで約30本の調査を実施できるようになっていました」と大泊さんが振り返ります。

案件本数のOKRを達成したことにより、新たな体制へと変更します。それが、リサーチャーとプロダクトの関わり方を従来とは大きく変える「プロダクト担当制」です。

それまでは案件の相談が来たタイミングでリサーチャーを都度アサインしていましたが、「プロダクト担当制」ではプロダクトごとに担当のリサーチャーをつけ、リサーチセンターからも調査の提案ができる体制にしました。

「OKRも質に重点を移しました。具体的には、プロダクトの事業部レイヤーからの評価をOKRにおいて、私たちが行ったリサーチがプロダクトの進化にしっかり寄与できているのか見ていきました」と、大泊さんが語ります。

ミッションとして重視していた「定量・定性の両側面」。その両輪が揃った次のステップとして、本格始動の約1年後のOKRではスピードを追求することになりました。

「調査数はたくさんあっても、開発とリサーチのサイクルが合わずに、結果が意思決定に寄与できない場面もあった」と大泊さんは振り返ります。ミッションの「プロダクトの意思決定を支援する」リサーチを実現させるためにも、スピードを重視したといいます。

現在も、1つのリサーチに対して8営業日内に必ず結果を出すことを重視し、プロダクト担当制を採用しながら、スピードも担保し、日々案件と向き合っているそうです。

プロダクト担当制により、他部署との連携が強化

UXリサーチセンターは、プロダクト担当制に移行したあとも、事業部やメンバーとの連携を図るため、さまざまな取り組みを行っています。

特に、

  • 物理的距離を縮める

  • 情報キャッチアップ

  • リサーチャーの存在感を示す

ことを意識しているとのこと。

物理的に距離を縮めようと、ビルやフロアが違ってもプロダクトマネージャーの近くの席に移動して仕事をしたそうです。また、プロダクトの最新情報をしっかりキャッチアップするため、開発の定例会議や事業部の全体会議に積極的に参加したとのこと。さらに、リサーチャーの存在感を示すため、リサーチャーからのトピックスの時間を確保し、事業部会で調査の報告も行うこともあったそうです。

これらの施策はシンプルで簡単でありながらも、効果は大きかったとのこと。「結果として、事業部メンバーと心理的距離が縮まり、『困ったらまずはリサーチャーに聞く』文化が醸成されたんです。さまざまな立場の方からの相談数が急激に増加しました」と、大泊さんは確かな手応えを感じたそうです。

さらに、プロダクト担当リサーチャーとして行った3つの取り組みも共有いただきました。

①リサーチ年間計画の作成
②報告会への巻き込み、リサーチャー視点での示唆とネクストの提案
③事業部のOKRに定点調査のスコアを含める、リサーチャー同士での情報交換

機能リリースを含む開発ロードマップに沿ったリサーチ年間計画があることで、技術本部との連携がより強固なものとなりました。さらに、案件が終わるごとにリサーチャー視点での示唆とネクストアクションの提案を報告会で実施。「開発メンバーの中にリサーチャーがいる」価値が、組織で理解されやすい状態に変化したそうです。互いに良い影響がもたらされることとなりました。

事業部には、プロダクト担当のリサーチャーが、開発やマーケに関わる調査をしていることを認知してもらえたそう。「リサーチ結果をさらに知りたい」といった、フロントメンバーからの問い合わせも増えたといいます。

「リサーチセンターとしては、横断組織としての役割を果たしながらも、自分の担当しているプロダクトの調査にも他の事例を活かすことができて、相互に良い影響を及ぼせるようになりました」と大泊さんは振り返ります。


リサーチの文化が、会社全体へと広がっていくための3つのポイント

リサーチャーの働きかけにより、他部署との密な関係性を築くことに成功したSansanのUXリサーチセンター。その成果を会社全体に波及させようとした1年半の試行錯誤について、倉内さんからご紹介いただきました。

「社内認知を上げようと模索していた最初期にも、リサーチに興味を持ってくださっている方(リサーチ潜在層)がいたんです。社内で『リサーチって難しいの?』、『営業資料に使えるデータってないかな?』と質問されることが多々ありました。そこで、エンジニアが運営している公式ブログで、リサーチャーの取り組みを紹介し始めました」と倉内さんは当時を振り返ります。

しかし、公式ブログの読者は社外のお客様や採用候補者などが中心となっており、なかなか社内からの認知も上がりません。閲覧数が伸び悩んだことから、社内発信へと舵を切ります。

2022年1月、Slackの専用チャンネルを開設し、レポート投稿をスタートさせます。3行サマリー、リサーチャーの視点、Googleスライドで普段作成している画面をキャプチャーして、なるべく見やすく・読みやすいかたちでの共有を実施したそうです。

社内で行ったNPSの結果もそこで投稿し、さらに詳しく解説するイベントも開催。Slackの内容をオフラインへも連動させるかたちで社内周知を広げていったそうです。

大きいUI変更などがあった際は、プロダクトマネージャーやデザイナーも登壇する社内イベントも開催したそうです。「その場で質疑応答できる形式で、調査結果と、それを反映した機能開発を身近に感じてもらえるようにしていきました」と、倉内さんは運営のこだわりを語ります。

現在は、公式noteでの発信も行い、記事を読んだメンバーが社外へと拡散する二次作用まで生まれているそうです。

社内でリサーチが身近な存在となるためには、①壁を作らない、②「データ=私たちの仕事」を発信し続ける、③ユーザーやプロダクトのアップデートを促進の3つがポイントとなるそうです。

「リサーチャーの仕事の本質は、調査・分析して結果をみんなに伝えていくことではないでしょうか。UXリサーチセンターの外側に壁を作らず、さまざまな形で、私たちの仕事であるデータを発信し続けることがまず大切です。」と倉内さんは強調します。

レポートを通じて「ユーザーさんってこういうイメージだったけれど、全然違う動きをするんだな」や「UIってこのように決定されるんだな」「プロダクトってこんな風に開発されていくんだな」と、徐々に社内メンバーの情報がアップデートされていったそう。次第に「リサーチャーに相談してみよう!」という行動が自然と促されたのではないか、と倉内さんは語りました。

リサーチ組織の立ち上げを出発点に、連携する部署、そして会社へとリサーチ文化が広がっていく2年間。具体的な施策や事例を交えてご紹介いただいたSansan株式会社のセッションは、どのフェーズにあるリサーチ組織のリサーチャーにとっても示唆に富んだものだったのではないでしょうか。

▼今回の動画・資料
今回の動画と登壇資料がご覧いただけます。振り返りにご活用ください!

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[編集]若旅 多喜恵[文章]野里 のどか   [写真] リサーチカンファレンススタッフ


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