見出し画像

2社の事例からクロスボーダーなリサーチのあり方を学ぶ(齋藤 雄太さん、辻村 和正さん)【RESEARCH Conference 2022 レポート】

より良いサービスづくりの土壌を育むために、デザインリサーチやUXリサーチの実践知を共有し、リサーチの価値や可能性を広く伝えることを目的として5月28日にオンラインで開催された「RESEARCH Conference 2022」。

スポンサーとして、25社が開催の目的に賛同していただきました。また、実際にリサーチ業務に携わる社員の方が登壇し、カンファレンス参加者の皆さまが実務に取り入れられるリサーチの実践知や協業の形をご紹介いただきました。

本記事では、Coffee Break・Sponsor Sessionとして設けられたサイボウズ株式会社・齋藤 雄太さん『サイボウズにおけるカスタマーサクセス×UXリサーチの取り組み』、株式会社インフォバーン・辻村 和正さん『Making and Meaning - 作りながら考え、考えながら作る、日々の営為としてのデザインリサーチ』、2つのセッションの模様をお届けします。

まったく異なる2つのセッションから、リサーチの可能性や価値の大きさ、そして他業種との連携でそれらがさらに拡大することが伝わりました。

サイボウズにおけるカスタマーサクセス×UXリサーチの取り組み

■登壇者

齋藤 雄太 / サイボウズ株式会社 開発本部 デザイン&リサーチチーム UXリサーチャー
2021年6月、サイボウズにUXリサーチャーとしてジョイン。
現在は「kintone」というBtoBプロダクトの開発チームに所属し、製品改善のためのUXリサーチを行なっているほか、社内におけるUXリサーチの仕組み作りにも取り組んでいます。人間中心設計スペシャリスト。

「チームワークあふれる社会を創る」を理念に掲げるサイボウズ株式会社。「kintone」や「サイボウズOffice」などチームワークを支えるさまざまなサービスの開発、提供を行っています。多くの会社の働き方に寄り添っているサイボウズは、社内の働き方もユニークなことで有名。「働き方宣言」や「ウルトラワーク」など充実した制度が整っています。そのなかのひとつである「体験入部」から生まれた社内コラボ、その取り組みについて齋藤さんからご紹介いただきました。

気になる部署の仕事を一時的に体験できる体験入部制度は、メンバーのキャリア形成制度のひとつ。顧客対応を行うカスタマー本部のカスタマーサクセスメンバーが、開発本部に体験入部してきたそうです。開発本部には、エンジニアやデザイナー、そしてUXリサーチャーである齋藤さんが所属しています。

カスタマーサクセスでは「顧客対応の中で得られるお客様の声を、製品改善に活かしたい。けど、どう活かせばいいのだろう?」という課題があったそうです。一方で開発本部では、「さまざまな活用の仕方をされるBtoBサービスだからこそ、お客様の顔が見えづらい。もっと生の声を聞く機会が欲しい!」という要望がありました。「それぞれの強みを活かしあうことで、課題が解決し、製品改善に役立つはずだと思いました」と、社内コラボに意欲を見せた齋藤さん。

2か月間の体験入部で実際におこなわれた3つの取り組みをご紹介いただきました。

①カスタマーサクセスメンバーとの座談会でユーザー情報を収集
特定のテーマの座談会を開催し、カスタマーサクセスメンバーから顧客対応から得たユーザーの意見や行動を共有してもらう。ユーザーの不満や、サービスでつまづいたポイントの発見につながる。

②顧客対応への同席でユーザーの行動を観察
オンボーディングに同席し、可能な場合はヒアリングも実施する。設定したい状況下で行われるユーザビリティテストと違い、ユーザー自身の環境でのリアルな操作や試行錯誤の様子を見ることができる。また、複数回にわたるオンボーディングに同席することで、ユーザーの行動変化も観察可能に。

③カスタマーサクセス経由でのリクルーティングで被験者選定の精度向上
顧客対応中のユーザーを被験者としてリクルーティングしてもらうことで、ユーザーとの接点が増える。また、より顧客の状況が分かった状態でのリサーチができる。

カスタマーサクセスとの連携によって、リサーチがより深まったことがわかりました。また、カスタマーサクセスにおいてもプロダクト理解の促進やリサーチ手法を活かすことで顧客対応での質が向上するなどのメリットがあったといいます。

これらの社内コラボが生まれた背景として、サイボウズの情報をストックする習慣、それによって実現する部署を超えた連携がありました。リサーチ実施体制は組織文化とも関係性が強いようです。

最後に、本カンファレンス参加者にはこれからリサーチを実践したい方も多くいらっしゃることに触れ、「最初はなかなかリソースも限られているかと思いますが、社内にすでにある知見や接点を活用することで、ユーザー理解の精度は高まります」「社内リソースを最大限に活かし、リサーチの質を向上させましょう!」と力強いアドバイスをいただきました。
 
齋藤さんが当日の様子をnoteで公開してくださっています!

また、アーカイブ動画も公開されていますのでこちらもあわせてお楽しみくださいね。

Making and Meaning - 作りながら考え、考えながら作る、日々の営為としてのデザインリサーチ

■登壇者

辻村 和正 / 株式会社インフォバーン 執行役員 IDL部門 部門長
東京外国語大学卒業後、SCI-Arc(南カリフォルニア建築大学)大学院修了、建築学修士。国内外の建築デザインオフィス、デジタルプロダクションを経て2014年に株式会社インフォバーン入社。デザインリサーチを起点とした様々なスケールのプロダクト・サービスデザインをリード。文化庁メディア芸術祭、ニューヨーク フィルム フェスティバルなどにおける受賞歴がある。東京大学大学院学際情報学府博士課程在籍、HCI・建築・デザインリサーチを横断した学際的研究にも取り組む。

Webメディア「GIZMODO JAPAN」や「Business Insider Japan」を運営する株式会社メディアジーンのグループカンパニー、株式会社インフォバーン。企業の情報発信やコミュニケーションを支援する事業を展開しています。辻村さんが所属するIDL[INFOBAHN DESIGN LAB.](以下、IDL)は、クライアント企業の製品・サービスといった新規事業開発やビジョンデザインを支援する事業部門です。ヘルスケア分野や住まい、モビリティー、オフィスなどの空間設計分野などでデザインリサーチを起点としたデザイン実践をしていらっしゃいます。

はじめに、本カンファレンスのテーマである「START」に合わせて、辻村さんが<Making and Meaning>という言葉に出会ったきっかけをお話いただきました。

辻村さんが在籍していたロサンゼルスにある大学院「SCI-Arc(Southern California Institute of Architecture)」に、Making and Meaning というプログラムがあるそうです。建築の基礎にあたるプログラムで、デザイン的思考を実践する場だったといいます。辻村さんは、「このプログラムで意味の形成と形の形成が混然一体、反復的、そして同時多発的に起こる体験をしました。そして、その重要性を感じたんです」と語ります。

そこで得た考えは、現在のデザインチームをディレクションする立場、そしてデザインリサーチの仕事にも影響を与えているそうです。多岐に渡るクライアント、案件によって進行方法もバリエーション豊か……そんな現場での仕事を、辻村さんは2種類に分けて捉えていらっしゃいます。

①漸進的:FINDING MEANING
エンドユーザーがいることを前提とし、ユーザーの課題探索を積み重ねる中から、新たな意味発見すること。

②原理的:MAKING MEANING
望ましい未来の姿を提起することを起点として、まだない新たな意味を関与者と共に共創的に作り出すこと。

「後者こそ、デザインリサーチャーがやるべきこと」と、辻村さん。原理的な<MAKING MEANING>な行為を踏まえて、デザインリサーチを「知識を生むことと、物を作ることを介して、意味を創り出すこと」と定義づけます。

実際には、デザインエイジェンシーであるIDLは、直接的にエンドユーザーに届くプロダクトを作る機会は少ないそう。だからこそ、「なにを作るべきなのか」「なぜ作るのか」を熟考することが、デザインリサーチャーたらしめる大切な要素であると考えていらっしゃいます。

さらに、デザインリサーチャーの独自の魅力もお話いただきました。ツールやテクニック、メソッドなどの方法論がデザインリサーチャーの仕事では中間生成物として得られ、そのクオリティが高ければ高いほど、ほかのクライアントや事業ドメインに転用可能な知識となるそうです。

Making and Meaningという概念に触れたことで、リサーチの過程で生み出される抽象的な知識の価値が上がるようなセッションでした。

IDLでは、デザイン関連の職種を複数募集されています。ご興味のある方は是非サイトを覗いてみてくださいね!

アーカイブ動画はこちらより御覧ください。

まとめ

サイボウズ・齋藤さんからは、社内リソースを最大限活用することによってユーザー理解の精度が上がること、インフォバーン・辻村さんからは、Making and Meaningという概念を用いたデザインリサーチのポジショニングと魅力をご紹介いただきました。まったく異なる2つのセッションをお届けしたCoffee Break・Sponsor Session。

本カンファレンスの開催趣旨、

多様な登壇者の方々に、それぞれの視点から見たリサーチの価値や、リサーチをどのように始め・活かし続けているのか、「START」した先に広がる景色を共有していただきます。

に沿ったセッションで、自社プロダクトのUXリサーチャーと、デザインエージェンシーのデザインリサーチャーのそれぞれの視点、リサーチの活用方法を知ることができました。

リサーチの価値や可能性の大きさが、参加者の皆さまにより伝わったのではないでしょうか。

🔍............................................................................................................

RESEARCH Conferenceの最新情報はTwitterにてお届けしますので、ぜひフォローしてくださいね!
https://twitter.com/researchconfjp

それでは、次回のnoteもお楽しみに🔍

[編集]若旅 多喜恵[文章]野里 のどか  [写真] peach

この記事が参加している募集

イベントレポ

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?