"START"のその後(ゲスト:礒野 亘さん、浜岡 宏樹さん、木村 隆介さん)【RESEARCH Conferenceアフターイベント レポート】
デザインリサーチ、UXリサーチをテーマとした日本発のカンファレンス「RESEARCH Conference 2022」を5月28日に開催しました。当日は約2,000名がオンライン配信を視聴し、アーカイブ視聴は再生数が2,000回を超えています(2022年8月時点)。本記事では、カンファレンスの盛り上がりを引き継いで開催されたアフターイベントの模様をお届けします。
テーマは「STARTのその後」。リサーチカンファレンス事務局・木浦さんによるカンファレンスの振り返りが行われただけでなく、3社からゲストをお迎えして、事例をご紹介いただくLTとパネルディスカッションを実施。“リサーチをスタートしたその後の現場”でご活躍されている3名に、豊富な知見を共有いただきました。
3社から学ぶ、成果につながるリサーチ事例
LTでははじめに、株式会社ビービットの礒野さんから、企業のリサーチ実施支援の観点で「UXリサーチでよくある失敗とその対策とは?」をテーマに発表がありました。20年超、累計20000人以上のリサーチ実績をお持ちの株式会社ビービット。クライアントによってリサーチに取り組む姿勢は様々だそうですが、継続しない会社は「調査の品質が低い」という共通点がある、と分析されています。「品質の高い調査とは、新しい発見が得られる調査。やってよかった、と思えるものがないと、続かないのは当然ですよね」と礒野さんはおっしゃいます。
調査の品質は、①調査設計、②対象ユーザー、③行動観察の3ポイントと相関性があるといいます。そして対策として、①スコープを絞る、②本当のターゲットを呼ぶ、③行動を引き出す、を意識することで改善するそうです。すぐに実現は難しくとも、組織文化に合わせて「とにかく打席に立つ」か、「1回のクオリティを向上させる」リサーチを実施することで、調査品質は着実に良くなっていく、とお話いただきました。
続いて、株式会社LIFULLの浜岡さんからは、オンラインインタビュープラットフォーム「uniiリサーチ」立ち上げの知見から「0→1におけるコンシェルジュMVP活用のススメ」をテーマに発表いただきました。uniiリサーチは、リリース時に実用最小限の製品(MVP)を開発するのではなく、「コンシェルジュMVP」とよばれる人力で作りたい仕組みを実現し、製品やサービスに対する需要を検証する手法を用いました。「サービス立ち上げ時は、学びの速度を上げることが重要」と語られる浜岡さん。プロダクトそのものがない状態でも、実際の仕組みを人力とするコンシェルジュMVPを利用することで、すぐに検証し、顧客から直接フィードバックをもらい学んで改善が可能となります。ここに、大きなメリットを感じたそうです。
事業立ち上げに何度も挑戦してきた浜岡さんは、これまでインタビューすら行わなかったことでニーズを掴めずに失敗していたと振り返ります。リサーチの重要性を痛感しており、インタビューでの仮説構築とコンシェルジュMVPによる仮説の検証を組み合わせて事業開発をおこなったそうです。実際には、①顧客、②価値、③フローの3ステップの検証をプロダクトなしで行い、受注・リピートもかなって手応えを感じたそうです。「非常に泥臭く、しんどいが、新事業や新機能の開発にぜひ利用してみてください」とお伝えいただきました。
最後に株式会社リクルート データ推進室 SaaSデータサイエンス2グループ グループマネージャーの木村さんより、「ToB向け業務支援SaaS事業における現場常駐型のリサーチ手法」について発表がありました。宿泊施設の業務効率化、生産性向上に役立つようなサービスを開発する株式会社リクルート。そのひとつである「レベニューアシスタント」の開発チームは顧客理解のために、実際に数週間〜数ヶ月、クライアントである宿泊施設で業務を行っています。清掃業務や、受付業務、ベットメイキング……“1日店長”のようなごく短い期間の体験をするのではなく、現場に馴染むことで、徹底して顧客目線に立った仮説検証が可能に。さらに、宿泊施設での強固な関係性が構築され、より本音を引き出すインタビューが実現できるといいます。
それまでにもアンケートやヒアリングなどのリサーチは行っていたものの、クライアントの深いニーズやウォンツまでは掴みきれていない感覚だったそうです。しかし現場常駐型リサーチの実施後は、すぐに現場の声を取り入れられるようになり、プロトタイプの検証を1日で数回実践できるほど速度・質ともに改善。また、クライアントと近い距離にあった営業、クライアントサクセスとも顧客理解の足並みが揃うなど、他チームとのコミュニケーションが円滑化するというメリットもあったそうです。実現までのフローをご紹介いただくとともに、「壁があって、今も乗り越え続けるために奮闘中」とおっしゃる木村さんから、深層までリサーチしようとする情熱を感じました。
その重要性を理解してから、リサーチの実践はスタートする
3社それぞれの知見が詰まったLTに続き、パネルディスカッションのパートです。
最初のテーマは「人はなぜリサーチすら行わず、ものづくりをするのか?」。多くの企業の事例を見てきた礒野さんは、リサーチが抜けた開発を①経営層からの命令でやっている、②開発の必要性に情熱を感じている、の2パターンに当てはまる場合が多いと分析。浜岡さんからは「プロジェクトの責任者がリサーチの重要性を理解している、というケースがまだまだ少ない」という指摘がありました。木村さんもそれに共感し、「実践したことないことの魅力をいくら説かれても伝わらない」とおっしゃいました。リサーチの一歩目は失敗から、という方は少なくないのかもしれません。
今回のカンファレンスのテーマ「START」に沿って、「スタートした後、活かし続けるために、適したやり方を見つける方法」が続いてのテーマで挙げられます。木村さんは、大学の先生に話を聞きに行くなど、リサーチの先輩に師事した経験があるといいます。浜岡さんは、実践と、読書などのインプットでコンシェルジュMVPを確立していったそうです。礒野さんからは、ビービット社の新人リサーチャーが「プロトタイプを作り、友人を集める食事会を開き、その途中で意見をもらう」取り組みを行っているとご紹介いただきました。
まとめ
アフターイベントでありながら、RESEARCH Conference2日目とも言えるような、多くの発見があった1時間半。最後に登壇者の皆様からイベントを振り返ってのコメントを頂戴しました。
木村さんからは、「深掘りたいポイントが多く、さらに質問を重ねたかった。来年は是非オフラインでの開催を!」と、次回開催への期待の言葉をいただきました。本カンファレンスを、浜岡さんは「お祭りみたいだった」と表現。「この盛り上がりが一人のリサーチャーとして嬉くて、さらに活発になるよう協力していきたいです」と、業界の未来が明るくなるような声をいただきました。礒野さんは「リサーチの仕方は会社によって違うし、どんどんアップデートもされる。濃い知見が集まるRESEARCH Conferenceで、ナレッジの共有し合いが実現できれば」と、カンファレンスで生まれるリサーチャー同士のつながりについて触れていただきました。
アフターイベントはYouTubeでアーカイブ視聴が可能です。こちらもお楽しみください。
「RESEARCH Conference 2022」の模様は、noteでレポート記事として公開されています。
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それでは、次回のnoteもお楽しみに🔍
[編集] 若旅 多喜恵 [文章] 野里 のどか
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