自分のリサーチスキルが分かり、スキルアップの道が見える──グッドパッチで始めた「リサーチ道場」【#ResearchConf 2024 レポート】
RESEARCH Conferenceは、リサーチをテーマとした日本発のカンファレンスです。より良いサービスづくりの土壌を育むために、デザインリサーチやUXリサーチの実践知を共有し、リサーチの価値や可能性を広く伝えることを目的としています。
2024年のテーマは「ROOTS」です。リサーチを育む根を張る、そもそものリサーチの成り立ちや進化から学ぶ......そういった意味を込めています。小さく始めて広げてきたリサーチを、いかにして強く根付かせ、厳しい状況を乗り越え、新たな成長へと導けるでしょうか?
株式会社グッドパッチから、『自分のリサーチスキルが分かり、スキルアップの道が見える──グッドパッチで始めた「リサーチ道場」』と題し、秋野 比彩美さんよりお話しいただきました。
■登壇者
多角的な方面からリサーチに向き合い、自発的にスキルを高められる機会を提供
顧客体験を起点にあるべき姿をともにデザインし、企業変革を前進させるデザインカンパニーの株式会社グッドパッチは、2011年9月の設立以来、BtoCやBtoB、エンタープライズ、スタートアップまで、デザイン実績は1,200社以上にのぼります。
グッドパッチのUXデザインチームでは、独自のスキルマップを設け、スキル向上に向けたフィードバックを行う「リサーチ道場」という取り組みを2023年から開始。「この道場では技・己・他者といった多角的な方面からリサーチに向き合うことで、自発的にスキルを高められる状態を目指しています」と秋野さんは語りました。
リサーチ道場にはスキルを上げたい人とそれを見守る「師範」がいます。リサーチについて内省する機会やフィードバックをもらえる取り組みなので、これからスキルをどんどん上げていきたい人はもちろん、リサーチを経験してきた人でも自分のリサーチと客観的に向き合うことでさらなるスキルアップにも繋がるのだそうです。
「この取り組みによって観点が統一されていき、人によってフィードバックが異なるということもなくなる」と秋野さんはいいます。
リサーチ道場①スキルマップで技を知る
まずリサーチ道場の鍛錬「スキルマップで技を知る」の紹介です。
リサーチ道場で使用されているスキルマップは、人間中心設計推進機構(HCD-Net)が実施する専門家認定制度の内容をもとに「設計」「実施」「分析」「可視化」と4つの大項目から構成されています。
今回の発表では、リサーチの最重要項目である設計における「課題(目的)設定」を例に紹介していただきました。
スキルマップの大項目の中にはさらに中項目が設定されており、それぞれレベル1から4の段階に設定され、何がどのレベルまで到達できているのか一目でわかるようになっています。
それぞれのレベルの具体的な到達状況は次の通りです。
レベル1:既知、未知の情報を整理した上で、調査によって何を明らかにすべきが言語化できる
レベル2:課題仮説や調査目標が未知、既知の情報とどう関係しているか仮説までのロジックが整理・構造化されている
レベル3:案件(プロジェクト)としての目的・ゴールを予測した上で、調査から得られる示唆の仮説を立てられている
レベル4:課題仮説や調査目標が明らかになった結果、どんなアウトプットをして、どのように次のステップにつながるか整理できている
例えば「月額有料会員サービスにおける無料体験期間の利用者の実態把握」のようなリサーチをする場合、「初回無料期間7日間でユーザーがどんな行動をしているか行動の背景にある感情を明らかにする」といった目的を提出する人はレベル1の段階だそうです。
その理由を「リサーチにおいて何かを明らかにすることは目的ではない。その先にどんなアウトプットをすることで、次のどんなステップに繋がるかが重要になる」と秋野さんは語ります。
「事前に、調査結果からどんな施策が検討できそうかという仮説を立てておくと、調査目的がシャープになっていく。リサーチを進めるうちに、調査目的の認識が段々とチーム内でズレてくるのはよくあること。目的を入念に擦り合わせることで、リサーチの軸がブレることなく進めることができる」といいます。
リサーチ道場②フィードバックで己を知る
続いてリサーチ道場の鍛錬「フィードバックで己を知る」の紹介です。ここでも先述したスキルマップを活用していくのだそうです。
具体的な方法は、まず過去に自分でリサーチに使ったドキュメントを提出し、師範となる人たちから設計や分析の意図についてヒアリングを受けます。
実際に師範となる人に提出するドキュメントには次のようなものがあります。
調査設計書
インタビューガイド
インタビューの録画や、分析で使用したホワイトボードツールのキャプチャ等
その際に師範から各中項目のスキルレベルと具体的なアドバイスをフィードバックされ、「自分はどのレベルまで到達できているのか」が可視化されます。このスキルレベルを見ることで、今後どの項目を強化すべきなのか判断できるのだそうです。
こちらの画像はフィードバックの例です。各大項目ごとにGoodとMoreで具体的に記載されており、ドキュメントだけでなく対面でフィードバックし、今後強化していくべき観点を本人に宣言してもらうのだそうです。
リサーチ道場③アウトプットで他者を知る
最後はリサーチ道場の鍛錬「アウトプットで他者を知る」の紹介です。秋野さんは「私自身のリサーチスキルが一番向上したと思うのはリサーチレベルの高い人のリサーチをその場で同席して見る体験でした」と振り返ります。
グッドパッチでは対象条件に当てはまれば、他のメンバーが担当しているプロジェクトでも記録係として参加が可能なのだとか。リアルタイムで記録をしつつ、他のメンバーがどんなリサーチをしているのかを学べるのです。見学の際は他のメンバーのリサーチを先述したスキルマップの観点に合わせて見ていくことで「こんな深掘りの仕方があったのか」と、スキルマップでは理解しきれなかった深掘りの方法を学べるほか、認識していなかった自分の癖を知る機会にもなると秋野さんはいいます。
また、リサーチで使用する計画書や調査書などのドキュメントは、社内のナレッジデータベースに共有されており、他のメンバーの成果物を見ることができます。ただドキュメントを見るだけでなく、他のメンバーの担当しているプロジェクトを緊張感のある状態で見学したあとに、その成果物を見ることでより理解が深まるのだそうです。
「これもUXデザイナーが30名いる大きな組織だからこそできることなのかもしれません」と秋野さん。グッドパッチのUXデザインチームは新卒と中途入社社員は1:3程度の割合で、それぞれ学んできたことや経験などバックグラウンドも異なります。リサーチ道場は、そんな多様性のあるメンバーがリサーチスキルを高め合う場になっているのです。
最後に、秋野さんから「グッドパッチで大事にしていること」についてお話しいただきました。
デザイナーという職業柄、「(ビジネス面よりも)ユーザーを重視するのでは」という風に見られがちなことも多いが、そうではないと秋野さん。
「ユーザー体験を起点にクライアントのビジネスを成功させることが、グッドパッチのUXデザイナーのミッション。徹底的にユーザーを理解することと、圧倒的にビジネスに向き合うことを二項対立にせず、同時に成立させる方法をリサーチを通して模索しています」と秋野さんは語りました。
RESEARCH Conference2024のテーマは「ROOTS」。グッドパッチのリサーチ道場の事例から、リサーチを組織に根付かせるためのヒントと、「技・己・他者」を知る日々の鍛錬の先にリサーチ組織の未来が見えてくるようなセッションとなりました。
さらに詳しい解説と当日の資料が、Goodpach Blogで公開されています!ぜひご覧ください。
グッドパッチのUXデザインチームで始めた「リサーチ道場」とは?【RESEARCH Conference 2024】
また、当日の様子はこちらから動画でご覧いただけます。併せてご活用ください。
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[編集]リサーチカンファレンススタッフ[文章]小澤 志穂 [写真] リサーチカンファレンススタッフ
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