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ユーザベースCDOが語る、リサーチ文化を組織に埋め込むために実践したこと(平野 友規さん)【RESEARCH Conference 2022 レポート】

「RESEARCH Conference 2022」はデザインリサーチ、UXリサーチをテーマとした日本発のカンファレンスです。近年、より良いサービスづくりのための手法としてデザインリサーチやUXリサーチへの注目が高まっています。RESEARCH Conferenceは、リサーチの価値や可能性を広く伝えることを目的に「デザインリサーチの教科書」著書の木浦幹雄と「はじめてのUXリサーチ」著書の草野孔希・松薗美帆の3名が共同で立ち上げたものです。

2022年5月28日に初開催となったRESEARCH Conferenceのテーマは「START」。東京都副知事・宮坂学さんをはじめ、行政、大企業、スタートアップなど様々な立場から12組が登壇、様々な観点からリサーチを語りました。

本記事では、株式会社ユーザベース コーポレート執行役員 CDO 平野 友規さんの『リサーチ文化を組織に埋め込むために実践したこと』の模様をお届けします。

■登壇者

平野 友規
株式会社ユーザベース コーポレート執行役員 CDO

トランスコスモス、コンセントを経て、2011年にトライアンド(現 デスケル)を設立。 2019年にユーザベースのSPEEDA事業に参画。主な仕事は、SPEEDAのデザインマネジメント、三菱重工業の社会インフラ事業のDX推進に向けたビジョン策定支援、RICOH THETAの新規事業開発時におけるUX / UIデザイン。

2019年の参画から約3年を振り返る

経済情報プラットフォーム「SPEEDA(スピーダ)」を提供する株式会社ユーザベースのCDO(Chief Digital Officer)を務める平野友規(ひらの ともき)さん。1デザイナーとしてユーザベースに参画した2019年から現在に至るまで、当時はまだ社内で馴染みのなかったリサーチ文化を根付かせた活動について、課題や組織の変化に基づきフェーズを分けて解説をしてくれました。

【フェーズ1:2019年から2020年初頭まで】
「リサーチとはなんぞや?」社内認知獲得活動に勤しむ

平野さんがユーザベースにデザイナーとして参画したのは2019年。その頃、社内では後のCCO(Chief Customer Officer)となるカスタマーサクセスのリーダーをはじめ、社内からは「ユーザーの顔が見えない」課題に直面していました。

そこで平野さんが早速取り組んだのが、社内向け施策の「SPEEDA JAM」と社外向け施策の「SPEEDA CAFE」でした。

「SPEEDA JAM」は「SPEEDA」の開発に関わるメンバー全員が集まり、UXリサーチやデザインリサーチについて理解を深める週次定例会です。

<「SPEEDA JAM」の様子>

このようにメンバーが実際にリサーチについて触れられる機会を作りつつ、「SPEEDA CAFE」で、ユーザーがカフェに立ち寄って「SPEEDA」のフィードバックができる仕組みを構築。カスタマーサクセスだけでなく、セールスやマーケなど、普段ユーザーと直接関わりがない部署のメンバーも、気軽にユーザーと交流できる場を設け、全員がリサーチを実践できる環境を整えたといいます。

しかし、リサーチ文化の土壌作りに取り組むと、新たな課題にぶつかったと平野さん。

【フェーズ2:2020年1月〜3月】
認知を獲得したリサーチ文化をブーストさせる

新たな課題として、リサーチ文化をさらに洗練させていくためには、ボトムアップでの限界を感じていたと平野さんは当時の状況を語ります。当初抱えていた「ユーザーの顔が見えない」課題は、事業部全体の共通認識とはなったものの、解消には至っていなかったようです。

そこで第一フェーズで土壌作りをしたリサーチ文化をさらに加速させるべく、外部パートナーとしてGoodpatch社とプロジェクトを発足させます。Goodpatch社とのプロジェクトでは、リサーチ文化の社内認知からは一歩進んで、リサーチによる成果をOKR(※)に組み込むことを最終的なゴールに据えます。

※参考:OKRとは
目標設定・管理手法の一つ。「達成目標(Objectives)」と、目標の達成度を測る「主要な成果(Key Results)」を設定することによって企業やチーム、個人が、同じ重要課題に取り組めるようになる成果が期待されます。
https://www.recruit-ms.co.jp/glossary/dtl/0000000226/

結果は、成功だったと言えるでしょう。このプロジェクトを経て、リサーチの重要さが事業部責任者にも、それぞれのメンバーにもより一層理解されることとなりました。リサーチが実際のプロダクト開発に役立つと、社内ではそれぞれのレイヤーのメンバーが、手応えや必要性を持ち始めたのがこの頃だと平野さんは加えます。

参考:Goodpatch事例紹介

【フェーズ3:2020年4月〜9月】
ユーザーリサーチを内製化へ。推進する組織運営を試行錯誤

社内でリサーチ文化の必要性が高まったため、ここからリサーチ文化を会社の組織として実装すべく、試行錯誤が始まります。

これまで経済情報プラットフォーム「SPEEDA」の開発が中心でしたが、ユーザベースは他にもB2B事業向け顧客戦略プラットフォーム「FORCAS」、スタートアップ情報プラットフォーム「INITIAL」など、複数のプロダクトを開発・提供しています。

平野さんはデザイン組織責任者としてCDOに就任し、「SPEEDA」、「FORCAS」、「INITIAL」のデザイナーが合流、一つのデザイン組織が誕生しました。そこで平野さんは、リサーチ組織として出したい成果の定義と、リサーチと日々の各人の業務への接続について模索することとなります。 

<当時の目標設定>
<試行錯誤の様子>

実績がなく予算もないまま、成果を求められる状態だったと平野さんは当時の苦労を語ります。

そのような環境で取り組んだのは目標設定です。曖昧な内容にするのではなく、具体的にユーザーインタビューの数を目標に掲げました。読んで分かるではなくパッと一目で分かるユーザー事例を作ることで、営業など予算に関わる部署がユーザー事例をより活用しやすくなる→間接的に売上に貢献する→ユーザーリサーチの成果を認めてもらうシナリオを想定したと言います。

売上に関わるほうが成果として社内との合意ととりやすかった点、営業シーンなど社内で活用頻度が高く実際に社内反響も多かったため、活動成果を認知してもらいやすかった点を、最初の目標設定時の工夫として平野さんは説明します。

【フェーズ4:2020年10月〜2021年12月】
急速に合併したため組織問題が勃発、一方でユーザーリサーチの成果として新しい機能が続々リリース

この頃は組織的には悔いの残る時期だったと、表情に悔しさを滲ませながら語る平野さん。そのような中でも、リサーチ文化の種火を受け継ぐ人が出てきて、ユーザーリサーチが成果を出し始め、続々と新しい機能がリリースされていきます。

【2022年1月〜現在】
プロダクトマネジメント組織が発足。ユーザベースの価値観に根付くユーザベースらしいリサーチ文化の輪郭が

紆余曲折を経て平野さんは、リサーチ文化の組織に埋め込むまでの過程で、ユーザーとの距離がどの部署にいたとしても近くなり、それはどの部署の人もリサーチ文化が身近になっていることだと言います。結果、部署にかかわらず開発提案が挙がってくる組織に生まれ変わったと今の開発現場を語ります。

さいごに:リサーチ文化を根付かせるには、地道なコミュニケーションを繰り返す粘り強さが必要

<リサーチ文化の埋め込みについて、熱弁をふるう平野さん>

最後に約3年の歴史を振り返って平野さんは、リサーチ文化をはじめるような、組織にとって新しい挑戦をする際には、社内のさまざまな人とのコミュニケーションを地道に繰り返していくことが必要だと強調しました。今回語られたそれぞれのフェーズでは経営層やその他のメンバーと、それぞれの役割や工夫について繰り返し会話をし、調整しながら現在の組織作りを進めてこられました。

リサーチ文化は国内でもまだまだ普及していない取り組みです。それぞれの企業や組織に特有の状況はありながらも、地道なコミュニケーションや工夫は、参考になる方も多いかもしれません。「リサーチ文化は1日にしてならず」。成功だけでなく途中途中のタフな環境や失敗も学べる有意義な講演でした。

平野さんのアーカイブ動画、講演資料も公開されています。ぜひご覧ください。

平野さんはTwitterでも情報発信をされているので、ぜひチェックしてみてください!

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それでは、次回のnoteもお楽しみに🔍

[編集]若旅 多喜恵[文章]北川 真央  [写真] peach

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