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デザインリサーチと教育【#ResearchConf 2024 レポート】

RESEARCH Conferenceは、リサーチをテーマとした日本発のカンファレンスです。より良いサービスづくりの土壌を育むために、デザインリサーチやUXリサーチの実践知を共有し、リサーチの価値や可能性を広く伝えることを目的としています。

2024年のテーマは「ROOTS」です。リサーチを育む根を張る、そもそものリサーチの成り立ちや進化から学ぶ......そういった意味を込めています。小さく始めて広げてきたリサーチを、いかにして強く根付かせ、厳しい状況を乗り越え、新たな成長へと導けるでしょうか?

教育現場から、『デザインリサーチと教育』と題し、東海大学 教養学部芸術学科 教授 富田 誠さんと、専修大学ネットワーク情報学部 教授 上平崇仁さんよりお話しいただきました。

■登壇者

富田 誠さんのプロフィール写真

富田 誠
東海大学 教養学部芸術学科 教授

東海大学 教養学部芸術学科教授、 早稲田大学政治学研究科・理工学術院非常勤講師、厚生労働省広報室参与、総務省行政評価局アドバイザーなど。武蔵野美術大学基礎デザイン学科卒業(原研哉ゼミ)。早稲田大学大学院国際情報通信研究科修了(長幾郎研究室)。デザインエンジニアリング系のスタートアップ創業、早稲田大学政治学研究科助手などを経て、現職。

上平 崇仁さんのプロフィール写真

上平 崇仁
専修大学 ネットワーク情報学部  教授

筑波大学大学院芸術研究科デザイン専攻修了。グラフィックデザイナー、東京工芸大学芸術学部助手、コペンハーゲンIT大学インタラクションデザイン・リサーチグループ客員研究員等を経て現職。草創期から情報デザインの研究や実務に取り組み、情報教育界における先導者として活動する。近年は社会性や当事者性への視点を強め、デザイナーだけでは手に負えない複雑/厄介な問題に取り組むためのコ・デザインの仕組みづくりや、人類学の視点を取り入れた自律的なデザイン理論について研究している。著書に「情報デザインの教室」、「コ・デザイン―デザインすることをみんなの手に」など。

リサーチと聞くと実務家の方たちはデザインリサーチやUXリサーチ、マーケティングリサーチなどを想像されることが多いのではないでしょうか。実は「研究」もリサーチの1つです。

登壇者2名とファシリテーターが壇上にいる

RESEARCH Conferenceでは初期より「もっとアカデミアと実務家の距離を近づけたい」と考えており、今年で3年目にして専修大学 ネットワーク情報学部との共催という形式にて、ゲストスピーカーに大学教授のお二人をお招きすることができました。

今回、教育の現場ではデザインリサーチをどのように教えたり、実践したりしているのか各大学の事例を交えてお話いただきました。


大学2年生を対象としたデザイン授業の事例


発表する冨田先生

前半パートでは富田先生より、東海大学教養学部芸術学科2年生を対象としたデザインの授業を例にご紹介いただきました。「大学2年生は学生生活にも慣れてきて遊びながらも独自の専門性の基礎となる嗅覚を身につける時期ではないかなと思います」と富田先生はいいます。

デザインの授業テーマは「営みの循環」で全部で14回。より実践に近い形で学生たちが学べるように、企業や他大学からも専門家を招いて授業に協力していただいているのだそうです。

授業で取り組む課題は、学生が気になった「場」を1つ決めて、それがどのような営みの循環によって「存在」しているのかを調べ、視覚的にマッピングした上で学生が考える未来像をイメージして提案するというものです。

例えば家の近くにある町内会掲示板に目を向けてみると、町内で開かれるイベントがたくさん紹介されており、定期的にチラシが更新されていきます。誰がチラシを交換しているのか観察してみると「町内会長に頼まれてやっている」という人が現れました。町内会掲示板を1つとっても、町内会や役所との関係などそこにある営みの「存在」を知ることができるのです。

授業ではキャンパス内でのフィールドワークやFigmaを使った表現方法、インタビュー、発表、専門家からの講評などを通してデザインの提案方法を学んでいきます。

こういった授業を運営する背景として「教員が課題を決めてデザインする授業も必要だが、課題そのものを見つける経験をしてほしい。ただし、急に課題を見つけましょう!といっても学生は社会的に大きな課題を選ぼうとするもの。自分たちの身の回りに関心を持ってそこにデザインする可能性を見出すような体験をしてほしいと」と富田先生はいいます。「そして観察やインタビューを通して図にまとめる行為を繰り返す中で理解し、知ろうとする態度やわかることの楽しさに気付いて欲しい」と強調しました。

また、自分がデザインしたものによって自分自身がデザインされる瞬間はたくさんあるもの。そういった相互の関係のようなものを意識していくとマッピングが浮かび上がってくるのだそうです。

さらに授業の中で大切にしていることの1つに「図の中に私を置くこと」だと富田先生はいいます。あえて物事の繋がりの中に「私」がどう位置づけられるのかを意識すると、「世界を知る」と同時に「私を知る」、「私」が主体になりうることに気付く。さらに、自分がデザインしたものが自分自身に還ってくるものとしてデザインを考えるように学生たちを指導しているのだそうです。

「ただし、これはデザインリサーチと言ってよいのか?仕事で使えるかは未知数であり、さまざまな調査方法や分析手法、文献調査など科学的な理解の仕方も当然必要です」と富田先生はいいます。例えばマッピングは「わかったつもり」になりやすく、どの視点から対象を見るのか、何が必要で何が必要でないかなどを学生には意識してもらわなくてはなりません。

富田先生は発表の最後に、厚生労働省の水道事業に関する広報資料作成の事例について紹介。水道工事はいろいろな人たちの関わりによって仕事がなされており、どのような構造になっているかを改めて把握しなおしたいと厚生労働省より依頼があったそう。ワークショップやマッピングのほか、現場でのインタビューや撮影などを通して具体的にどんな仕事をしているのか明らかにしました。

この取り組みは広報業務の中にリサーチを埋め込んだのではないかと富田先生はいいます。「広報担当者の業務とリサーチが一体化され、デザイナーと協業して提案し、広報物として発信される情報とすることで情報の正確性が担保されると同時に、このマッピングが関係者に共有されていく瞬間があった」と富田先生は振り返ります。

そして「デザインリサーチというと商品作りやサービスの開発などに用いられることが多いものですが、広報の分野でも実践可能にできるのではないか。依頼主と一緒に作る取り組みをすることで面白さを知った事例でした」と富田先生は締めくくりました。

産学連携のパートナーシップには間合いがある


発表する上平先生

続いて上平先生より、専修大学ネットワーク情報学部の事例についてお話いただきました。

産官学の連携の事例として、専修大学ネットワーク情報学部で取り組んだ4つが示されました。

  • 株式会社L is B:チャットボットハッカソン

  • SMBC Design:学部演習への出題協力

  • KDDI研究:ふじみ野リビングラボ

  • 阿久根市:観光拠点デザインリサーチ

これらを題材ではなく時間軸で見ると、1泊2日の短期のものから、現場に出て1年ほどかけて実践していくものまでさまざまな「パートナーシップの間合い」が見えてくるのだそうです。

実際に専修大学ネットワーク情報学部との産学連携に取り組んだSMBC Designの方より、「大きく2つ得られるものがあった」とコメントがありました。1つは業界の慣習にはとらわれない学生の視点による新しいビジネスのヒント、もう1つは生活者起点による共創の可能性だといい、産学双方に得られるものがあったのだそうです。

専修大学ネットワーク情報学部とSMBC DESIGNとのコラボについて、詳しく知りたい方はこちらのnoteもご覧ください。

まとめとして上平先生はLiz SandersのMap of design research typesの図を提示して「いろいろなタイプがある中で、いわゆる左下の象限に偏りがちだと思いますが、意外と右上の”ともに<つくること>を通して知る”は取り組まれていないことが多く、この辺りを実践する可能性があります」と締めくくりました。

3つのトークテーマでパネルディスカッション


パネルディスカッションの様子

最後にお二方から以下の3つのトークテーマに答えていただきました。

Q1.デザインリサーチャーの知の源流とは何か?
Q2.研究と実務のギャップをいかに埋めていくことができるのか?
Q3.デザインリサーチと「教育」の可能性とは?

ーー1つ目は「デザインリサーチャーの知の源流とは何か?」です。

富田先生:デザインリサーチャーといった時にいろいろなわかり方を知っている方が集まって実践されています。例えばデータ分析が得意な方やインタビューが得意な方、あるいは表現が得意など、そういった得意を持ち寄る活動なのかなと。それぞれのデザインリサーチャーが持つ共通の知というよりは、さまざまなわかり方を集めてみよう!と、そして新しい仕事やサービス、社会を作るための土台というか情報を手にいれるイメージがあります。

上平先生:私は全く逆のことを思い浮かべました。知の源流ということで、流れになる前の源泉とはなんだろう?と。書店でもビジネス書で「⚪︎⚪︎思考」という本が増えてますよね。これは結構危険なことだと思ってまして、思考は大事ではあるものの、頭の中だけで完結しやすいことです。一方でフィールドワークでいちばん大事なことは、身体性ですよね。その場で生成されている言語化以前の出来事を五感で感じ取る、つまり思考よりももっと原始的な経験が非常に大事。デザインリサーチャーの源流は、身体性、その場に全身で向き合うことだと思います。

ーーオフィスにいてはダメですね。富田先生のお話に関してはまさにリサーチカンファレンスで色々な実践が集まる場であり、今年はポスター発表で展示もされているので知の集まる場として活用してもらいたいです。続いての質問は「研究と実務のギャップをいかに埋めていくことができるのか?」です。

上平先生:もう少し研究の知見を参照しやすくなればいいのですが、話し合うしかないんじゃないでしょうか。完全な他価値で"埋める"となると難しいかもしれませんが、今日のような場も含めて、お互いの立場が見えるような形で貢献し合うことはできるのではないでしょうか。

富田教先生:私がリサーチカンファレンスで発表しようと思った理由は、まさに現場の方のフィードバックが欲しいからでした。

ーーX(旧Twitter)で先生方にデザインの教育に関連することについて話しかけてみてもいいですね。最後のトークテーマは「デザインリサーチと「教育」の可能性とは?」です。

上平先生:僕が丁寧に教えなくても、こういったカンファレンスの場に学生たちを参加させることによって、リサーチャーのみなさんが何を探究していて、この場でどんな知の交換が起こっているのかの空気感は伝わりますよね。まだまだ萌芽期の領域だからこそ、いっしょに場をつくることは大事だと思います。

富田先生:研究室のコミュニケーションをDiscordに変更しました。Discordは卒業生もずっと残るので卒業生からもフィードバックをもらえるようになっています。それが非常に面白くて、大学を卒業した方々の現場と大学が繋がるような場をこれからも設けていきたいと思います。

ーーありがとうございました!

教育の現場から広がっていくデザインリサーチの「ROOTS」。その取り組みは、産学官の連携も含めて、業界全体の新たな可能性として、ますます注目を集めそうです。

本セッションではアーカイブ動画を公開しております。

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[編集]リサーチカンファレンススタッフ [文章]小澤 志穂  [写真] リサーチカンファレンススタッフ

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