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人生を豊かにするサービスを、リサーチとデータサイエンスの協業で作る(後藤 真理絵さん)【RESEARCH Conference 2022 レポート】

「RESEARCH Conference 2022」はデザインリサーチ、UXリサーチをテーマとした日本発のカンファレンスです。近年、より良いサービスづくりのための手法としてデザインリサーチやUXリサーチへの注目が高まっています。RESEARCH Conferenceは、リサーチの価値や可能性を広く伝えることを目的に「デザインリサーチの教科書」著書の木浦幹雄と「はじめてのUXリサーチ」著書の草野孔希・松薗美帆の3名が共同で立ち上げたものです。

2022年5月28日に初開催となったRESEARCH Conferenceのテーマは「START」。このテーマに沿って、リサーチの多様な価値を共に伝えてくださるスピーカーを公募しました。応募者40組の中から、3名のリサーチに携わるみなさまにご登壇いただきました。

公募登壇枠の1つに選ばれたのが、株式会社リクルート データサイエンティスト・後藤 真理絵さんの『リサーチ&データサイエンスで「AI」をより良いものに』。今回はその模様をお届けします。

膨大なデータをもとに、最適化された学習プランやコンテンツを提供する「スタディサプリ」の分析やデータ活用リードを務める後藤さん。過去のご経歴や副業では、データ思考やリサーチの活用・普及に尽力されており、ご自身を「異色のデータサイエンティスト」と表現します。

そんな珍しい経験を持つ後藤さんから、本セッションの冒頭で「リサーチとデータサイエンスをうまく組み合わせることで、人生をより良くするサービスやAIを作っていきたい!」と、リサーチの可能性を広げる力強い言葉をいただきました。

では、どのようにAI開発プロセスにリサーチを活かせばよいのか?どちらの手法にも造詣の深い後藤さんから、リサーチとデータサイエンスの協業についてお話いただきました。
 
■登壇者

後藤 真理絵/株式会社リクルート データサイエンティスト
広告制作会社、マーケティングリサーチ会社を経て、インターネットメディア企業にて、データアナリストとして、クライアント企業向けのマルチビッグデータ分析プロジェクトでPMと分析業務を主導。2020年より現職。ユーザーインサイトと問題発見・問題解決につながる分析手法をメイン領域とし、定性データから定量データまで横断的に俯瞰した分析を行なっている。2016年に PARC(Palo Alto Research Center) Certified Fieldworker 取得。

「使えるAI」を作るためにリサーチを取り入れる 

観測した大量のデータや結果を機械学習し、行動パターンを発見(モデル化)、それをアプリやシステムに組み込むことでユーザーの行動支援を可能にするのがAIです。後藤さんいわく、AI開発には適切なデータが重要であり、モデルが現実離れしてしまったり、結果が導き出された根拠がブラックボックス化したりすると、使えないAIができあがるといいます。

その原因は、データサイエンティストがサービスおよびユーザー・クライアントの理解が不足しているからだそうです。これを解決するため、後藤さんは「AI開発プロセスにリサーチの手法を取り入れ、不足しがちな情報を質的にも量的にもさらに吸収すべき」と提案します。

▽AI開発のプロセス
①背景理解
②事前調査
③課題定義
④解決手段
⑤試作
⑥実装

AI開発の6つのステップのうち、特に3つのステップ(上記のステップの太字部分)で「徹底的に当事者視点で考え、目線・情報量を揃える時間を創出」することが重要だとお話いただきました。

リサーチャーとデータサイエンティストの協業の実例

後藤さんが、営業職向けにクライアント企業のリピート予想をするAIを開発した際の取り組みについてご紹介いただきました。
 
まず背景理解では、領域に関連する情報を収集します。業界理解、ビジネスモデル理解、事業戦略理解などです。また、今回は、営業職が利用するAIなので、業務プロセス理解のため営業マニュアルを読み込みました。そのマニュアルをもとに有識者(営業)インタビューを実施したのだそう。こうすることで、パフォーマンスの良い人が、どんな工夫を行っているのか、さらに解決すべき本質的な困りごとはなにかなど質的情報にアプローチできます。

背景理解を経て集めたデータから、クライアントの行動を最小単位に細分化し、データの所在が明らかになりました。そして事前調査で、その分析(リピートパターンの把握)を行っていきます。

ここでは、ただデータを抽出するだけではなく、営業との壁打ちを実施し、「実際のクライアントの動きとデータに相違がないか?」「集めたデータ以外に、クライアントのリピートに影響を及ぼすデータはありそうか?」など確認を怠らないことで、適切なデータかどうか判断するそうです。実際に、営業から「地域的な要因がありそう……」という現場の声を拾い、地域に関するデータも分析に加えられるようオープンデータの活用が行われました。この過程を繰り返した先に、本質的に解決すべき課題が見えてくるそうです。

そして、試作段階でも営業との壁打ちを設けることで、リピート予測の精度や、ツールのデザインについてフィードバックを集め、AIの改善を行います。

リサーチとデータサイエンスの両方の知見を持つ後藤さんは、リサーチャーの特性を「データから抽象的解釈をうむことが得意」とおっしゃいました。その特性を活かして、質的データと量的データの両方を集めて、AIの設計、解釈、そしてデザインをブラッシュアップされていらっしゃいます。

AI開発プロセスへのリサーチ手法の取り入れを実証している後藤さん。セッションの最後には、リサーチャーとサイエンティストの協業を意識したプロセス設計の重要性を説き、「サービス仕様とユーザー・クライアント行動の深い理解が良いAI設計につながる」と明るくお話いただきました。

スタディサプリでは、リサーチャーからデータサイエンティストである後藤さんに「データの見方を教えてくれませんか?」と依頼されることもあるそうです。それぞれのスキルを借りるにとどまらず、知見を持ち寄ってデータと向き合っている職場環境が垣間見れました。「ふたつの職業が融合していけばいいなと思っています」という後藤さんの希望は、今後のリサーチャーの新しいキャリアの選択肢につながっていきそうです。

まとめ

実際の開発プロセスをご紹介いただくことで、クライアント・ユーザーの声にどれほど丁寧に耳を傾けているのかが伝わり、ふたつの職業の協業によって生まれる相乗効果への期待が膨らむようなセッションでした。

今回、RESEARCH Conference 2022のスポンサー企業様のなかには、後藤さんが所属する株式会社リクルートもいらっしゃいました。「スポンサーしているって知らずに、公募スピーカーに申し込んでいて……」と、応募時のエピソードについて、セッション後に話してくださった後藤さん。

「リサーチ視点と、定量的なもの・定性的なものの掛け合わせについて常々考えていたので、この場で話せて良かった」と笑顔でお話ししていただきました。リサーチ分野からビックデータ領域を経験され、現在はデータサイエンティストとして活躍している後藤さんのご登壇から、リサーチの可能性の広さを参加者のみなさまに感じていただけたのではないでしょうか。

後藤さんのアーカイブ動画、講演資料も公開されています。こちらもあわせてぜひご覧ください。

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https://twitter.com/researchconfjp

それでは、次回のnoteもお楽しみに🔍

[編集]若旅 多喜恵[文章]野里 のどか [写真] peach


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