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新規サービスでの専業リサーチャー活躍のすべて(takejuneさん、Harokaさん)【RESEARCH Conference 2022 レポート】

「RESEARCH Conference 2022」はデザインリサーチ、UXリサーチをテーマとした日本発のカンファレンスです。近年、より良いサービスづくりのための手法としてデザインリサーチやUXリサーチへの注目が高まっています。RESEARCH Conferenceは、リサーチの価値や可能性を広く伝えることを目的に「デザインリサーチの教科書」著書の木浦幹雄と「はじめてのUXリサーチ」著書の草野孔希・松薗美帆の3名が共同で立ち上げたものです。

本記事は、ゲストスピーカーの株式会社スマートバンク CXO・takejuneさんとリサーチャー・Harokaさんの『ゼロからのスタートアップ立ち上げにおけるリサーチ事例』の模様をお届けします。

RESEARCH Conference 2022の今回のテーマは「START」。スマートバンクにおけるサービスのスタート、そして専業リサーチャー起用のスタート、2つの視点からお話いただきました。新規サービス立ち上げの流れに沿い、takejuneさんからサービスローンチ前の取り組み、Harokaさんからサービスローンチ後の取り組みと、段階ごとにご紹介いただくことで、リサーチが事業フェーズに合わせてどのように活用されるのか詳細にわかるセッションです。

■登壇者

takejune  / 株式会社スマートバンク 取締役CXO(写真左)
UIデザイナー、起業家。家計簿プリカ「B/43」を運営する株式会社スマートバンクのCXO。日本初のフリマアプリ「フリル(現ラクマ)」「ANGEL PORT」のファウンダー。デジタルプロダクトの作り手との対談番組「フムフムエフエム」をPodcastで配信中。

Haroka / 株式会社スマートバンク リサーチャー(写真右)
新卒で日本漢字能力検定協会に入職し、校正・校閲や設問改定のディレクションを担当後、専業主婦に。ベンチャー企業に再就職し、新規事業の立ち上げ、インフルエンサーインタビューの企画立案、執筆を経験。2020年4月よりパーソルキャリア株式会社で新規事業のUXリサーチやリサーチ組織の立ち上げに携わり、2022年4月より株式会社スマートバンクに入社。

「人が本当に欲しかったものをつくる」ため欠かせないリサーチ

株式会社スマートバンクは、「人が本当に欲しかったものをつくる」をパーパスに掲げるスタートアップです。Visaプリペイドカードを利用しアプリで生活費管理ができる「家計簿プリカB/43」や、2枚のカードでパートナーと一緒にお金の管理ができる「B/43 ペア口座」というサービスの開発、提供を行っています。

生活者のニーズを的確に捉える現在のサービスが成り立つのは、過去の苦い経験があったからこそといいます。takejuneさんと、CEO・堀井翔太さん、CTO・堀井雄太さんは起業前にもいくつかのサービス立ち上げを行ったものの、なかには誰にも利用されないサービスも。そんな経験から、「思い込みで作るのをやめる」と決意。スマートバンクには起業時からリサーチを重要視する文化の土台が築かれていました。

その後に開発した日本で初めてのフリマアプリ「FRIL(現在のラクマ)」では、ターゲットの生態調査のためのデプスインタビューや、ユーザビリティテストを重視。最終的には、約100人と会ったといいます。「ユーザーと対話しながらサービスを形にしていくことで、人が欲しがるものをつくることができた」とtakejuneさん。

ユーザーの課題を知るために、活用できる資源は逃さない

では、家計簿プリカB/43とB/43 ペア口座の機能リリース前には、どのようなリサーチの工程があったのでしょうか。

課題発見のフェーズでは以下のプロセスがあったといいます。

  1. 国内でのデプスインタビュー調査(約20名)により、お金の管理で課題をもっている3つのターゲット群を見つける

  2. ターゲットごとに担当者を決めてインタビューを行い、2つのターゲット群で強い課題を見つける

  3. その課題に対して現状ターゲットが行っている不合理な解決方法を、サービス・機能として設計する

海外の事例を研究するために、現地での調査をおこないました。さらに、Instagram経由でのインタビュー対象者へのアプローチも実施したそうです。

Instagramの活用によって、「コロナ禍で人に会いづらくなった」「紹介経由だけでは特定のターゲットが見つかりづらい」という課題を解決できたそうです。サービスローンチ1年以上前に家計管理関係のInstagram投稿のリポスト中心の情報発信アカウントを開設。リポストでフォロワーとの関係性を作ったうえで、インタビュー依頼を行ったそうです。このInstagramで出会った方は、その後のβテストの協力者にもなってもらえたそう。SNSを活用したリサーチの有用性が伝わりました。

サービスローンチ後も、ファウンダーと副業のPdMにより、PMF調査などのリサーチが引き続きおこなわれていました。しかし、全体としては「不足している機能の実装に追われてサービス検証の余裕がないという状態に陥っていた」といいます。

そんなときに専業リサーチャーの採用をはじめたところ、Harokaさんとの出会いがあったそうです。

専業リサーチャーの採用にあたり、リサーチにこだわりが強いファウンダーだったからこそ、こんな懸念が。

  • リクルーティングは外部にまかせ、「実際に課題を持っている人」を捕まえてきてはくれない

  • リサーチ手法には詳しいが、事業の解像度が低く、示唆を与えてくれない

しかし当初あった不安を見事に払拭し、Harokaさんは業務委託から正社員の専業リサーチャーへ!登壇は、そのHarokaさんにバトンタッチし、「1人目リサーチャーとしての取り組み」についてお話しいただきました。

文化を育てるリサーチャーになるため、大切なのは信頼

「まずは、自分がどう在れば、スマートバンクにリサーチャーがフィットするかを考えました」と、Harokaさん。

スマートバンクでは、ファウンダーの3人がユーザーと対話しながらプロダクトを作る文化がすでにありました。リサーチャーはその文化を引き継ぎ、組織に根付かせ育てる役割を担うのではと考えたそうです。

最初にHarokaさんが大切にしたことは、メンバーからの信頼を得ること。

  • 過去調査の進め方、活用方法などの流れをキャッチアップ

  • 金融庁のデータなどデスクリサーチ

  • リサーチに関わる各メンバーとの1on1を実施

などを取り組まれたそうです。リサーチャーにどのような期待を持っているか、メンバーからの声を参考にした姿勢がうかがえます。

<Harokaさんが業務委託として働いていたときのslackメッセージ>

Harokaさんは、信頼を双方向なものだと捉えています。相手を知る努力はもちろん、自分の言葉で仕事のスタンスを語る取り組みをされていたそう。「相手のことを知り、自分も知ってもらう必要があります」と語ります。

1人目リサーチャーが文化を根付かせるためにできること

広告訴求の精度を上げるためにデザイナーやマーケターとリサーチのプロジェクトをリードするなど、リサーチャーとして事業の成長に尽力しているHarokaさん。リサーチ文化を育てる1人目のリサーチャーとしての取り組みをご紹介いただきました。

①リサーチプロセスの標準化
調査計画書の作成や、インタビュー時のシナリオ作成など、調査がどのような目的で行われ、何に活用されるのか明文化し、誰でも見られるように整理しています。

調査に関する情報を一元化するとともに、進捗状況の可視化も行ったことで、誰でもリサーチにアクセスしやすい状態にしたそうです。まさにリサーチを組織に根付かせる環境整備の取り組みといえます。

また、リサーチのプロセスに担当者との1on1を組み込みました。事前のヒアリングでインタビューの質を上げるとともに、インタビュー後そのまま振り返りを行うことで情報共有のスピードの速さを担保してるそうです。

②他業種とのタッチポイントの新設
社内のメンバーからは、「リサーチャーの役割も、動きも見えにくい」と、Harokaさんはいいます。リサーチへの納得感をもってもらうために、社内のあらゆる職種とタッチポイントが生まれる機会を自ら提案しているそう。

カスタマーサポートの方向け勉強会の開催、エンジニアとのユーザーインタビュー分析・ペルソナ作成を実施するなど広がりを見せているようです。

③リサーチ定例を通じて開発チームと連携
PM、CXO・takejuneさん、Harokaさんでリサーチ定例を設けています。プロジェクト情報をキャッチアップすることでリサーチを開発プロセスに適切に組み込めるようにしています。

このようなHarokaさんの取り組みに、チームのメンバーとして伴走しているtakejuneさんは、「リサーチャーの採用で、事業に好影響が出始めている」と笑顔をみせます。当初の不安は杞憂だったとも仰いました。リサーチが後回しにされない環境だからこそ、仕様策定の材料が早く集まってサービス開発のスピードも精度も向上していると振り返ります。

最後に、Harokaさんから、事業を推進するリサーチをし続けるための3つのポイントをお話いただきました。

  • 事業の未来にアンテナをはる

  • チームメンバーがどんな景色をみているか知る

  • リサーチのプロセスを共有し、一緒に行う

リサーチを事業やメンバーの仕事へどう活かしていくかを常に考えていらっしゃるHarokaさんは、「リサーチは、リサーチャーだけのものではない」といいます。「専門職としてリードすべきは、チームメンバーがユーザー視点を感じながらプロダクトに向き合える環境づくり」だと、リサーチャーのあるべき姿を語りました。

まとめ

「スマートバンクのカルチャーの根幹を体現できる存在でありたい」という言葉でセッションを締めたHarokaさん。ご紹介いただいた取り組みの数々から、スマートバンクに根付き、大切に育てられているリサーチの文化がありありと伝わりました。

組織内で文化を支えるだけにとどまらず、本カンファレンスを通じて、より多くの人へリサーチ文化が伝播していくのではないでしょうか。

今回のセッションでは、サービスのローンチ前、ローンチ後、そしてリサーチャー採用後のリサーチ活用について、詳しい手法や目的とともにご紹介いただきました。より詳細にスマートバンクの取り組みについて知りたいという方は、ぜひ、takejuneさんが公開されている「🔍ゼロからのスタートアップ立ち上げにおけるリサーチ事例 (Research Conference2022書き起こし)」をご覧ください!また、アーカイブ動画も公開されています。

スマートバンクでは一緒に B/43 を作り上げていくメンバーを募集されています。カジュアル面談も受け付けていて、「まずは副業から関わってみたい…!」という方もウェルカムだそうですよ!

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それでは、次回のnoteもお楽しみに🔍

[編集] 若旅 多喜恵 [文章] 野里 のどか [写真] peach

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