たこ焼きをめぐる人類の冒険
今回はちょっと村上春樹先生風のタイトルで。(笑)
たこ焼きプレートのプロファイルも作成し、一仕事終えて近所の行きつけのお店に晩ごはんを食べに行くと、隣合わせたのは大阪出身のお客さん。
つい「たこ焼き」談義に… さすが大阪人。こと「たこ焼き」の事になるとそりゃ熱い。
「子どもの頃から、メリケン粉とふくらし粉混ぜてなあ…」
お客さんが銀座へと、はしごしに行ったあとで、お店のスタッフがボソリと。
「メリケン粉って何です?」
昭和は遠くなりにけり、です。
たこ焼き粉の成分
ところでネットで色んな方のたこ焼きのレシピをみると、メリケン粉、もとえ小麦粉(薄力粉)と出汁と醤油と塩と卵というシンプルなものが多く見受けられます。しかし市販のたこ焼き粉の袋を見ると、実にさまざまな聞き慣れない成分が表示されているのはなぜ?
「オタフクたこ焼こだわりセット」の成分
たこ焼きプレートのプロファイル検証の際に最初に購入したのは、「やっぱり、たこ焼きと言えばオタフクソースだろう」という粉物文化圏外の薄っぺらな知識から「オタフクたこ焼こだわりセット」。
まあ、これだったら何でも揃っているので楽チンだと思ったわけですが、袋の裏側にある成分表示(たこ焼き粉の)はごらんのとおり。
小麦粉(国内製造)
食塩
麦芽糖
デキストリン
でんぷん
砂糖
かつお節粉末
昆布エキス粉末
植物油脂
卵白粉/トレハロース
加工でんぷん
調味料(アミノ酸等)
ベーキングパウダー
増粘多糖類
実にたくさんの成分が入っていますが、太字にしているのは直接「味付け」に関係していないであろう、と思われる成分です。(糖分が太字になっていますが、たこ焼きがそんなに甘いと感じたことはないので)
味付けにあまり関係ない、ということはそれ以外の「何らかの機能」を持っているはず。
麦芽糖とデキストリン
この2つは、糖分の少ない固いパンを作るときに、よく使われるモルトパウダー(大麦の麦芽を乾燥・粉末にしたもの)に入っているアミラーゼという酵素によって、でんぷんを糖に分解した結果、生み出されたりします。
麦芽糖(マルトース)はブドウ糖(グルコース)が2つくっついた二糖類で、いわゆる「水飴」。パンの発酵では酵母の栄養源になりますが、たこ焼きに「発酵」は関係ないので、
(1)糖類としての保水作用。
(2)風味付け(醤油味と合わさると、ちょっと「みたらし団子風」な風味になります)。
(3)でんぷんの老化、つまりでんぷんが固くなるのを抑制する作用があります。=トロトロのものが固まりにくくなります。
(4)パンの場合は、焼いた時にカラメル化反応により焼色が付きます。
このいずれか(もしくはすべて)の働きを担っているのかなあと。
成分表示は多く含まれている順ですから、上から3番目に登場する麦芽糖は、なかなかに重要な役割のはず。
デキストリンには、粉を溶かしやすくしたり、粉が固まったりするのを抑止する効果があるので、「少しでもダマになりにくくする」機能を期待しているのでしょうか。
つまりはどちらもでんぷんから出来ている麦芽糖とデキストリンですが、一方はトロトロを維持して、一方は粉を溶けやすくする、という推測です。
でんぷんと加工でんぷん
でんぷんは、一般的に言えば「片栗粉」です。小麦粉で揚げた「唐揚げ」より、片栗粉で揚げた「竜田揚げ」の方がカラッと仕上がるのは周知の事実ですから、当然ながら「外はカラッと中はとろ〜りのたこ焼きがいい!」を実現するために少量のでんぷんを添加しているのでしょう。加工でんぷんは、でんぷんを原料に化学的に加工したもので、モチモチ感を維持したり、逆にカラッとした食感を作ったりという特定の機能を人工的に高めています。
砂糖
これは説明するまでもありませんが、「たこ焼きが甘い」と感じたことはないので、カラメル化反応により「焼き色をつける」ことに意味があるのでしょうか?砂糖にも保水性がありますが、保水性なら次に説明するトレハロースの方がより高いです。
卵白粉/トレハロース
これはメレンゲ菓子を作る時によく見る組み合わせですが、トレハロースも麦芽糖と同じ二糖類の一種です。でんぷんの老化(ごはんやパンが固くなる)を抑制したり、保水性を保ったりする効果があるので、コンビニのおにぎりや、いつまで経ってもあまり固くならないお団子なんかに入っています。
当然ながら「たこ焼き」の場合は、焼いた直後も時間が経っても「中はとろ〜り」にするために使っているのでしょう。ただしトレハロースは砂糖よりカラメル化反応が起きにくいので焼色を付けるという効果は薄いでしょう。
ベーキングパウダー
これも説明の必要はありませんね。大阪のおっちゃんが「ふくらし粉」と言っているもので、たこ焼きをふっくらと膨らませてくれます。
増粘多糖類
ここからが、今回のコラムのちょっと面白いところです。増粘多糖類には、カラギーナンとかキサンタンガム、ペクチン、などなど色々な種類がありますが、つまりは、食品にとろみを付けたり、ゼリー状に固めたりする多糖類の総称です。
たこ焼きでは当然ながら「中のトロトロ感」を維持しているはずですが、驚いたのは、この「増粘多糖類をたこ焼きに使用する」というのは、なんと「特許出願」されているのです。
たこ焼きにまつわる特許(出願も含め)の数々
まずは、2002年に出された「たこ焼き、お好み焼き用改質剤及び製造法」。
この特許出願の核心は、「表面がカリッとして形崩れがなく、ふっくらとして口当たりが良く、中心はジューシィー感、ソフト感があり、軽い食感のたこ焼き及びお好み焼き用の改質剤(原文ママ)」には「直径20μm(マイクロメートル)以下に微粉末化された増粘安定剤を添加する」という方法を発明したということ。
驚いたなあ〜。たこ焼きの作り方で特許出願か…
ちなみに独立行政法人 工業所有権情報・研修館の特許情報プラットフォーム「J-plat pat」によれば、残念ながらステータスは「却下・拒絶 出願のみなし取り下げ」になっています。
この特許出願の説明文中では、先行して出願された特許の「加工でんぷんとキサンタンガム(増粘多糖類)を添加する」という方法や「たこ焼きを製造する際に小麦粉、油脂及び澱粉エーテルの混合物を主原料とする方法」では十分ではないと言っています。
ちなみに、「加工でんぷんとキサンタンガム」方式は、日清フーズさんから出されたもので、「お好み焼類またはたこ焼類」
という素っ気ないタイトルですが、2005年にちゃんと特許を取得しています。
また「小麦粉、油脂、でんぷんエーテルの混合物」方式は、日本製粉(現ニップン)さんから出された
「たこ焼き用ミックス及びたこ焼きの製造法」
というタイトルで、これも2001年に特許を取得しています。
直接、特許情報プラットフォームの検索結果ページにリンクを張れないので、内容をごらんになりたい方は「特許3194057」をキーワードに特許情報プラットフォームで検索してみてください。
日清フーズ VS. ニップン
日本を代表する粉もの大企業の「究極のたこ焼き粉」を目指した熾烈な研究・開発の歴史。
それはまるで「プロジェクトX」の世界を彷彿とさせます。
それにしても「たこ焼き」で特許が取れるんだ…
いや、それほどに、たこ焼き市場は大きく、偉大な食べ物なんでしょう。(殊に大阪で…)
ニップンさんの特許によれば、「内部がクリーミーで良好な食感を有し、冷凍保存して、解凍した場合も同様の食感を保持する」とあり、実験でパーム油の粉末油脂を使っているので、「オタフクこだわりたこ焼セット」にある「植物油脂」というのも、そういう効果を狙っているのかもしれません。
実験でたこ焼き粉の進化の歴史をたどる
さて、そんな先達たちのあくなき挑戦の歴史に思いを馳せ、大阪のおっちゃんの「メリケン粉とふくらし粉混ぜてなあ…」から、化学的に極限へ進化した現代の「究極のたこ焼き粉」まで、その歴史をたどる比較実験をしてみようと思いました。
(実態は、ただ粉を変えて焼いてみるだけですが)
時代は令和。大手企業の巨大工場そのままを再現することは無理ですが、トレハロースや増粘多糖類のキサンタンガムやカラギーナンなら、いまやネットでも入手できます。(ちなみに加工でんぷんもAmazonでいくつか売っていますが、どんな種類の加工でんぷんが使われているのかも分からないので今回はパスということで)
果たしておうちでどこまで完成度の高いたこ焼き粉に近づけるのか?
【実験1】一番原始的なたこ焼き粉=小麦粉のみ(ふくらし粉も入れません)
まずは、大阪のおっちゃん方式よりもさらに原始的な小麦粉と卵と出汁だけ。「ふくらし粉」も入れません。今回は味付けの追求ではないので、出汁の代わりにヒガシマル醤油うどんスープ(顆粒)と水を使いました。(と言っても、コレけっこう美味しいです)
粉と水の割合は、だいたい「1:3.1〜3.3」。「1:4」ぐらいだと生地がシャバシャバで焼くのが難しい代わりに中のトロトロ感は増します。「1:3.1〜3.3」ぐらいになると生地はいくらかもったりしてきますが作りやすく、「オタフクこだわりたこ焼セット」も、このぐらいの割合になっています。
たこも天かすも具材はまったく入れません。何しろ「生地感」を評価しますから。なので、できるだけ少量で作ってみましょう。(具のないたこ焼きはしんどいです)
【材料と分量】
小麦粉 29g
ヒガシマル醤油うどんスープ(顆粒) 2g
卵(全卵) 1/2個(約25g)
水 100ml
きれいに焼けていますが、焼色は薄く、ちょっとシュークリームみたいな風合いです。(こんな色合いのたこ焼きもありますよね)
ふくらし粉(ベーキングパウダー)が入っていないので、断面をみると生地がみっちりとあり、具がないと結構に食べごたえのある質感です。ただベーキングパウダーが入っていない分、30分常温に放置しても、しぼんだりという変形はあまりないのがメリット。
先ほど紹介した日清フーズさんやニップンさんの特許を見ても、単純に作りたての美味しさだけでなく、冷蔵や冷凍・解凍しても美味しさを保つことを視野に入れているので、試しにお皿に軽くラップをかけ、冷蔵庫に約5時間放置してみました。
断面を見ると、ベーキングパウダーを入れていなくても、放置すると空洞が空いてくるんですねえ。
それでは早速試食を。
うっ!これは明らかに不味いです。
何かに例えるとすれば、「ちょっと固くなった冷たいちくわぶ」。とても食べたくなるような代物ではありません。具が入っていないので小麦粉の重い質感が余計に胃もたれを感じさせます。
【実験2】小麦粉とベーキングパウダー
次は、【実験1】のレシピに、ベーキングパウダー 0.4g、つまり小麦粉に対して約1.4%を加えて「メリケン粉とふくらし粉混ぜてなあ…」の大阪のおっちゃんバージョンです。
【材料と分量】
小麦粉 29g
ベーキングパウダー 0.4g
ヒガシマル醤油うどんスープ(顆粒) 2g
卵(全卵) 1/2個(約25g)
水 100ml
ベーキングパウダーを入れると、焼いてるときは目一杯膨らんで気持ち良いのですが、たこ焼きプレートから取り出した瞬間からしぼみ始め、さらにシュークリーム感が増します。断面を見るとベーキングパウダーのおかげで実験1より空洞が大きくなっていますが、これは食感に必ずしもマイナスではありません。これで具材が入っていれば「ふわふわ感」が増すのでは。
ただ常温で30分置くと、さらに微妙にしぼんでいるのがちょっとわびしいですが…
思ったより、しぼみ方は少なかったものの、食感はやはり「ちょっと固くなったちくわぶ」。
具材が入っていたとしても、あまり食欲はそそられない代物です。
【実験3】片栗粉を加える
次は【実験2】から小麦粉を2g減らして、その代わりに片栗粉(でんぷん)2gを加えてみます。重量比で言うと、小麦粉の約7%を片栗粉に置換したことになります。
【材料と分量】
小麦粉 27g
片栗粉 2g
ベーキングパウダー 0.4g
ヒガシマル醤油うどんスープ(顆粒) 2g
卵(全卵) 1/2個(約25g)
水 100ml
片栗粉を加えると、がぜん表面の「カリッと感」が出てきます。そしてシュークリームからたこ焼きらしいビジュアルに。焼き立ての時の中の味は変わりませんが、外側が固いのでベーキングパウダーを入れても、ほとんどしぼむことがありません。常温で30分置いても、少ししわが増えたかな?ぐらいの感じです。
冷蔵庫に5時間放置したあと、一口食べてみると…
あれっ?少量の片栗粉を加えただけなのに、「ちょっと固くなったちくわぶ」のような味が薄らいで、軽い口当たりに感じます。片栗粉をちょっと加えるだけで、だいぶ食感は改良されたような気も。
【実験4】砂糖を加える
あいにくグラニュー糖しかなかったので、【実験3】のレシピにグラニュー糖を1.5g(粉総量の約5%)加えてみることにします。
【材料と分量】
小麦粉 27g
片栗粉 2g
ベーキングパウダー 0.4g
グラニュー糖 1.5g
ヒガシマル醤油うどんスープ(顆粒) 2g
卵(全卵) 1/2個(約25g)
水 100ml
表面の焼色は、グラニュー糖のカラメル化反応で【実験1〜3】より良く付くようになりました。さらに一口食べてみると、グラニュー糖の保水性により、今までよりジューシーです。
2分割した画像をみると、ベーキングパウダーの量はこれまでと同じなのにもかかわらず、空洞が小さくなっています。中の生地が今までより水分を保っているためかもしれません。
一方で、片栗粉による表面のパリパリ感が若干減ったような印象。常温30分後にはちょっとしぼみ始めています。このあたりは片栗粉の量を増やして調整が必要かもしれません。
グラニュー糖を入れただけで、「冷たいちくわぶ」からは卒業ですね。ある程度水分が残っていて、いわゆる「たこ焼きの食感」に近づきつつあります。
【実験5】トレハロースを加える
次にトレハロースを加えてみます。トレハロースはAmazonで買いました。
トレハロースの通常の使い方は、普通の砂糖の30%ぐらいをトレハロースに置換するのですが、甘さもほとんど感じませんでしたし、ここはトレハロースの効果をみたいので、単純にトレハロースを1g加えてみます。
その代わりに【実験4】で、グラニュー糖により表面のパリパリ感が減ったので、小麦粉の量を2g減らし、片栗粉を2gさらに増やしてみます。
【材料と分量】
小麦粉 25g
片栗粉 4g
ベーキングパウダー 0.4g
グラニュー糖 1.5g
トレハロース 1g
ヒガシマル醤油うどんスープ(顆粒) 2g
卵(全卵) 1/2個(約25g)
水 100ml
予想通り、今まで一番ジューシーな仕上がりになりました。しかし、やはり内側の「ジューシーさ」と外側の「カラッと感」とは、「トレードオフの関係」にあるようです。写真ではちょっと分かりづらいですが、中の保水性が良くなると、焼いている時はカリッとしているのですが、取り出すと、すぐに表面が柔らかくなってしまいます。
ごらんの通り、半分に切ろうとしてもグチャっとなってしまうぐらいに外がしっとり。ただこれ以上、片栗粉を増やすのはちょっと躊躇する感じですね。
トレハロース1gはやり過ぎだったのかも。次はちょっと減らしてみましょう。
冷蔵庫に5時間放置後でも、今までで一番モチモチ感が残っています。
【実験6】増粘多糖類(キサンタンガム)を加える
キサンタンガムはごく微量で効果を発揮します。日清フーズさんの特許の中でも
「キサンタンガムを、小麦粉等 穀粉類(a)の重量に基づいて、0.1~3重量%の割合で含有するのが好ましく、0. 5~2重量%で含有するのがより好ましい。(原文ママ)」
とあります。
今回は小麦粉と片栗粉を合わせて29gですから、0.1%ならキサンタンガムの分量は0.03g、0.3%なら0.09g。こんな微量のものを測るには、極微量のものを測れるスケールが必要です。
こんな感じのジュエリー用の小数点第三位まで測れるスケールが安くてお得です。Amazonで売ってました。こんな道具も使って、トレハロースを1g→0.5gに減らして、キサンタンガムを0.03g加えてみます。ちなみにキサンタンガム自体もAmazonで売っています。
【材料と分量】
小麦粉 25g
片栗粉 4g
ベーキングパウダー 0.4g
グラニュー糖 1.5g
トレハロース 0.5g
キサンタンガム 0.03g
ヒガシマル醤油うどんスープ(顆粒) 2g
卵(全卵) 1/2個(約25g)
水 100ml
片栗粉のおかげで、シワの寄ったシュークリーム状態にこそならないものの、中も外も柔らかく、焼き上がり直後に半分にカットすると写真のとおりグチャグチャになってしまいます。
冷蔵庫に5時間放置したものもかなり保水されており、表面が柔らかいため【実験5】と同様に、元は「球形」だったたこ焼きの下半分が平らになってしまっています。
【実験7】麦芽糖(マルトース)を加える
成分表示は通常、多いものから順に並んでいるので、「オタフクたこ焼こだわりセット」の場合、順番からみて糖分の大部分は麦芽糖(マルトース)のはずです。そこでグラニュー糖1.5gのうち、1gを麦芽糖に変えてみます。
マルトースもこれまたAmazonで買えます。
【材料と分量】
小麦粉 25g
片栗粉 4g
ベーキングパウダー 0.4g
麦芽糖 1g
グラニュー糖 0.5g
トレハロース 0.5g
キサンタンガム 0.03g
ヒガシマル醤油うどんスープ(顆粒) 2g
卵(全卵) 1/2個(約25g)
水 100ml
相変わらず表面が柔らかいものの、【実験6】のグラニュー糖より若干コシが残っている印象も。
それにしても麦芽糖は風味がいいですね。ヒガシマル醤油うどんスープのしょうゆ味と一緒になった時に微妙なコク(あえて言えばみたらし団子的な)を感じる風味になります。(たこ焼きソースやマヨネーズをかけてしまえば、まったく分からなくなってしまうのでしょうが…)
保水成分についてはグラニュー糖の大半が麦芽糖に変わっただけなので、【実験6】とほぼ変わらない結果でした。
実験のまとめ
ここまで実験してきたことを感想も含めまとめてみます。
(1)中の保水性を高めるために糖類(増粘多糖類も含め)を添加することに効果はあるが、食感はトロトロというよりモチモチだった。
(2)外をカリッとさせるために、でんぷん(片栗粉)を入れることは一定の効果はあるが、中の保水性を先端的な添加物で高めた場合には限界がある。
(1)について言えば、実験の生地の粉と水分の比率が1:3.3ぐらいの割合だったことも関係しているのかもしれません。焼き方の難易度は上がりますが、これを1:4ぐらいのシャバシャバな生地で作れば「トロトロ感」がもっと出るはずです。
(2)について言えば、中にトレハロースやキサンタンガムなどの「保水新兵器?」を使ってしまうと、普通のでんぷん(片栗粉)では負けてしまうということ。「オタフクたこ焼こだわりセット」に加工でんぷんが入っているのもそのためなのでしょう。
「中にトロトロ用新兵器を使ったら外もカリッとする新兵器で対応する」
必要があるようです。もしかしたら各社の研究・開発はこの2つのジレンマをどうやって解決するか?の歴史だったのかもしれません。
外側カリッの新兵器「リン酸架橋でんぷん」?
例えば、タピオカでんぷんを原料にした「リン酸架橋でんぷん」という加工でんぷんがあります。この加工でんぷんは粘性が出にくく、水抜けも良いのでフライなどの衣のサクサク感を長時間維持することができるそうです。「オタフクたこ焼きこだわりセット」に、通常のでんぷんとともに加工でんぷんが入っていたのも、中の保水性を上げた分、表面をカリッとさせるための対策だったのかもしれません。さすがに「リン酸架橋でんぷん」はAmazonで見つけられなかったので、実験できませんでしたが、日清フーズさんの特許の中にも、
「小麦粉等穀粉類(a)に、上記したアセチル化及び/又は架橋処理 澱粉(b)と共にキサンタンガムを配合することが必要である。(原文ママ)」
と記されているので、きっとそうなのでしょう。
「オタフクたこ焼こだわりセット」以外に、
銀だこさんの「ぜったいうまいヒミツのたこ焼粉」
昭和産業さんの「とろ〜りおいしい たこ焼粉」
ニップンさんの「皮パリッと中とろ〜り 本場大阪の味 たこ焼粉」
の3製品のたこ焼き粉を買ってみたのですが、昭和産業さんのたこ焼き粉とニップンさんのたこ焼き粉には、やはり「加工でんぷん」が含まれています。
不思議なのは、一番皮がパリッとしていて揚げ焼きのようになっている銀だこさんのたこ焼き粉には、加工でんぷんはもちろん、普通のでんぷんも入っておらず、小麦粉だけで作っているところ。
もちろん作り方には、仕上げの油差しの指示もありません。今度、実際に作って仕上がりを見てみます。
ただし、「とろ〜り」のために糖類を入れるのは3製品とも共通です。銀だこさんとニップンさんは「砂糖」、昭和産業さんは「水飴粉末」とあるので「麦芽糖」。
「砂糖か麦芽糖か?」は、どうも2つの派閥?があるようです。(笑)
最後に
いずれにせよ、バランスが難しいという問題はあるにせよ、
「たこ焼き粉にでんぷんを入れると外側はパリッとし、糖分を入れると中の保水力は高まる」
ということは分かりました。
なので加工でんぷんは入手できないことを前提に(よってバランスの問題からトレハロースやキサンタンガムも使いません)、実験の結果が最も「中はとろ〜り 外はパリッと」に近かったレシピを、まともな分量(と言ってもReproのプロファイルがある「岩鋳たこ焼14穴(木柄付)」でちょうど1回分の量ですが)に割り戻したものを最後に。
「大人のカップルがリビングテーブルで、ちょこっとだけたこ焼きをつまみにビールを…」
という生活シーンを想像しながら作った簡単・少量バージョンなので、ガッツリ行くときは分量を倍量とか3倍量でお願いします。
小麦粉 50g
片栗粉 8g
麦芽糖 2g
グラニュー糖 1g
ベーキングパウダー 0.8g
ヒガシマル醤油うどんスープ(顆粒) 1/2袋(4g)
卵(全卵) 1個
水 250ml
ちなみにこの配合、冒頭の大阪のおっちゃん曰く、「東京で一番美味しいたこ焼き出す店は大塚の上木屋だ!」と太鼓判を押していたお店でたこ焼きを焼いていた某「山◯さん」に合格点をもらえたので、焼きたてならそれなりに「外はカリッと中はとろ〜り」になるはずです。
「とろ〜り感」を出すために水分量を1:4ぐらいにしていますが、たこ焼き初心者の筆者でもなんとか焼けたので、手慣れた方なら簡単に焼けるかと思います。
このレシピはアプリ・公式サイトに「ちょっと粉にこだわったたこ焼き(14穴)」というレシピ名で公開しておきます。
【焼色について補足】
補足情報です。前回のコラム記事「Reproでたこ焼き器の穴の温度を測ってみた」で説明しましたが、今回使っているたこ焼きプレート「岩鋳たこ焼14穴(木柄付)」は、最も温度が高い穴と最も温度が低い穴では20℃以上の差がありました。
一方、今回のたこ焼き粉に使っている麦芽糖のカラメル化反応が始まる温度は、砂糖(蔗糖)より20℃高い180℃です。(実は糖の種類によってカラメル化が始まる温度は異なります。主流は160℃ですが、果糖は110℃と他の糖よりかなり低い温度でカラメル化が始まります)
何が言いたいかと言えば、Reproのプロファイルは安全性の観点から最も温度の高い穴に合わせています。
つまりReproで200℃に設定すると、「最も高い穴が200℃になる」ようになっています。ということは、最も温度が低い穴は、麦芽糖のカラメル化反応が始まる180℃より低くなってしまいます。
ですから、このレシピでたこ焼きの焼色を均一にしたい時は、焼いている途中で温度の高い穴から低い穴への「穴の差し替え作業」が必須になります。(アレの洗練されたピックさばきが、初心者の憧れマインドを刺激しますが…)
「そんなのめんどくさい」という方は、粉の配合の「麦芽糖」の部分をすべて「グラニュー糖(砂糖)」に置き換えてください。カラメル化が160℃ぐらいで始まるため、少しは焼色の差が小さくなるはずです。