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デザインはデザイナーだけが作るんじゃ無いよ


年が明けて世間はセールの真っ最中です。

僕もお気に入りの店の何軒かは見てまわったんですけど何も欲しいものが見つかりませんでした。


・・・いや。すいません、嘘です。

欲しいものはいくつかありました。


でもそれは安くなって無かったり、プロパーの値段が高すぎて安くなってるけどまだ高くて買えなかった。つまりは買える値段内では欲しいものが見つからなかったっていうのが正しい言い方です。

なんせ店舗兼住居のことやブランドの展示会準備なんかに結構なお金がかかるんで今はいつもみたいに趣味だけにお金を使えないんですよね。

ただここはしっかり我慢してお金の使い方を間違えないようにしないと後から絶対に後悔すると思うので今は財布の紐をキツくキツく結んでおかないと。

それに来月になれば24SSの新商品が店頭に並ぶわけですし。

今は我慢です。


デザイナーという仕事に対する向き合い方


よく雑誌やテレビに出てくるファッションデザイナーという肩書きの人が『カクカクしかじかの思いを込めて作りました。』とか言っているのを見聞きします。僕はこの手のセリフを聞くといつも『イヤイヤ、作ったんは別の人やろ?あんたはデザインしただけやがな』ってツッコミを入れてしまいます。

全部が全部、そうでは無いけど世の中のプロダクトのほとんどはデザイナーがデザインしたものを職人さん達が作ることで商品として完成しています。『デザインしました』は正解ですが『作りました』は言ってしまえば嘘になります。

だから間違ってもデザイナーが『僕が、私が作りました!』って言ってはいけません。

さらに言うとそのデザインですらデザイナーだけが作っているわけではありません。

僕はファッションデザイナーだけでは無く、建築デザイナーからファンシーグッズデザイナーまで、世の中のデザイナーさん達は常日頃、この心構えを持っておくべきだと思っています。

まぁこれは僕の個人的な考え方なので異論反論は多々あるかと思いますが、それでもやっぱり書いておきたいと思い、今回は『僕はこんな考えを持っています』っていう考え方のご紹介ぐらいの感じで書いてみようと思います。



デザインとは五感で感じるもの全部の事



僕はアパレル業界で企画の仕事をしていますので、このお話もアパレル業界に絞って話をしようと思います。

ファッションデザインと聞くと服の見た目のデザインというイメージを持つ人も多いんじゃ無いかと思います。

これは間違いでは無いし、大枠はこの理解で合っています。

でも実際はその生地の手触りや着た時のフィット感、生地や付属から聞こえる音に至るまでデザインというものは存在しています。

それでもメインは見た目である事は事実ですし、一番重要です。

ではファッションにおける見た目のデザインとは何か。


これは大きく2つあります。


1つは生地の見た目。服は生地で作られているので生地の見た目 = 服の見た目と言っても過言ではありません。生地の見た目には色や柄、素材による光沢や毛羽感、凹凸感などがあり、どれも見た目のデザインにはとても重要です。

もう1つは形の見た目。襟や袖、ポケットや付属使いと言ったディティールから丈感、シルエットなんかのフィットまでを含みます。

この生地と形の2つの要素、大枠はデザイナーが考えていると思ってもらって間違いありませんが、よくよく考えると生地は生地屋さんが『作って』いますし、形はパターンナーさんと縫製職人さんが『作って』います。どんな風に作って欲しいかを『デザインして』いるのはデザイナーですが。

中にはパターンを自分でひいたり、裁断〜縫製も自分でやっているデザイナーもいますが、多くはデザイナーがデザインをして生地や縫製の職人さんに作ってもらっている。

なのでデザイナーは『僕が作りました』っていう感じの事は言ったらダメで、『僕がデザインしました』とか『僕たちが作りました』って言うべきです。

特に縫製については職人さんの技術とセンスが商品の見た目にめちゃくちゃ大きい影響を与えます。


僕が若い頃、縫製工場でお手伝いをしていた時にある職人さんにお願いしてスーツとかスラックスに使うようなウールの生地で5ポケットパンツを縫ってもらった事があります。

その工場は僕が手伝いをしていた工場の仲間工場の一つで、スラックスをメインとして縫製している工場さんでした。

同じパンツというアイテムではあるけどスーツのスラックスとデニムとかの5ポケットパンツとではパターンも仕様も縫製方法も全然違うので言ってしまえば別物なんです。だから通常ではそんなサンプルの縫製は引き受けてくれませんが、僕が顔なじみだった事もあって面白がって縫ってくれました。

もう一方で同じパターン、同じ生地の5ポケットパンツをデニムパンツ工場さんにお願いしました。こちらの工場さんは生地に馴染みは全然無いけど仕様と縫製方法は大得意の内容です。

同じ生地、同じ付属、同じパターン、同じ仕様で、生地に馴染みはあるけど形と縫製仕様に馴染みが無いスラックス工場さんと、生地に馴染みはまったく無いけど形と縫製仕様は縫い慣れたデニムパンツ工場さんに依頼したわけです。

で、あがってきた2本のパンツは生地は同じでデザイン、仕様も同じ(厳密に言うとミシンの違いがあったので『完全に同じ』では無かったですけど)なんですが、見た目が全然違ったんです。

スラックス工場さんの方は生地の地の目がきれいに通っていてハンガーで吊るすとストンと生地が落ちています。ステッチも生地に沈み過ぎず、厚みに合わせた絶妙な糸調子なのでステッチ部分、地縫い部分にほとんどツレやピリつき(ピリつきというのは縫製部分の生地が波打っている状態の事です。)がほとんどなく、一言で言うとめっちゃクリーンなイメージ。

デニムパンツ工場さんの方はステッチの糸調子が強めで、その影響で全体的に適度なピリつきが出ているのできれいなウールの生地を使っていますが、デニムパンツのようなカジュアル感がありました。

この見た目の違いには『職人さんの技術とセンス、経験の違い』がそのまま出ています。

重要なのはこの2種類のパンツに『優劣の差』は無いと言う事です。どちらも素晴らしい商品です。あるのは『見た目の違い』です。

ここまで読んで頂いたら理解して頂けたかと思いますが、デザインが見た目のことであるという前提なんだったら縫製職人さんもデザインしているってことなんです。

1着の服が商品として完成する過程の中でデザイナーの役割がどれほど一部だけなのか、分かって頂けたでしょうか。


だからデザイナーは自分がデザインした服をどんな風に縫って欲しいかをしっかりとイメージしなければなりませんし、そのイメージを再現してくれる縫製職人さんを見極めて縫製を依頼しなくてはダメなんです。

その為には時間を作って工場に行って職人さんと話をして信頼関係を築き、工場の設備と得意不得意を理解し、自分がイメージしているデザインが作れるのかどうかを正しく判断しないといけません。


今回の話はファッションデザイナーに向けた話でしたけど、どんなジャンルだろうとデザイナーというポジションの人には大なり小なり通ずるものがあると思います。

あなたがかっこいいと思ったその服はデザイナーがデザインして、生地屋さんが生地を作って、付属屋さんがボタンなんかを作って、パターンナーさんがパターンをひいて、縫製職人さんが縫ってくれたから存在している。

皆さんも今後、お店でかっこいい服を見つけたら少しでいいので今回の記事を思い出して頂きたいと思います。


それではまた!


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