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電子メディアの弊害(その1)

突然ですが、この記事の読者が子育て中の親であれば、(あるいは、過去に子育てした人、これからする人でも)、今から育てるお子さんを、どんな青年に育てたいでしょうか? どんな大人に成長してほしいと思いますか?

① 勉強熱心で努力家。自分で朝起きて登校し、勉強に取り組むような小中学生
② 勉強嫌いで努力も嫌い。朝が苦手でなかなか起きてこない。口癖は「面倒臭い」という小中学生

大抵の人が①を選ぶのではないでしょうか?

最近では、少子化傾向が顕著ですが、一人ひとりの教育費には年間30万円以上かかっているという調査があります(こちら)。その一部は塾に通わせる費用です。例えば、有名なところでは、公文や学研は1教科あたり7000円〜10000円の月謝が必要です。低く見積もっても、年間で10万円(30万円の1/3)は塾の費用になるわけですね。学校だけでなく、塾通いをさせているなら、「勉強できるようになってほしい」という親の願いが表れていると言えますよね。

出典:経済のプリズム 第170号(平成30年7月) 「グローバル経済と地方創生/子どもの教育費」

では、子どもがいる前提で、子どもに電子メディアの時間は1日何分までなら許容できますか? ちなみに電子メディアとは、テレビやゲーム機、スマホやタブレットなどの端末や、それらを通して利用できる動画やゲームなどのコンテンツです。

③1日1時間未満
④1日1時間以上

テレビだけでも④を選択する家庭が多いのではないでしょうか。最近では、スマホやタブレットは親が管理しているけれど、テレビは自由という家庭の相談もよく受けます。「週末は朝からテレビがつきっぱなし」「食事中もテレビを観ながら」なんていう家庭も増えている印象です。その場合には、テレビの時間を抜いて、インターネットやゲームの時間だけでも考えてみてください。

それでもやはり④となる家庭は多いかもしれません。

ところで、日本小児科学会では、テレビの視聴時間が長いと、ことばの発達が遅れるという指摘を、スマホが普及するよりも前の2004年に出しています(乳幼児のテレビ・ビデオ長時間視聴は危険です)。
テレビだけでも「1人では見せない(一緒に見る)」「食事中は消す」「子ども部屋には置かない」などの提言がなされています。この当時から、電子メディア(テレビ)の長時間視聴が習慣化すると言語発達が遅れると明言しています。主に乳幼児の親子のかかわりを大切にするという視点で書かれた警告文ですが、考え方はそのまま就学年齢の子どもにも当てはめて考えることができます。

また、他の調査では、電子メディア(この調査ではスマホ)の使用時間が増えれば増えるほど、学力が低下するという調査結果があります。大人の脳トレで有名な川島隆太教授らと仙台市の共同調査の結果です。
ネット記事でも簡単な紹介があるので興味ある方は読んでみてください(こちら)。

あくまでも相関があるという結果であり、「学力が低いのは、スマホが原因」と断定しているわけではありません。でも、なんとなく「そうだろうな」と思いませんか? 単純に考えて、電子メディアの時間が増えるほど、学習時間は減ることになります。それだけ親子の会話も減るかもしれません。
しかし、それ以上に、長く使えば使うほど、他にも子どもの発達に様々な悪影響が生じるのです。その悪影響については、スマホが普及する以前から奥田健次先生が指摘しています。今では使われていないサービスに関しての記述もありますが、その弊害に注目すれば、現在にでも共通の危険性があることが理解できるでしょう。
※奥田健次 (2008) 携帯電話を子どもに持たせることに関する諸問題ー心理学者から見た批判的考察ー 子どもの健康科学, 9, 45-49.

ここまでのところをまとめると、子どもに、自分から勉強に取り組む子になってほしい(①)と考えながら、電子メディアの時間は1時間以上(④)を選んでいる方は、願いとは逆のことをやっている可能性が大きいことになります。
電子メディアを与えておいて学力を下げ、そしてお金を払って塾通いさせるという皮肉な状況になってしまっているのです。

毎日ビュッフェレストランに連れて行きながら、子どもに「太るな!」という親がいたら矛盾を感じると思いますが、メディアを自由にしておきながら「勉強しろ、成績を上げろ」というのもビュッフェレストランの例と大きく変わることはありません。でもそういう親御さんは多いのです。その延長線上には不登校やひきこもりの問題もあります。メディアを自由に使わせておいて、登校できなくなった子どもに「学校に行け!」と言うのも同じことです。

もちろん、テレビはもちろんのこと、スマホやタブレットのような電子メディア端末、YouTubeやNetflixのようなオンデマンドの動画配信サービス、インスタやTikTokのようなSNSが、生活に欠かせない世の中になってしまっていることも事実です。学校でも端末が配布される時代なので、まったく触らせないとか一切家庭から排除することは不可能でしょう。でも、無防備に、無策に子どもに電子メディアを与えていると、大事なお子さんが願っていない方向へ育ってしまいます。大きくなってから、「こんなはずじゃなかった」では、もう遅いのです。現在、子育て中の方、またこれから子育てをする方、そして、子育て支援の専門家の方々が、電子メディアの与え方について、考え直すきっかけにしてもらえれば幸いです。

電子メディアがなぜ危険なのかについては、いつか他の記事で解説したいと思います。


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