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紫織零桜☆
2022年4月23日 00:02
チャシャ猫は笑ったまま、すうっと目を細めた。白ウサギは表情を変えない。……2人は互いを見つめたまま、同時に片足を後ろに引く。ーーーー次の瞬間。チャシャ猫と白ウサギの武器が激しくぶつかり合う。その反動で、爆風が辺りに吹き付けた。「………………っ」アリスは砂嵐から目を守るために顔の前に腕を出す。その間にも、2人の戦いは繰り広げられていた。白ウサギが先手を切ってチャシャ猫に剣を繰り出す。チ
2022年4月16日 00:46
……分かってる。チャシャ猫の全てが理解出来る訳ではないけれど。その孤独感は、私も知っている。両親が死んで、どうしようもない寂しさと不安に毎日襲われていた。でも、私には街の人達がいたから、寂しくても元気で暮らして来れた。白ウサギにも仲間がいる。でも、チャシャ猫にはきっと、誰もいなかったのだろう。この何処までも闇が広がる死の森で、たった一人で苦しみに耐えて来たんだ。……私に、出来ること
2022年4月9日 02:39
アリスは、そのあまりの凄まじさに息を飲んだ。白ウサギがアリスの腕を引く。「行くぞ」「う、うん」慌ててアリスも走り出す。その周辺では、三月ウサギと眠りネズミの2人が公爵夫人の騎馬兵を相手に銃戦を繰り広げていた。アリスは振り返らずに白ウサギの背中を追う。そこから前を覗くと、何かが見えてきた。「……人?」アリスは思わず立ち止まる。目の前にいたのは、二十歳程度に見える女の人だった。こちら
2022年4月2日 00:09
ドックン……と、ひときわ大きく鼓動が鳴る。動揺が収まらないアリスの顔を、眠りネズミが覗き込む。「……分かった?」眠りネズミのその言葉と同時に、アリスの脳裏にイカレ帽子屋の言葉が流れ込んできた。『お前はこの森の中央を目指せ。このくそ猫は、あそこへは行けない』そして眠りネズミは言った。『白ウサギはたぶん、この戦いの原因を知っている』眠りネズミが嫌いなもの。それが、この戦いを起こした……
2022年3月26日 00:32
ーーそれは10年ほど前の話。白ウサギは『鍵』を止めるため、アリスの様子を探りに人間世界にやって来た。耳と尻尾は巧妙に隠し、人間に紛れ込む。着いたのは街外れの山奥。本当に人が住んでいるのかも不思議なその場所に、ぽつんと一軒家が建っていた。白ウサギがその家に近付こうとした、その時。「!!」『鍵』が白ウサギの行動に気付いた。急な異空間からの攻撃に対処しきれず、白ウサギは数十メートルほど後ろ
2022年3月19日 00:11
翌日。太陽の強い日差しが不思議の国を照らす中、3人は死の森の中央部の川辺に立っていた。アリスの顔が引きつる。「…………それ、本気で言ってるの?」「………………」それはほんの数分前のこと。その川は横幅十メートルになるかという、とても大きな川なのだが、白ウサギはそれを飛び越えて渡ると言い出した。三月ウサギも当然そのつもりだったらしく、準備運動を始めている。そのため、アリスが三月ウサギに
2022年3月12日 00:45
「ーー大丈夫だ。あいつは死ねない」「え……」アリスは白ウサギの言葉に疑問を持った。『死な』ないではなく『死ね』ない……?「どういう……こと…………?」白ウサギはアリスの方を向いた。その瞳にアリスが映る。「帽子屋だけじゃない。この不思議の国の住人は全て……死んでもまた、甦る」「!!」不思議の国の住人は、その生を終えると再びハートの女王の薔薇園から甦るのだという。名前や見た目はそのま
2022年3月5日 01:25
しばらく走った所で、アリスは足を止めた。目の前には小さな扉がある。アリスは、その扉をゆっくりと開けてみた。「……違う」扉が閉まると、アリスは再び歩き出した。『鍵』が見つかるまで、これを永遠と続けていかなくてはならないのか。それを考えると、気が遠くなった。「でも、やらなきゃ」アリスは自分の頬を叩き、気合いを入れる。白ウサギ達に助けてもらうだけじゃダメなんだ。自分が決めた事なんだから、自
2022年2月26日 01:30
それが全ての始まり。これは、アリスと不思議の国の物語ーー。「『アリスも、初めは普通の少女だったんだ。不思議な事が大好きで、この国の住人とも仲良く暮らしてた』」彼女と特に仲が良かったのは、ハートの女王だった。2人はいつも街に繰り出して遊んでいた。赤い薔薇が好きなハートの女王。城の庭園に白い薔薇を植えてしまって困り果てていたハートの兵士達に、アリスは優しく声をかけた。ーー大丈夫。ペンキで赤く染め
2022年2月19日 00:09
アリスとハートのジャックは、先程歩いた廊下をゆっくりと戻っていく。その途中、庭に赤い花が咲いているのに気付いた。あれは……ーー。「あれは元は白い薔薇だったのですよ」「なぜ、赤く染まっているの?」「貴女の前の"アリス"が、陛下が赤が好きだと聞いて、城の兵士と共に、ペンキで白い薔薇を赤く染めたのです」アリスは口をつぐんだ。ハートのジャックは続ける。「……『アリス』は陛下の全てだったのです」
2022年2月12日 00:10
「ん……」誰かに呼ばれた気がして、アリスは目覚める。辺りを見渡すと、一面が花畑だった。不思議の国ではないーー直感でそう思った。「……ここは…………?」「ここは『鏡の国』だよ、アリス」後ろから声がした。慌てて振り向くと、双子の小さな少年達が、2人仲良く手を繋いでアリスを眺めていた。見た目は5、6歳程度に見える。「鏡の国って?」アリスが疑問を投げ掛けると、2人は顔を見合わせて笑う。「鏡
2022年2月5日 02:44
あれから数日が経った。三月ウサギの傷も塞がり、あとは体調の回復を待つだけなのだが、白ウサギの提案で街の散策に出掛ける事になった。今日は『鍵』の気配がないから、アリス一人で外出しても問題ない、らしい。街の中央部に入ると、人々の賑やかな声が充満していて、楽しそうな雰囲気が伝わってきた。街に響く愉快な音楽や香ばしいパンの香りも、アリスにとっては全てが新鮮だった。「お嬢さん、お一つどうだい?」「
2022年1月29日 00:07
白ウサギの穴まであと少しという所で、三月ウサギの足が止まる。草むらの方角を凝視した。ーー来る。直感でそう感じた。三月ウサギはアリスの手を掴むと、ぐいっと強引に自分のほうに引っ張って走り出す。すると、アリス達が通過した所に、次々と槍が突き刺さっていく。それらをかわしながら、敵の居場所を確認する。既に近くの茂みに隠れていたのだろう。敵の数は相当なものだった。二十……いや、三十か。それら全
2022年1月22日 00:27
一方チャシャ猫は、城の前で一人の青年と相対していた。青年の服装はきちんとした白のスーツ姿。髪は短髪。腰には帯刀。そして何より端整な顔立ちの青年だった。彼は、その静かな瞳でチャシャ猫を見下ろす。先に口を開いたのはチャシャ猫だった。「あれ?ジャック。わざわざ出迎えなんてご苦労様だね」「早く城の中へ。……女王陛下が大層お怒りです」「うわ。あの人怒ると怖いからな~」そのわりには愉しげな口調のチ