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Fool on the planet

古いnoteを見返していて、この記事を見つけた。FANKSならご存じのとおり「Fool on the planet」はTM NETWORKの名曲である。この記事を書いたのは2021年の8月であった。このころの私は、まだ、知らない。この1年後に長年の夢が叶い「Fool on the planet」を生で聞ける日が来ることを。

すべての物事には何らかの意味があり、未来へとつながっていくと考えている。この日の記事もまた、未来へとつながっていた。

多少加筆したが、まずは過去記事を紹介する。

2021年9月の記事「Fool on the planet」

今日確かに、世界が一瞬だけ私のものになった。あまりに不思議な感覚だったので書き残す。

仕事に熱中していれば良いタイプの私は、まず家を出ない。今日は車を見てもらうために渋々出かけていた。予定では14時から1時間。仕事もあり、その時間内で終わってほしかった。しかし実際には17時近くに完了。帰るころには、もう暗かった。

新しい車はBluetoothを使って音楽が聴ける。Siriに頼むとデバイス内の音楽が再生可能。しかし、Amazonのアプリも使える。今日はAmazonのアプリを使っていた。夕闇のなかを、新しい車で走っていたが、BGMはTM NETWORKの「Fool On The Planet」だった。初めて聴いたのは小学生のころだから30年以上前だろう。

「ただのdreamer人は言うけれど
この地上にあふれる全ては
僕に似た昔の誰かが
夢見てはかなえてきたもの」
(Fool On The Planet /TM NETWORK)

その曲に熱中していたころ、毎日大学ノートに手書きで何か書いていた。シビアな現実の中での、ただの逃避。でも、そのころは確かに物書きになりたかった。親は私に『夢』や『選択』を許さないタイプで、目標は介護をさせるというものだけであり、それ以上はない。大学進学は不可。しかし「満足な暮らしができるだけ働け」と難易度の高い要求が出される日々。結婚は親が決めてしまい、家まで建ててしまった。旅番組を見て「いいなあヨーロッパ行ってみたいな」と言っただけで号泣される。私に「選択肢」があるのが許せないのだという。進路を決めなければならないタイミングで、物書きになりたい話はしたものの、怒られるしハンストされるしで、まったく話にならず。表面上だけ諦め、私は抗うようにして可能な範囲でもがいていた。選択肢は、あまりなかった。家の中で、書いた文章の話はしない。

そんな日々のなかで(紙媒体のもので今は活かしようもないが)実績を積み重ね、なんとか文章を糧に生きられるようになった。何十年もかけて。

今日その曲を聴きながら、「結局私は文章を書いて生きている。諦めなかった。文章で飯を食うなんて夢でしかないと言われたけど私は手に入れた」と唐突に感じた。その瞬間だけ、ほんの数秒、私の世界が、私だけのものになった。ぐいっと、いきなりすべてがリアルなものに感じられた。

「I am the king of the world」と、タイタニックの船上でジャックが叫んだシーンを思い出す。きっとジャックも、こんな感じ。あの一瞬、ジャックは世界を統べた。そして私も、その日の日没後の数秒、そんな気分だった。

とはいえ私が安定した収入を得ているのは、クライアントに恵まれているからだ。自惚れる気はない。

守秘義務の都合で何もいえないが、私は、基本タイトな納期で対応している。タイトな日程でも忙しくてもミスは言い訳にならない。かなり神経を使う。そんなシビアな日々でも続く理由は何か。

私が望んだ生きかただからだ。

ごく稀に意識朦朧とするほど疲れる。まったくつらくないといえば、嘘になってしまう。それでも私は血を吐くような日々を何十年も重ねて、ここまで来た。仕事に限っていえば、真剣に生きている。改善要素も多く無名の私だけれど、売り上げや文字数や本数ではなく、この仕事自体に、私は価値を感じている。だから続いている。尋常ではないプレッシャーの中で。

SNSで毎日のように、ライターをめざす人や、ライターさんがアカウントを消す。さわがしいSNSが嫌になったのか、ライターをやめたのかまでは分からない。0~3年ほどでは壁にも出くわすだろうし、心が折れる日もあるだろう。当然だ。続けていれば乗り越えられるとは感じるが、強制する気はない。自由に生きるべきだ。疲れたら休んでいい。他人の言葉が刺さって抜けずにつらくなる日もあるだろう。

参入障壁の低い仕事。しかし続けるのは難しい。生活するに至るまで続ける人は、ごくわずかだとも聞く。ある意味では職人のようなものなので、実務を対応してみたら合わない、という状況は当然考えられる。私はブログの中で「初心者でもできる」と謡っているが、簡単な仕事だとは書いていない。

大前提として、仕事とは(形はさまざまだが)勉強が必要だと考えている。しかし勉強だけでは成り立たない。多くの選択肢がある中から何らかの理由でライターを選んだとしても、それがすべてではない。辞めるのもまた自分次第。誰かがやめたとしても、また新たな誰かが引き継いでいつもどおりの日常が続いていく。それは決して、この仕事に限った話ではない。どんな仕事も同じ。

強烈でリアルな感触があったのは一瞬だけ。すぐに私は普段と同じような気持ちに戻った。どうという話ではないが、滅多に感じない心の動きだったので、書き残しておく。「やめなくてよかった」とは日々感じているが、ここまでクリアに、生々しく思ったことはない。自分の人生を、初めて自分のものだ実感した、良い瞬間だった。

続けていきたい、と感じている。

ライターの仕事に限らず、いま何かの壁に直面していても、続けていれば、そんな奇妙な感覚に出会えるかもしれない。約束はできないけれど。
(過去記事はここまで)

Time passed me by

2022年、私はTM NETWORKのチケットを手に震えていた。ずっと憧れていたバンド。TMは、私が働き始めたころに一度「終了」した。そもそもメジャーのライブに行く機会が少なかったこともあって、まさか実際に見る日が来るなんて夢にも思わなかった。

一緒に行ってくれたのは、いま同じバンドを好きな子だ。それもまた「つながり」があると感じる。大人になってから好きになったバンドの友だちと一緒に、子ども時代の夢を叶えに行くのだ。素敵すぎる。

暑い中、別な友だちも会いに来てくれて、うきうきしながら時間を迎えた。その日、最後に演奏されたのが「Fool on the planet」である。いろいろな想いが込み上げてしまい、泣き崩れた。

その後は2023年、2024年と続けてTMのライブも見に行っている。30年以上推し続けていた人たちは、今も輝いていて尊い。

非公開の記事からこのnoteを見つけて、「このあと本物を聞けるとは思っていなかったな」としみじみ振り返っている。人生とは、伏線回収なのだな、と思うような出来事であった。


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