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レンタル学芸員が「展示解説」をお断りしている理由

レンタル学芸員ことはくらくです。普段は学芸員として働きながら、余暇を使って自分自身を貸し出す「レンタル学芸員」活動しています。

今回は展示解説について書いてみたいと思います。実はわたし自身、普段の仕事で展示解説をすることはそれほど多くありません。業務として行うことはあるけれども、毎日毎週やるかと言われればそうではなく、たまに行う程度です。学校などの対応が多いですが、担当する展示では、イベント的に実施することがあります。また、後者では内部向けの説明ということもあり得ます。

そんなわけであまり展示解説の経験が豊富とは言えないのですが、「なぜレンタル学芸員は展示解説をしないのか?」にお答えする意味も含めて個人的な考えを記載してみたいと思います。わたしは展示解説には「資料と人との架け橋になる通訳」と「博物館の考えを伝える」という二つの役割があると考えています。

通訳(インタープリター)としての解説

資料は口を持ちません。もし口を持っていたら、どんな資料が饒舌だろうかと想像することもあります。きっと新しい資料ほどキーが高くテンポが速い、時間を経るほどにゆっくりと落ち着きのある声になるのではないかと思います。あと元々口のある資料はきっとお喋りですね。獅子頭とか絵画、仏像とか。

そんな冗談はさておき、資料は自ら何かを語ってくれることありません。そのため、博物館ではキャプションを付し、ストーリーの中に組み込み、ものを語らぬ資料のために、彼らが持つ歴史や意味、意義などを、彼らに成り代わって伝えているわけです。

わたしたちは展示を作る際に、精密さに差こそあれペルソナ(対象とする観覧者)を設定して展示を作ります。身長これくらいを想定するからパネルはこれくらいが見やすいだろう、年齢は中学生くらいを想定するから、この漢字にはフリガナを振ったほうがいいなど、特定の誰かというわけではないにせよ、何らかの想定をしております。当然ながらそのペルソナと実際の来館者が完全に一致することはないわけです。

そのギャップを埋め、さらに来館者に資料を楽しんでもらうことが、展示解説の重要な役割のひとつだと思います。小学生であれば小学生に、大人であれば大人にということはもちろん、地元や生まれ故郷がその土地だという人に対する説明と、観光のためにいらした方への説明では、自ずと刺さる部分が異なるはずです。

また、資料の読み取り方は博物館側が提示するものが全てではありません。博物館で働いている人たちが気づいていない、資料の新たな魅力に気がつく方もいるでしょう。このようにさまざまな形で資料と人とをつなぐのが、展示解説ではないでしょうか。

蛇足になりますが、たまに資料を示すときに「あの人」や「この人」というように擬人化する人がいます。わたしも展示の作り込みの際などは、「そっちの人を5センチくらい奥に動かしてください!」などという指示をすることがあります。なんとなくですが、美術工芸品の分野に多いイメージがあります。

博物館の思いを伝える

博物館には意図があります。何を伝えるか、どんな資料を使うか、どんな順番で見てもらうか、どんな方法で見せるか……時には「とにかくこの資料を見てほしい!」ということもあるかもしれません。内容はさまざまでしょうが、展示には博物館の思いや考えが反映されています。ですから、展示解説を行う際には、その思いができる限り伝わるように行うのが一般的だと思います。

その博物館の想いを伝えるためには、資料の内容はもちろん展示の意図やねらいについてと、よく理解していなければ、適切に行うことができません。わたしは展示解説というのは、説明の相手もさまざまであるという点も含め、非常に難しいことだと思っています。

レンタル学芸員が展示解説をしない理由

わたしは「レンタル学芸員」という活動をしています。無料(交通費相談)で自分自身をレンタルしていただく活動です。

今のところ、法令に触れることや社会通念上認められないものを除けば、NG事項はほぼ設定してません。その例外のひとつが「展示解説」です。先に書いてきた通り、展示解説は資料と人との架け橋になり、それぞれの館の想いを伝える役割があります。その役割は「レンタル学芸員」では担うことができないはずです。それぞれの館にお勤めの展示解説のご担当者の方あるいは館が認めた方が行うべきだと思います。少なくともわたしはそう思っています。

ですから、博物館に同行こそすれども、その時のわたしはただ一介の来館者です。「面白い」とか「同じようなものをどこそこで見たことがある」とか、「これには興味があるけど、あれにはそこそこだ」というような、感想を言うことくらいしかできないと思います。ただし、展示ケースやライティング、展示方法などを気にするので、少し変わっているかもしれません。

そんなわけで博物館に行くご依頼は、一緒に博物館を楽しみましょうぐらいの気分でご依頼いただけると嬉しいです。