レンタル学芸員#1「大学のサークルの歴史をまとめたい」
レンタル学芸員活動、記念すべき第1回目のご依頼は「大学のサークルの歴史をまとめたい」というご相談でした。
ご依頼内容
大学のサークルの歴史を本にまとめている。それぞれの世代で作った卒業文集やイベントなどの実施要項、関連する雑誌・書籍などをどのように整理してよいのかわからない。どうやってまとめたら効率よく資料の整理ができるか知りたい。
本以外の資料をどのようにリスト化するか?
みなさんの中にも、一度は「参考文献の整理」なる作業をやったことがあるのではないかと思います。大学に通った方であれば、関連論文の整理作業をした経験があるのではないかと思います。今回のご依頼でも、おそらく雑誌や書籍などの情報の整理については、課題がなかったのではないかと思います。たとえば、「著者名」「論文名」「雑誌名」「出版社名」「出版日」などの情報をまとめて、次のような作表をすることはよくあると思います。
刊行されている書籍や雑誌だけをまとめるのであれば、これだけで十分だと思います。問題は卒業文集や実施要項、メモのようなものをどのようにまとめるか、という点です。そこでわたしは、次のような提案をしました。
「全部古文書だと思って整理すればいいのでは?」
博物館で取り扱う資料のひとつに古文書があります。何らかの意思を持って、紙に文字などを書き記録をしたものです。その内容はさまざまで、土地の売買に関するものから村同士の争いの記録、借金の証拠、お祭りの収支決済など、本当に様々です。多種多様な資料をまとめるために、古文書整理の手法を参考にするという提案をしてみました。
古文書整理のごとく資料をまとめるために
古文書整理っぽく整理するプロセスは、次のとおりです。
書籍以外のものは、古文書のように調書を作成する
各々の資料に関する情報をエクセルにまとめる
依頼者さんの目的は、様々な形式の資料を使って、サークルの歴史を描くことでした。一度、上記のような整理をしておけば、実際の執筆の際に楽なのではないかと思ったからです。
古文書のように調書を作成する
先ほど書いたように、古文書は「何らかの意思を持って」作られています。古文書に限定せずともいいですね。文書が何かの意思を伝えるものである以上、共通している要素がいくつかあります。
「年月日」その文書を作成した日
「表題」タイトル
「差出者」文書の作成者
「受取者」文書の宛先
いまここに町内会で行う夏祭りに関する回覧があるとしたら、こんな風に整理してみます。
年月日 令和5年7月10日
表題 夏祭りの準備について
差出者 博物館通り一丁目町内会 会長 柳田信夫
受取者 町内会役員
もちろん、すべての情報が完備されている文書ばかりではありません。表題は書いてあるけれど、差出人はわからない。年月までは書いてある様々な場合があると思います。その場合には、わかる情報は記録した上で、「表題」だけは仮のものでもいいので付けておきます。
年月日 令和5年9月
表題 (夏祭りの慰労会の参加者募集)
差出人 町内会長
受取者
文章の内容から仮につけた表題は、( )などでくくっておくのがいいかと思います。
そのほかに、管理上のものとして、通し番号を振っておけば、資料と情報を紐づけることができます。その文章を誰が持っていたのか、という情報も付しておくことが多いのではないかと思います。今回の依頼人さんも、最終的な目的はサークルの歴史をまとめることですから、次のような形でまとめてはいかがでしょうか? とお伝えしました。
年月日
表題
補題
差出者
受取者
持ち主
備考
今回の資料の場合は、OBやOG、サークルが所有する資料など、さまざまな資料をお借りして整理する可能性が想定されました。ですから、持ち主の名前を記録しておくのがいいかもしれませんねとお伝えしました。これは、博物館においては、「寄贈者(資料を博物館にくださった方)」や「寄託者(資料を博物館にお預けいただいている方)」にあたります。表にまとめると、次のようなイメージです。
一度こんな形でまとめてしまえば、エクセルのソートをかければ、同じ時期の資料だけを抽出したり、Aさんが持っている資料だけを抜き出すことも可能です。備考には、サークルの歴史を紹介する記事を書く時のヒントになるようなことを記録しておくといいかもしれません。わたしの場合、複数の展示の構想をぼんやり描きながら、資料の一覧表を作成する場合に「A展に使えそう」「AでもBでもいける」「展示には使えないけど面白い」的なことを書くことがあります。
先ほどさりげなく触れましたが、通し番号を振ったことにも意味があります。一覧表の番号を実際の資料に付しておけば、一覧表からすぐにその文章にアクセスできるようになります。博物館ではあれば、多くの場合、中性紙の封筒に入れて古文書を保存していますから、その封筒に必要な情報を書き込むことができるようにしてあります。
ほかにもあれこれお話はしたのですが、ご依頼のメインの部分だけ紹介してみました。なお、わたし自身は、古文書(文献史学)の専門家ではないので、認識違いもあるかもしれません。ご専門の方でご教示いただける方がいれば、ぜひご指摘ください。
大事なのは目的
博物館の資料整理の方法は、資料と情報とを結びつけ、必要な情報を必要な時に取り出せるようになっています。確かに資料も情報もわかりやすく整理されているに越したことはありません。ですが、これは博物館の目的にあわせた方法であって、すべてに適用できるものではありません。
依頼者さんには直接お伝えしましたが、今回の件の場合、資料整理はあくまでサークルの歴史をまとめるための手段でしかありません。無理のない範囲でまとめるのが良いと思います!
これ以外にもサークルのOB・OGの皆さんへのインタビューや写真、動画の取りまとめなども企画されているそうです。お話を伺っている際に「できるだけ良い冊子を作りたいし、資料ものちの世代のためにまとめておきたい」という熱意を感じました! 大変だとは思いますが、応援をしております。また、お困りごとがありましたらぜひレンタルしてください。
ちなみに現場では下記のようなきったない味のあるフリースタイルで説明させていただきました。伝わってるといいな……ふふふ。
以上、第1回レンタル学芸員のレポートでした。ほかにもよろず相談受け付けております。気になった方は、下記の記事に依頼方法やレンタル学芸員にできることなど記載しております。ぜひご覧ください。