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well_beingのヒント、台湾にあり

ひょっとしてあなたが、企業や自治体の人事担当者で、職場のウェルビーイングをどう実現するかについて考え込んでいる、なんてことは無いだろうか?

もしそうなら、思い切って2年ぐらい台湾に駐在してみることをお勧めしたい。そこでは、仕事、会社内での働き方に限らず、日台で似て非なる価値観があり、人々が「いい感じ」で暮らしています。
「ゆるさ」と「きつさ」を併せ持つ存在の多様性、ここにヒントがありそうです。

縁起

玉山主峰3952mの山頂に立つのは2度目となった。日出にも間に合った。オレンジ色の濃い光のスジが水平に差し込んで来て真正面から照らされる。どの瞬間をもって日出とするのか知らないが、特別な光に包まれるのは日出二〜三分の間だと思う。山頂の人々は東に向かってカメラを構え、その瞬間を逃すまいと操作に余念がない。私はそんな人達を横で眺めながら幸福感に浸った。やはりここは特別な場所だ。来ることができてよかった。

山頂の人々
日出

2023年7月19日、今回は日本人2人、台湾人2人でここに来た。隊長の王Rは、熱帯の台南にあって日々熱い言葉を発している男だ。登山道ですれ違う他の登山者達との短い会話を愉しみにしている。特別な山「玉山」に登る喜びを隠しもせず、誰かれ次々と声をかけていく。

挑戦という言葉

王と私は昨年6月にも2人で玉山に登った。昨年の年始、「玉山に挑戦しよう」と王が私を誘いに来た。その時は挑戦という言葉使いに、ほんの少しだけ違和感を覚えた。ヒマラヤに行くわけでも無いのに少し大袈裟では無いかと。この「挑戦」という言葉、日台とも同じ意味で使うが、場面と頻度が少し違う気がする。台湾では日常会話で自分を表現する時に良く聞く。日本では会社組織の目標説明とかスポーツ選手の決意表明とか、そう言ったことで無ければ小っ恥ずかしい感じがする。王が挑戦しようと誘ってきた時は満面の笑顔だった。

もう1人は蘇W。とても頭の良い男だが見た目は全くそれを感じさせない。ほぼ毎週末に墾丁(カンディン)の海に潜る海派。平日は随時発生する重要案件に対応するため、なかなか休みを取りにくい。今回は王が有無を言わせず巻き込んだ。日本人の高橋は私の小中学校時代の同級生で、30数年ぶりの再会となった。根っからの山男で、スイスの4000m級を幾つも登っている。私が今年の年賀状に去年の玉山登頂の写真をレイアウトして送ったら反応があった。「その山、登りたい」と。

左から蘇、王、高橋

日台合同登山隊

登山のスケジュールは日本から来る高橋の都合に全てを合わせた。玉山のある国家公園には抽選を突破した者しか入園できない。5,6月の週末は定員116名/日に対し3,4千人が応募する。とても無理だ。7月も簡単ではない。外国籍枠が24名/日あるが週末には使えない。それで隊長の王が作戦を練り、7月半ばの平日をターゲットに外国籍枠で応募した。私と高橋それぞれに台湾人の付添人として王と蘇を指定し入園許可をgetした。ここに4名の日台合同登山隊が結成された。

さあ行くぞ!!

それぞれの困難

れんれんこと私、平井は、今年5月末に玉山からの下山で擬似遭難騒動を起こしたばかりだった。だからまだ記憶が「瑞々しい」6月初旬、つまり騒動の翌週にこの企画を口にするのは気が引けた。日本にいたら、「アホか、あれだけ迷惑をかけて、また何を考えとる」と言われてしまうか、自分でかってにその一言を想像してしまって言い出せなかっただろう。

還暦を超えた私と高橋はともかく、40代の台湾人2人は会社の中で仕事の要の位置にいる。そもそも普段から忙しい。さらに7月は1年の中でも構造的に最も忙しいタイミングでもあった。不幸にして偶発案件まで重なった。本当に玉山山行が実現するのかヒヤヒヤだった。べき論や同調圧力は台湾にもある。日本と大差ない。それでも重なる困難を乗り越え「挑戦」は実行された。何故か?

3402mに有る排雲山荘での食事


存在の多様性を認める社会

ここ台湾の会社には日本で働いていたときとの大きな違いがあった。それは、言ってみれば存在の多様性だ。我々の「挑戦」もその中の一つに過ぎない。論理やデータで説明できないので、事例で示す。

・日系企業だが社内の語学サポートは日本語より英会話の方が人気がある。
・会社の生産管理部門に所属しながら変則勤務で地元大学院に通い、AIを学び修士取得後にまた通常業務に戻り、IT部門に移籍した者がいる。
・定時勤務の終業後に地元大学院でMBA取得を目指す者がいる。毎日授業があり、上司が残業していても帰宅して行く。
・数ヶ月-数年単位の闘病生活を終え笑顔で元の職場に復帰した者達がいる。
・製造交代勤務班から地元の世界的半導体企業のエンジニア中途採用に合格し転職していって、それでも最終的にはまた戻ってきた者がいる。
・製造交代勤務班に女性もいるが、この地域企業ではむしろ女性の方が多いと聞く。
・夫婦同じ部門で共働き。机も数メートルの距離。他にも別部門の夫婦共働きがいる。何の違和感もなく自然に働いている。
・出産数日前まで大雨の中でもスクーターで通勤してくる者がいる。
・育休で長期休暇に入ると、外部から派遣された人がすんなり入れ替わり、仲良く仕事して任期が終わると去っていく。
・通訳以外にバイリンガルがたくさんいる(物凄い努力家が多い)
・他人の給与の変化は口コミを通してすぐ全員に知れ渡るらしい。公司沒有秘密(ゴンス・メイヨウミーミ 、会社に秘密無し)と言って人事部門の人まで笑って冗談を飛ばしている。
・上司が嫌だとパッと去って行く
・どかっと休暇を取って欧州旅行に出かける人も結構いる。

たった数年の間、小さな会社で、わたしに見えた範囲だけでもこんなにも多様な働き方をする人達がいる。もちろん会社を去っていった人もたくさんいる。そして戻ってきた人も。多様な「挑戦」があり、解釈としてはそれが許容されている。私が知っているのは所属する1社だけだが、決して特殊ではないだろう。台湾法に準拠し、台湾コンサルの指導に耳を傾け、周囲の台湾企業の動向(流行)をベンチマークし、実務レベルを台湾人が運営する台湾企業そのものだからだ。

台湾社会に特徴的な「ゆるさ」と「きつさ」を併せ持つ。レンジが広いと言うか、受容の度量、キャパシティーが大きいというか、良くも悪くも互いの「やり方」を認めあって存在している。忙しい最中であっても、実務で結果を残せる限り(周囲の協力含め吸収できる限り)、各自の「挑戦」を認める雰囲気がある。

well-being

仕事、キャリア形成、家庭、趣味、健康、こだわり、海外旅行、「何かに挑戦したい思い」、、etc. 

そのどれも諦めなくても会社内で存在し続けられる。職場においては仕事の成果が出ているのが前提だが、自分なりの「挑戦」を認める雰囲気がある。これはウェルビーイングな状態に近いと言っても良いのではないだろうか?

では、ウェルビーイングのヒント、台湾にありとはどう言うことなのか?

私は次のことに注目している。
仮に、日台の両国民が大切にしていること、或いは価値観を表す概念を言葉で列挙するなら、それらは日台間でかなりオーバーラップしていると思う。基本的人権、法治主義、法の元の平等、思想信条の自由、安全第一、個性尊重、お年寄りを大切に思う、他者への配慮、、etc.    

似て非なる価値観、日台間の微妙な違い

しかし、これらの価値観の優先順位やこだわり方は微妙に違いを感じることがある。例えば台湾人は「不公平(ブーゴンピン)」をとても嫌う。日本社会でも不公平(ふこうへい)はダメとみな言うが、「まあねえ、まあねえ」と言って、ちょっと我慢して口に出さないことも無くはない。人にもよるが、台湾では「ブーゴンピン、ブーゴンピン」と言って抗議して撤回をせまる傾向があると思う。日系企業間の集まりで、ちょっとした雑談のテーマになったこともある。

また、共に法治国家である日台ではあるが、台湾でバイクの3人乗り4人乗りをほぼ毎日見るが捕まっている人を見たことが無い。ここは緩い(笑)。反対に入国の税関チェックは厳しい。手荷物にバナナでも入っていたら厳しく叱られ、容赦なく高額の罰金が科される。豚肉持込みへの監視はもっと厳しく、お土産で持ち込んだラーメンの袋を開封させられてチャーシューの有無をチェックされた人もいると聞く。

決定的な違い

目的が同じでもやり方が違うことはいくらでもある。決定的に違うこともある。多民族、多文化な台湾で、台湾愛は共通の価値観だ。愛国心の表明は当たり前に行われる。残念ながら日本には無い。

この様に、全体として見れば基本的価値観を共有し、大切だと思うことがほぼ重なる両国であるが、それらの順序、強弱や適用の厳密感、閾値に違いがある。

ギブ&テイク、貸し借りを清算するスパンもかなり長い。「挑戦」という言葉を発することの敷居は低い。

厳しい現実も

もちろん良いことばかりではない。周囲の台湾人から嫌われると、総スカンをくらってしまい孤立する。長期視点で見て利益やコンフォータブルをもたらしそうにない人と見なされると、そんなリスクもあり得る。ここでの生活は「いい感じ」ではあるが、決して甘いものでは無い。コストパフォーマンスの目線も厳しい。

緩急絶妙な混ざり合い

「ゆるい」と「きつい」が混在しているが、決してランダムではない。私には未だそのパターンが見抜けていないので、何がどう作用して生活実感の「いい感じ」が実現しているのか言い当てるのは難しい。仮説段階だが、私的または個の管理に属することは「ゆるく」、公共に関する事は「きつい」のかも知れない。体験してみないと分かり難いでしょう。私もこの一文で説明できたとは全く思っていない。しかし、これで社会が実に上手く回っている、この感覚を母国日本の人々になんとかお伝えしたいという思いで書き記す。

結び

日本一の富士山3776m。台湾一の玉山3952m。国の象徴とも言うべきこれらの山の登山の現状を比べてみてください。

厳しく人数制限。公平な抽選を経て入園許可を出す。厳密に管理され違反者への罰則もある:台湾の玉山

入山は自由で人が殺到。特にマナーの悪い登山者がニュースとなり社会問題にもなりつつある:日本の富士山

同じ登山の管理(安全と自然環境保護)という目的であっても、やり方は異なる。少し角度のついた並べ方をしてしまったが、どちらのやり方もある。現状、実情に合わせてベターを探していけばよいだろう。だが自由の代償としてのカオスには疑問だ。規制と管理は必ずしも不自由を意味しないだろう。日本の中にしか正解がないと考えているならば、それはもったいない。

長々と書いてしまったが、この一文は well-being に働ける職場、暮らせる社会の実現を願って、その実現に向けたキーパーソンたる人事部門の人達への期待でありエールでもある。

冒頭の問いに戻る

もしあなたが企業や自治体の人事担当者で、ウェルビーイングをどう実現するかについて考え込んでいるならば提案する。

思い切って2年ぐらい台湾に駐在してみることをお勧めしたい。

そこであなたが見る景色は、街を見渡せば、祭りの日には朝っぱらからでも爆竹が鳴り響き、廟の神様にナゼか露出の多い派手なダンスが捧げられる。写真を撮るときは必ずポーズを決める。年配のご夫婦が、照れることもなく2人で大きなハートを作ってSNSにアップする。職場内を見渡せば、その制約の中で実に思い思いに「自分のやり方」を貫く。その様は、一言でいうと「にぎやか」だ。

台湾社会の至る所、街、田舎、集落、そこには素晴らしき人々がにぎやかに暮らしていますよ。
well-beingの実現に向けた、きっとあなたなりの答えが見つかると思う。是非是非手を上げて台湾LIFEに「挑戦」してみてください! 

加油!!

台湾に行こう!
台湾と日本を相互に行き来しよう!

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