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「新しい資本主義」のアカウンティング を読み終えました

読み終えました!
読んでいる途中に書いた記事が以下です。

この本で提言されている Distribution Statements のアイデアは面白い、取り組んでみる価値はあると感じました。

特に

例えば任意開示としての「統合報告書」の最終頁で、PL・BSに加えて従業員に対する付加価値分配のポリシーを明らかにするDSを記載してもよい。現行、必ずしも注意深く読まれることのない「統合報告書」であるが、少なくとも最終頁だけは従業員や就活生に読まれる報告書となることを期待している。
第7章 DS経営の実践に向けて:関係者の役割・動向

まずはここから、でも良いと思います。投資家としても、DSが載せられていたらぜひ目を通してみたい、そう思っています。

この第7章で、有価証券報告書について、”情報利用者のシフト:「投資家・株主」➡️「役員・従業員・就活生」”とされています(241頁)。

有価証券報告書等の開示書類が、

潜在的経済成長率が十分に高く見積もられ、あとは「カネ」を投下すれば成長が合理的に期待される環境にあったから

「投資家・株主」の目線が特に重要だった。「カネ」をどう割り当てるか、が極めて大事な論点だった。

それは劇的に変わってしまっている。

代わって重要性を増したのが、「ヒト」であり、その動機、つまりやりがいやプライドである。旧態依然と「カネ」を希少資源として、その提供者としての投資家を主たる情報利用者として想定するのは・・・

「ヒト」がより希少な資源になっていくなかで、その「ヒト」自身がどこで働きたいか、というのはもちろん、別の会社に働いてもいたとしても、「ああ、この会社で働いてみたいな」と思わせられるかどうか、そう思われる会社には「カネ」も集まってくる、市場の評価が高まる、そんなことが起きるかもしれない、ということだと感じました。

この情報体系の下では、投資家は情報の第1次ユーザーではない。投資家は、DSが従業員をどのように動機づけ、彼らの士気ややりがいを高めるのか、それによって生産性、持続可能性がどのように変化するのかを予想して投資を決定する。

投資判断がかなり大きく変わってくるでしょうね。


ところで、先日、こんな意見がありましたね。

日本で賃金が停滞しているのは、新自由主義の下で株主に行き過ぎた分配がなされているからではない。資本主義的な労働市場とは違った形で賃金が決定されたり、伝統的な家族像にフィットするような低所得の配偶者を助けようという政策があったり、労働者が能力や貢献に応じた賃金を要求しにくい文化だったりと、資本主義が十分に浸透していないからである。

この指摘も頷けるところはあるのですが、(古典的な)資本主義的労働市場を実現させるべき、ということであれば違和感を感じます。というのも、この「普通の資本主義」は「ヒト」を「資本」として捉えていないように見えるからです。

日本の開廃業率を高め、経済のダイナミズムと成長を促す必要があるという指摘は正しい。ただし、そのためにまず必要なのは現状以上に厳しい市場環境ですべての企業が付加価値の増進を目指すことだ。この意味で、日本に必要なのは新しい資本主義ではなく、普通の資本主義なのだろう。

ここで示されている「付加価値」というのは「利益」だと捉えられます。「普通の資本主義」ですから。


この本では、次の呼びかけがありました。

将来世代を担う若者とその支援者には、本書に示されたDS経営に期待するところがあれば、その支援や建設的批判をお願いしたい。SNS上のコメントだけでもよい。そうした意思の表明がなければ企業も政治も変わらない。

この呼びかけを受けて記事をつくってみました。ただ、この本の主張、提言を理解するには、アカウンティングの基礎知識は必須だと思うので、そういう意味ではアカウンティング(会計)はより多くの人に浸透すべきでしょう。

DS経営の考え方を何かの形で、それが仮にごく小さなものでも、本の中で示されているインドの事例のようなものでも、実現、チャレンジされてほしい、と僕は思いました。

DS経営の実現のために、株式持ち合いを肯定的に「選択肢の一つ」と評価されているのはかなりの違和感があったりもしましたが、表彰やケーススタディの紹介は非常に意義あるものと僕も思いました。

以上、本を読み終えての感想でした。


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