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【シナモンの香りに乗せられて。】

何年か前まで、
シナモンがあまり得意ではなかった。

母ちゃんの躾のおかげで、
基本的に食べられないものはない。

出されればなんでも食べる少年だったけど、
もちろん好んで食べないものもある。


幼稚園の時は特にニンジンが苦手だったな。
生煮えのシャキシャキした後に来るどことない
”生感”があまり好きではなかった。

ヨーロッパにいると、
生のニンジンを食べる人を
よく見かけるもんだから、
気持ちばかりしかめっ面をする
自分が未だににいる。

当時、ニンジンを食べる人は足が速くなる
って皆んなは思ってたけど、
学校の中では3本指に入るくらい足が速かった。
サッカーとバスケットをしてたからだと思う。

ニンジン食べれば速くなるなんて
ただの子供騙しだ

って少しマセたガキンチョだった。


そうそう、シナモンの話だ。
ニンジンと同じような感じで、
シナモンもあまり好きではなかった。

とは言っても、
日本にはあまりシナモンを使ったものは
少ないもんだから
あまり出会すことはなかったけど。


4年前。
スウェーデンに留学した時のこと。
あの時の薄い北欧の知識では、
どうやらスウェーデンではシナモンロールが
有名らしいということは知っていた。
せっかく本場にいるもんだから、
食べてみようと思い
Pressbyrån(プレスビーロン)で買ってみた。

Pressbyrånはキオスクみたいな感じのお店。


早速食べてみるも、
とてもじゃないけど美味しいとは思わなかった。

パッサパサで
粉っぽくて
口中の水分を持っていかれそうだった。

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「スウェーデンでは
こんなものを美味しいと思ってるのか。
そりゃそうか、
世界一臭い缶詰のシュールストレミングを
作った人たちなんだもん。
天気も悪いから、食に疎い国なんだな。」
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そう思い込んでたっけな。


それ以来、
自分から買って食べることはなくなった。

唯一買っていたのは、
Gifflarというシナモンのパンだけ。
勉強の合間によく食べていた。


そんな調子で、
シナモンとの距離は縮まることがなく
月日が流れ、
気づけば8ヶ月以上が経った。

留学も終わりが向こう側に見えていた時に、
街のベーカリーで美味しいシナモンロールが
食べられるらしい、と聞きつけた。

カフェが沢山ある小さい学生都市だったから、
騙されたと思って
久々に買ってみようかなと思った。


それで買ってみたら、
大当たり!
こんなに美味しいシナモンロールって
あるんだっけ?
シナモンの微かなるスパイスに加えて、
口中に大きな衝撃が走り回ったのを覚えている。


それからというもの、
美味しいシナモンロールを探すようになった。
帰国後も一時期、
都内で美味しいシナモンロールを
探し回ったことがある。

それでも、
これまでどこを探してもあの時以上に
病みつきになるシナモンロールには
出会っていない。


気づけば、
シナモンロールは僕は身近にあって、
いつしかパン屋さんに行くと

「シナモンロールはないかな」

と無意識に探すようにさえなった。

ほんのり甘くて、
微かなスパイスの香りが鼻を伝うと、
それに乗せられてスウェーデンの思い出たちが
一緒にやってくる。


香りは目に見えなくて、
すぐにどこかに消えていってしまう
恥ずかしがりなところがあるけれど、
そこには磁石みたいに
カチッと結びつける力もある。

コトやモノから匂いを連想することは
あまりない気がするけど、
匂いから思い出すコトやモノは多い。


そんな香りの片道切符は
そこかしこに転がっていて、
その1つ1つに
思い出をしまっておくことができる。

容量に限りがないから
なかなか優秀なメモリーカードだ。


時としてそこにしまっているのは
黒酸っぱい思い出かもしれないけど、
後々嗅ぎ直してみると意外と懐かしく思えて、
どこか甘酸っぱくさえ
感じることだってあると思う。

こんな風に思えたら、
少しは大人になったかなと思えるし、
なかなかオツな嗜みだと思う。


今年も早いもので10月。
人は身なりを変え、
町の木々だって装いを替える頃。

おまけに空気はすーーーっと澄んでいって、
冷たくなった頃には冬の訪れを知らせてくれる。


どこかに
あの香りを置いてきてしまって久しいから、
そろそろ忘れてしまいそうだ。

来年こそきっと、
金木犀に乗せられて
あの人との思い出が
もう一度やってくるだろうか。


おっと、
忘れそうだったけど、
10月4日はスウェーデンでは
「シナモンロールの日」

一年に一度、
シナモンの香りに乗せられて
数多ある思い出たちが
ふわふわとまたやってくる。


思い出を匂いにしまっておけば、
その分身なりは軽くなって、
心は満ちていく。

そんな風に自然を愛で、
小さくともコトやモノ、ヒトを
大切にできる人に近付きたいと切に思う。

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