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エレベーターとおじさまと

飲み会帰りの少し浮ついた足元で、私はマンションへと向かう。

『お願い』

この言葉に弱い私は、合コンの帳尻合わせだと分かっていても行ってしまう。好きで行ってるはずなのに、終わった後のモヤモヤは何なのだろう。

マンションの扉が渋るかのように重々しく開いた。
エレベーターに誰かが乗ろうとしているのに気づいた私は、駆け足で向かう。
しかし、私の目の前でエレベーターの扉は完全に閉まった。

その瞬間、私はこの世界にたった1人残されているような気分になった。

すると、再びエレベーターの扉が開く。
私に気づいて開けてくれたのだ。

「すみません」

急いで4階のボタンを押す。
角にすっぽりはまる私と、ボタンの前に立っている誰か。

ん?

その見覚えのあるシャープで美しい横顔は、私の空気を薄くさせた。

おじさま…!!

そこには、いつもと違う部屋着姿のおじさまが立っていた。

まさか、同じマンションだったとは。

私的下半期1番のビッグニュースである。
ゆるっとした部屋着に、整えられていない髪の毛は、なぜか不快さを感じさせない。

計算し尽くされた上でのリラックスモード!
お見事…。

エレベーターがいつもより遅い気がした。張り詰めた空気ではない静寂さが、私の酔いを醒させる。チンという合図とともに、4階に着いたことが分かった。
おじさまがボタンを押して開けてくれている。

「ありがとうございます」

小さく会釈をする私。おじさまも私に小さく会釈をした。

『今日もお疲れ様です』
そう聞こえた気がしたのは、私の勘違いかもしれない。

真っ暗な空に、無造作に散りばめられた星。私はかすかな星を見つける。見えるか見えないかぐらいの明るさだが、星は確かにそこにあり、綺麗だと思った。

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