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枝豆とおじさまと

コンビニの冷えた陳列棚が、じっくりと私の表情を凍らせている。ついでに心も冷えそうであった。
つい先日、親友と電話してる時、喧嘩をしてしまった。喧嘩というか、私が一方的に不機嫌になってしまったのだが。その親友は小学生の頃からの仲であり、驚くほどに気が合った。なので尚更気分が沈んでいる。

今週もおじさまは、ビールのお供に合うおつまみを探しているようだった。その長い足で何度も行ったり来たりを繰り返している。おつまみたちの熱視線を浴びながら歩く道は、まさにランウェイのそれだ。

ゆっくりとおじさまが、私がいる延長線上の場所に向かう。

そうして選ばれたおじさまの今夜のお供は、枝豆だった。

枝豆さんおめでとうございます!

枝豆をカゴに入れたおじさまは、そのまま私の後ろを申し訳なさそうに通り、会計を済ませる。おじさまが店から出て行ったのを合図に、私は陳列棚に冷やされた体を動かした。

向かった先はもちろん枝豆。少しの塩気と絶妙な食感の枝豆は、いつも私たちの時間にゆとりと優しさをくれる。外側から押してやるとひょこっと顔を出す姿も可愛らしい。同じ莢に入っているはずなのに、1個1個違った顔を出すのだ。

私は枝豆を手に取り会計に持って行く。

店を出ると、陳列棚の冷気よりも冷えた風が、私の頬をぶつける。風が体温を奪う中、私は携帯を手に取り、親友にメッセージを打った。

『今日電話できる?』

血が繋がっている親でさえ、意見の合わない時があるのに、友達と衝突してしまうのは当然である。ただその時に、どのような行動を取るのかが大事なのだろう。

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