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洋服記録94_実写版ヘリンボーン

高校生の頃の夢は、
サラリーマンになることであった。

周囲が弁護士やら薬剤士やらと言っている中、
大学に入ったら就職活動をして、
一部上場企業のサラリーマンになるんだ、
と固く心に決めていた。

なぜそんな思考に至ったのか今でもよくわからない。
わからないけれども、
結局、その通りのサラリーマンになっている。
(正確にはサラリーウーマンだが)

今思えば20代初期の頃から、
いわゆるビジネスストーリーが大好きであった。

バイブルとも言うべき島耕作をはじめ、
林真理子のコスメティックはボロボロになるまで愛読した。
半沢直樹も大好きだし、
同じ著者のアキラとあきらも好きだ。
役員会議室の外で崩れ込みながらガッツポーズをするシーンなど、
ドラマ版は何度観てもゾクゾクしてしまう。

それらに登場する誰もが、
仕立ての良いスーツやジャケットを身に着けている。
体型的には決して得意ではないけれど、
私にとっては、
やはり憧れの戦闘服だ。

この4月から従事する職種が変わったこともあり、
異動前を含む数ヶ月間、
長く着られるジャケットをずっと探していた。

様々なアパレルショップを回ったがいまいちピンと来ず、
こうなったらもう自分のサイズで作ってみるのもありかと思い、
オーダースーツの専門店に行ったりもした。

そんな中、ついに巡り合った。
重すぎず、軽すぎず、
きちんと感もありつつラフさもある、
カーディガンのような優秀なジャケット。
自力では決して選択肢に入れないヘリンボーン素材も、
なんだか新鮮でよい。

ヘリンボーン。
私が初めて聞いたのは、アルバイト先の大衆アパレル店であった。
当時は何語?と思ってまったく名前を覚えられず、
しばらくヘンリボーとか呼んでいた気がする。(リードボーかよ)

でも、その当時在店していた英語が得意な契約社員に、
魚の骨に由来したネーミングだよと教えてもらって以降、
なんてお洒落なんだろうと感激し、
忘れられない名前になった。

今回久しぶりにヘリンボーンを手にして、
改めてその意味を調べてみると、
魚というのは、鰊(herring)のことだと知る。

偶然にもその数日前、
老舗のうどん屋へ赴いたばかりであった。
そしてこの店は、
島耕作が上司の隠し子に一目合わせるために探し出した、
まさにその店だ。

麺にちなんで言えば、
前職のオフィスの近くに旧・港屋があったのだが、
言わずもがな、島耕作も並んだ立ち食いそば屋である。

加えて、これも前職時代であるが、
取引先との付き合いで東京ドームのVIPルームに入った時も、
野球よりも当時の中沢社長の心境を妄想してしまい、
試合中ずっとドキドキが止まらなかった。

目の前のシーンと作品の世界が結びついた瞬間は、
まさに至極の時。
ああ、私はこの時のために社会に出て、
サラリーマンをしているのだと思ってしまうほど。


これらの根底には、もちろんミーハー心もある。
だが、
思い描いたビジネスストーリーの中に自分がいる
その事実に、
私はこの上ない喜びを感じてしまうのだ。

お気に入りのジャケットを着て、
会議に出て、社外対応して、新幹線出張をする。

日々苦悩や葛藤もあるけれど、
重圧や焦燥で吐きそうになっているけれど、
あの頃の自分から見たら、
夢を叶えた至極の姿に映るのであろうか。

力を抜いて、あまり深刻にならず、
気楽に仕事をこなしてゆけ。

ふむ、その通りだな。

ヘリンボーンJKのコーディネート備忘録

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