見出し画像

デンマークのライ麦パン サワードウの謎

デンマークのライ麦パンを焼く上で一番大切で、そしてわからなかったのは、サワードウ(Surdej スーアダイ)です。

サワードウはパン作りで使用されるパン酵母で、天然酵母の一つです。

天然酵母にもいろいろありますが、自家製酵母ではレーズンを使って培養するレーズン酵母が最もポピュラーな天然酵母かと思います。サワードウはレーズン酵母などとは違い、小麦粉などの穀物の粉と水から作る天然酵母です。

今はいろいろな情報がネットに出ているのですが、当時は私なりに苦労したので、サワードウについて書いてみたいと思います。

天然酵母の種類

まずは天然酵母ってどんなものがあるの?というところから。私は英語で調べていたこともありますが、まずここでつまずいたので。

天然酵母とは、自然界に存在するたくさんの菌の中から、パンを作るのに適した(パンを膨らませて風味を良くして食べやすくする)菌を培養しているものです。天然酵母という言い方からまるでイーストとは違うもののようですが、イースト菌は自然界に存在しており(数千年前にパンは自然に生まれました)、天然酵母にもイースト菌が入っています。イースト菌の活動が活発になるよう、また美味しさにつながる乳酸菌などがしっかりと活動できるように作ったものがパン酵母です。

パン酵母の種類

パン酵母の分類

スターター:
果物の表皮に存在する菌をメインに発酵した酵母液で、この酵母液と粉と混ぜて元種/発酵種を作り、パン生地の発酵に使います。言ってみれば、お酒を作るときの麹のような存在でしょうか。菌を培養して加えることで、材料の発酵を生み出します。
果物の香りがパンを焼いた時の香りに出るものや、パン生地の仕上がりには違いが出ることもあります。

サワードウ:
粉と水を混ぜ、穀物の表皮や空気中に存在する菌をメインに発酵したもので、パン生地の中種法の発酵に直接使います。酸味が出ることが特徴で、味としての複雑さ、独特の風味があります。
サワードウは、主に小麦ベースのものとライ麦ベースのものがあります。ルヴァン、ルヴァン種という言い方がありますが、サワードウは英語、ルヴァンはフランス語です。ライ麦ベースの方が酸味が出やすかったり、膨らみ方も異なります。

スターターとサワードウでは、材料が異なるので香りや味が異なると聞いています(私はスターター方式でやっていないので、あくまで一般論としてです)。どちらがいいというより、味や扱いやすさの好みで分かれるのではないかと思います。
(他にも、野菜や米などから発酵させる発酵種や、スターターから始めるサワードウもあるそうです。自家製酵母ではあると思いますが、どこまでをサワードウと呼ぶのか分類はよくわかりません。ここでは狭義として、粉と水から発酵するものをサワードウと定義しています)

サワードウ≒ぬか床?!

サワードウは、生き物です。乳酸菌やイースト菌がたくさん生きています。

日本のぬか床みたいなもの、と思ってください。ぬか床は毎日かき混ぜて酸素を取り入れ、栄養になる野菜クズなどを入れたり、ぬか床に住む菌たちを元気に保つためにお手入れしますよね。
サワードウではかけつぎをします。英語ではrefresh(リフレッシュ)またはfeeding(餌やり)と呼ばれます。パンを焼く頻度によって違いますが、栄養になるエサ=新しい粉と水を追加し、酸素を取り入れるように混ぜることで、乳酸発酵を維持しています。
サワードウで毎日かけつぎをする場合もありますが、私は1週間に1回程度なので、ぬか床よりは手入れが少なくて楽です 笑。

画像2

かけつぎ後、元気に膨らむサワードウ(ピークを少し過ぎたところ)

サワードウは使っていくと強くなり、非常に安定するようになります。環境やパンを作る頻度など、その状況にあった菌が多くなるからと言われています。作りたてのサワードウより、知人のサワードウを分けてもらった方が作りやすいのは、既にパン作りに適したサワードウになっているからです。ぬか床を分けてもらうという話が昔からありますが、サワードウも同じです。

生き物なので、エサやりが少なければ元気がなくなったり、毎日のように使うと活性化したりします。私は今年の春、毎日のように焼いていたら、サワードウの香りがとてもよくなり、パンの香りもふんわり素晴らしくなりました!
美味しくもなりますが、ダメになることもあるのが生き物の難しいところ。ダメになったらまた新しく作ろう、という気軽な気持ちで臨めるといいかなと思います。

サワードウとイーストの使い方

日本で天然酵母といえば、天然酵母だけで(イーストを使わずに)パンを焼くのだ、という風に思いがちです。ですが、サワードウを使ったパン作りが簡単ではないことも事実。パンが膨らまなかった時の、あの絶望的な気持ち。イーストの方が、確実にパンを膨らませて美味しく焼き上げることには優れています。

デンマーク(やドイツなど)では、サワードウは風味をよくする発酵種と考えており、微量のイーストとの併用が最もポピュラーです。
サワードウを使うことで、乳酸発酵による複雑な味わいや香りを生み出すことができます。それと同時にイーストを使用することで、しっかりとパンとしての膨らみを作り出し、食感の美味しいパンを仕上げることができます。

私の焼いているライ麦パンは、基本はサワードウだけで焼いています(十分膨らみます)が、湿度が高くて発酵のコントロールが難しいときや、寒くてサワードウだけでは発酵が遅いときなど、微量の生イーストを併用します。そうすることでパンとしての美味しい状態を確実に作ることができ、さらにサワードウとしての美味しさをたっぷり味わうことができるからです。

(もちろんアレルギー対応などで必要な方は別ですが)サワードウとイーストの併用は、美味しいパンを焼く上で1つの方法であることは、ぜひ知っておいてほしいと思います。


すっかりマニアックな感じになりました。
サワードウを検討中の方、ぜひチャレンジしましょう!

デンマークの幸せの秘訣、ヒュッゲな時間をもっと広めるためにサポートいただけたら嬉しいです! いただいたサポートはオープンサンドの試作など、デンマークの食文化研究に使わせていただきます。