「カモピの女の子」
フランス領ギアナに住んでいた時の話。
仏領ギアナは南米アマゾンの北東にある小さなフランスの海外県である。西はスリナムという独立国。
北東側は大西洋、南東にはブラジルとの国境を作っているオイヤポック川がある。
そのオイヤポック川のセントジョージという町から、船外モーター付きのボートで遡ること10日ほど、カモピという村がある。
部隊は川を遡りながら、途中1日、2日とビバークとして駐留し三角点を明確にしてゆく。国境を明確にするためである。
また軍医を連れてゆき、医療を施す。
ビバークは蚊帳付きのハンモックを使う。二本の木にハンモックを吊るし、プラスチック・シートで屋根を作る。
カモピという村は、50人ほどの南米のインディオ系、原住民の村である。
家屋は高床式でパルムなどの葉で屋根や壁を作っている。
男性は裸で、なぜか日本風の赤い褌をしている。
子供は・・・パンツを履いているだけ。女の子は少し大きくなるとTシャツを着ている。女はパレオのような布を体に巻きつけている。
原住民との交流も目的の一つだが、土木工事もやらなければならない。
その村で1週間ほどを過ごすのだが・・・
小隊は到着するとすぐにハンモックをはり、分隊ごとに中央に焚き火を焚く。
その生活ゾーンに、すぐに子供達がやってくる。
チョコレートちょうだい。チューインガムちょうだい。
私は東洋人顔なので、彼らも近づきやすいのか、数人の子供がすぐに寄ってきた。
その中で、7歳ぐらいの女の子が、私のハンモックの近くに来て、座ってじっと見つめているのである。
視線の先には・・・乾パン。
「これ?」
私が1袋差し出すと、大事に持ってゆく。
30分もすると、またやってきて、座ってこちらを見つめている。
「もう食べちゃったの?」
そう言ってもう一袋差し出すと、
「パパにあげる」
「あ、そう」
女の子が大事に食べている姿を想像していた私は、なんかつまらない気がしてしまった。
次の日、またその女の子が来る。
視線の先には・・・サボン・マルセイユ。洗濯石鹸だ。
「これ? 食べられないよ」
そう言うと
「ママにあげるの」
「あ そう」
全部あげてしまうのかと思うとつまらない。
夕方になって、焚き火を焚こうとローソクを小さく切っていると・・・
沼地のジャングルではローソクをツナの空き缶の中に立てて、細い小割りを積み重ねて焚き付ける。
あの女の子がやってきて、ローソクの入った箱を見つめているのである。
「これ? ローソクだよ」
うなづくので石鹸と勘違いではなく、ローソクと知っているのだ。
私は短くなったローソクをその子に差し出した。
「今度は、誰にあげるんだ?」
と聞くと、自分で自分を指差していった。
「私。夜、勉強するんだ」
「そっか」
私は、ローソクを箱ごと、その子にあげてしまった。
会話の中で、ちゃんと勉強していて、日本も知っていた。YAMAHA、
SONY、NISSAN・・・
僻地の子供達の知識欲は貪欲である。
他の兵隊さんたちも同じように、ローソクは全部あげてしまったようである。
フランスは学校が夏休みに入ると、ヘリを飛ばして子供達を町の学校へ連れてゆき
合宿のように勉強をさせているのだ。
また、乾パンは家の家長に渡し、皆に平等に分けられる。
洗濯は女の仕事・・・(その土地の風習なので)
もう30年前の話である。