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22.信じる (上)

冗談の通じない、面白みのない自分にがっかりする。

母と兄にも「まったく、れなは冗談通じないね〜」
などと ため息をつかれたことがある。

いやまず、オープンマインドが取り柄の鳥居れなの前で
悪らつな冗談を言って、
信じるのかを試して笑うだなんて
面白くもなんともない。悪党どもめ…
幼い私の純粋無垢をネタにして。けしからん。





23歳。
これはつい一昨日の話だが、職場の上司に
「鳥居ちゃんは冗談言うと乗ってくれるし、
     話してておもろいわ」と言われた。

…レヴォリューション。

だって鳥居れなは、ド真面目で面白みのない人間だったのに。
いつからだろうか?私が変わったのか、
それとも、上司の話がそうさせたのか、
そういえば令和2年の目標は 面白くなる。
だったなと、その瞬間おもった。





そもそも鳥居れなだって、
幼少期にお馬鹿な発言や行動をして
人を笑わせることが楽しい!という感覚を持っていた。
よく気の知れた人との会話ならば
殆どが ふざけ倒した冗談で、
生産性がない、そのことがくだらなくて面白かった。

だがそういうものは
信用の上で成り立っているのかも知れない、

冗談を言って笑い合うような、
平和なコミュニケーションが遠のいた原因は
どこにあるのか。

母と兄に笑われた後に、
2人のことを信じられなくなる。
なんてことはなかった。

思い当たる節があるとすれば
相手との関係性が続くと信じてもいいのか、
いつも本心で会話をしてもいいのか分からなくなって。
人と関わることさえ面倒になり、一人でいることを
選んでいた時期があった。

高校一年生
当時の鳥居れなは、新しいクラスメイトとの
新しい学校生活を大いに楽しんでいた。

新しい友だちもできて、
いつも一緒にいるようになった。
わたしは彼女のことがとても好きだった。
昼休みや放課後にくだらない話をして、
校則を無視して、
ゲームセンターへ行きプリクラを撮った。
それを持ち物に貼り付けると、
のちのち担任教師にバレて呼び出されたりもしたが、
華のJK2人は懲りずにその2日後には
また放課後にプリクラを撮り、
おまけに映画も観て帰った。   時効。

通学鞄にはお揃いの赤いリボンをつけて
テスト期間は「もうやりたくなぁい」と言いながらも
外が暗くなるまで教室に残った。


これは唯我独尊だと思わないでほしいのだが、
高校1年生の頃、容姿も成績も平々凡々な鳥居は
どうしてか男子生徒に多く好意を抱いてもらえていた。
恋愛をしたいとは思っていた。
告白を受けることが多くなると
本当に申し訳ないのだが、これはなにかの遊びで
皆んなに騙されているのかなと疑ったりもした。

私はいつも一緒にいる彼女に
恋愛の相談もするようになった。
彼女は笑いながらもアドバイスしてくれていた。



いつも通りの朝の教室
席に座っている彼女に「おはよー」と声をかけた。
彼女は目も合わせずに、席を立って別の子の側へ駆け寄っていった。

自分の周りの音が一瞬聞こえなくなった気がした。

その後も、休み時間の度に声をかけたが、
私の小さくなっていく声を掻き消すように、 
別の誰かの名前を呼び、離れていった。

その日から私は
彼女の中から完全にいない存在になった。

もちろん当時の私だって理由もわからずに、
友だちじゃなくなるのは嫌だったので
なんとか
コミュニケーションを取ろうとしたのだけれど
彼女の中にあったはずの、
〝私たちの記憶〟は一瞬にして
消されてしまった。



あの頃の私は偶然ちやほやと人に好かれて、
浮かれていたのかもしれない。
今思えば、
彼女にとっては自慢話に聞こえていたのだろうか
“なんでも話せる”という関係性を
勘違いした私の過ち。

はじめて 友だちを一人失った。

それからは、どんな話が回っていたのか分からないが
典型的にクラスの中で孤立した存在になっていった。

毎朝、登校時間にお腹が痛くなった。
授業中に、「2人1組で」なんて言葉を先生が発すると、
制服の下にじっとり汗をかいた。
ある日突然、仲がいいと思っていた人たちに
いない存在として扱われはじめた、あの頃の私は
学校という組織の中で群れず1匹の狼でいることに
息苦しさと恥ずかしさを感じながら生きていた。

浮いている。そんな自分が恥ずかしかったけれど
無理矢理笑うこともできない。
誰かに合わせて笑ったり、顔色を伺うことは
きっと疲れるのですぐに諦めた。
そんな余裕もなかった。

休み時間は分厚い本を読んだ。ひたすらに。
そして好きな言葉のあるページに付箋を貼った
両手にずっしりと重みのある分厚い単行本は、
私にとって安心する存在だった。
美しい紙と綺麗に整列した活字、
無駄なものがなくて良かった。





信じる(上)


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