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50.ささきのじいさん

小学生のころ、通学路に交通安全のおじいさんがいた。
みどり色のキャップをかぶって
時々、登校時間だけでなく
学年によって下校時間もばらばらなのに
帰り道にも子どもたちを見守っている時があった。

幾人か見守り隊はいたけれど、
ランドセル時代のれなちゃんには
1人だけ仲良しのおじいさんがいた。
何度も聞いたし、呼んでいた
あのおじいさんの名前を、
いま思い出せないのが悲しい。

思い返してみても本当に優しくて
お茶目なユーモアがあって
にんまりと笑う顔がかわいっくて、こちらもついほころんでしまう感じ。
テレビアニメ『ちびまる子ちゃん』の登場人物、 [ 佐々木のじいさん ]っぽさがある。

仲の良かった佐々木のじいさんは
笑っていなくても、
いつも笑っているようなお顔で
会うとちょっとだけ足取りが軽くなる気持ちがした。

昔住んでいた家から小学校までは
子どもの足では少し距離があった。
母に、遅刻するぞと揺り起こされて
ギリギリの時間を走って登校した日にも
佐々木のじいさんは
「お〜。転ばないでね、いってらっしゃいねえ〜」
と、いつもの土手で朝の挨拶をしてくれた。

私には佐々木のじいさんのことを
(このおじいさん最高だ)と思ったきっかけがある。

その日私は嫌いな算数の授業も、ちゃあんと椅子に座ってノートをとったし、
給食だって残さずに食べた。
けれど4組の怖い先生に
たまたま目撃された小走りで「廊下を走るな!」と大きな声で叱られた。
話したこともない他のクラスの担任教師(厳しいと噂になっていた先生)に、突然ピシャリと大声で叱られた鳥居れなは、必死に涙を堪え、ふるえる声で「ごめんなさい、もうしません。」のような謝罪をした。

かわいそうにれなちゃんは、なんだかその一撃でガックリ気持ちを落とした。
(みなさん廊下は走ってはいけませんよ…)

下校時間。そう、今日は火曜日。
うちへ帰ればピアノの練習、そして厳しい先生のレッスンが待ち構えている。
とぼとぼ、全ての嫌なことをスキップして明日の朝になったらいいのにな、と思いながら歩いていると、いつもの土手に佐々木のじいさんが立っていた。

少し遠くにいる佐々木のじいさんは、しょんぼり歩く私をみて手を振ってくれた。
それでもいじけている私は、少しだけ手はふり返したが走ったりはしなかった。
佐々木のじいさんの近くまで歩いて行くと、「今日はどうでしたか?」と声をかけてくれた。私は「まあまあかな」と。

佐々木のじいさんは私の頭をポンポンして、それから「何色が好き?」と聞いてきた。私は「ピンクとかキーロ」と愛想もなく答える。

するとささきのじいさんはポケットから何かを取り出して
「みんなには内緒だよ」と小さな包みを手に握らせてくれた。

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