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あなただけでいい

「自然の中で起きている美しい現象すべて」という言葉は、2022年の夏に米澤が言い放った一節である。イベントをやりたいね、という会話の中で生まれたその妙に語呂のいい言葉は、きっと素敵なイベント名になると思って、勝手に企画書を作って話をまとめ始めた。それが7月だった。

8月14日、奇しくも終戦記念の前日に開催されたイベントは、素晴らしいアーティスト、スタッフ、そしてたくさんの来場してくださった皆様のお陰で盛況に終わった。すべてが仕組まれたように完璧だった。その日まで狂い続けてきた歯車が、流れるように1日に集約されて、そして時を刻んだ。

あたしは<KAOMOZI>というレーベルを立ち上げた。

中学生で憧れたマルチネの一番好きなコンポーザーがkzさん。それからヨシノさん。当時のトマドみたいだよ、と言われてノリでレーベルを立ち上げることにした。たまたま手元にリリース無沙汰にしてたコンピがあった。

それから間もなく、いくつかの話が決まり始める。

M3で出した楽曲は、あたしの大好きな人に向けたものです。FORMの企画「ALLNIGHTER」のために5人で制作した曲の歌詞は、もう会えないであろう誰かに向けて書いたものなんです。そう言いたくて、言わないように頑張って、でも作品が残っていくことが嬉しくて。FFKTでどこまでも響き続けていたキック。野山の空気。北海道の夜道をぼんやりと歩いたこと。鶴舞の美味しいランチに、感じ悪かったレコ屋と、そして江の島のこと。それらを忘れないように、ぼくはずっと歌を歌い、言葉や音を遺し続けている。

3年ぶりに連絡をくれた友達、音信不通だと思っていた彼女に誘われて観たピンク映画『誘い濡れ』はマジで創作者とプライベートの話で、エッセイ漫画の作者って構造的に絶対に近親者ともめるよな、というような、とにかくそんな話だった。でも主人公は最後に漫画を描くことを取る。創作の中ならいくらでもハッピーエンドにできるし、バッドエンドにもできるし、人間は言葉や作品を残すことで次に進めるんだ。こちらを凝視する老翁たちの視線も忘れるくらい、あの物語はずぶりと潜りわたしに勇気をくれたのだった。

"only you" (2021) ー 水彩、紙 (sold)

すべての制作者の内情なんて、聴く人も見る人も知らなくていいと思う。でも言いたいなら言えばいいし、言うことによって本人が救済されていくならそれは創作にとって重要な機能の一つだ。

<KAOMOZI>は純粋にあたしの好きな友人たちをフックアップしたいと思って始めた。あたしが視覚と文筆の翼を与えるから、あなたは私が苦手な音楽で世界を彩ってほしい。そう思った人にしかオファーしていない。

その代わりにすべての視界は本気で構成した。しぜすべ以前のあたしの創作活動が自己破壊的なら、いまの私は極めてシステマティックで、しかし役に立つという目的のために自分というリソースを摩耗している感じだった。

そうして一つ一つの作品に向き合っていった結果、奇しくもどの作品も、僕の呪いと衝突することになったのだった。…それは必然かもしれないけど。
あたし一人があなたのことを思い出してるわけじゃなかった。

2023年1月15日、わたしは。
ずっと夢に見ていたことを、やってもいいですか。


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