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いちご農家とこれからいちご農家になる人の情報交換がもたらしたこと

私の今のメインのお仕事は米屋をやっているのですが、これまでの経歴は同じ農業分野でも野菜側。フリーランスで米屋以外のお仕事もやっています。
お手伝いしている先のひとつに「いちご大学」といういちご好きのためのウェブメディアから派生したオンラインスクールがあります。そこへ参加しているいちご農家さんとこれからいちご農家をはじめる人が一緒になって情報交換や相談をする場をゼミナールと称し、中立的に活動を支援する立場のファシリテーターとしての役割を担当させていただいています。

今回は、2年目に突入したこのゼミナールにおいて、担当者の私自身が学びになったことをご紹介したいと思います。

ゼミナールの始まり

いちご大学とは、農家・農業関係者・食関連の方・ライター・一般消費者など様々ないちご好きが一緒に学ぶ稀有なスクールです。
知識レベルの全く異なるこの集団に授業をすることは、なかなか難易度が高く、講師陣は易しすぎず難しすぎず授業を進めることを念頭に置いています。
こうして一同に学ぶことは、これまで気づかなかった新しい視点の意見が飛び出すことや消費者目線の生の声を聞くことができるので、とてもおもしろいと思っています。
一方で、農家側から「経営者のみでの情報交換もできたらいいのにな」というご相談をいただくことがあり、なにか力になれないものかを思案し始めたことが企画の背景にあります。

当初、いちご栽培を実際に行っている農家だけを対象にしようかと考えましたが、それは全国各地で自治体や農業関連団体、企業がすでにやっていることで、オンラインで全国各地のいちご農家がつながっているとはいえ、そんなに価値を生み出せないのではないかと思いました。
そこで、農家同士が教え合う場として、これからいちご栽培を始める人が先人の知見を得ることでしなくても良い失敗を減らす場になったり、参入を検討している方が現場の悩みを聞いて考えることができる場にしようということで企画を作成していくことにしました。

実際の参加者は、「いちご農家」「これからいちご農家になる人」に加えて、発言権なしのオブザーバーとして「その他」の方々も参加できる枠組みにして、私のやることは主に3つ「何も教えない(そもそも教えられることもないので)」「交通整理する」「失礼な発言を丸める」ということにして、まずは参加者の募集を開始しました。

満員御礼の2022年度

ディスカッションがメインなので、参加者の定員はMAXでも8名としました。ありがたいことに8名の枠がすべて埋まり、参加者は北海道・千葉・三重・愛知・福井・福岡という気候風土も栽培体系も出荷方法も、年齢も性別もバラバラのメンバーが集まりました。

知識や経験の共有に寛大な農家の姿

最も驚いたことのひとつに、農業歴の長い農家が歴の浅い(またはこれから始める)方へも惜しみなく情報共有する点でした。
お互いの状況が少しでも良くなればということで「うちはこうやってるよ」「前にこれやって失敗したんだよね」といったお話が出てくるのは良いことですが、みんな真似して一緒に良くしようという機運が回を重ねるごとにどんどん大きくなっていきます。

地域の違いという事実上での距離がある分、「細かいところが見えすぎない」ということ、同じ観光農園でも立地的に「ライバルにならない」といった条件が情報共有の濃度を向上させる要因になっているようです。

これから始める人がもたらす効果

企画前、ある農家さんの要望では「経営者だけで話せる場がほしい」でした。実際には「これから始める人」や「従業員として参画している人」も一緒にディスカッションに加わってもらったわけですが、結果として良い効果が得られたと感じています。

(1)純粋な悩みから出てくる新たな発見
これから始める人から「観光農園はどのくらいの金額設定にしたら良いのでしょうか?」というテーマをあげてくれてことがあります。
ある地域では、組合が値段を一律にしているから自分で自由に料金設定ができない。ある農園では、予約システムの手数料を取られるので利益が残る料金設定にしている。
気温などの影響によって味が落ちる分を考慮して季節によって変動させる場合、立地が良いので料金変更せずにシーズン通して同じ料金設定にする場合など様々です。
これまでは周辺の農園の状況や相場感などから設定していた料金について、改めて考え直すきっかけとなり、参加者のほとんどが自社の適正料金を再設定するに至りました。

(2)農家同士でも存在する複数言語
「いちごのパックについて、どんなものを使っていますか?」というテーマでは、資材の名称や資材をラップする機械の名前など様々なモノの名前があふれて混乱する場面がありました。
そこはオンラインなので、写真を画面に出して言語の統一を図りながら話を進めていきました。同じ機能を持った資材の別名で話しているつもりが、一方はいちごを乗せるくぼみがついただけのもので、一方はハンモックのような緩衝機能を持たせたものであったりしました。
これだけ情報交換が自由にでき、新しい情報取得もしやすい時代ですが、まだまだ現場に届かない情報があることを知るとともに、他の地域で当たり前の方法を取り入れてみるきっかけにもなりました。

あくまで事例の一部ですが、農家同士であれば技術的なやや高度な話になりがちですが、これから始める人が加わることでもっとライトな部分の見直しが起こるということがありました。
また、「従業員として参画している人」にとっては、経営者側がなにを考えているのか知る機会にもなったようです。

2023年度への期待

いま、2023年度のゼミナールを進行中です。新しいメンバーも加わり今年は9名で実施しています。これ以上人数が増えるとグループを分けるか企画を一新しなければなりません。

昨年度ゼミナールを実施したことにより、自分の地域以外の状況をもっと知りたいと思った参加者の皆さん。また別で紹介できたらと思いますが、農場の視察見学ツアーの企画をしたところ、ほとんど毎回参加されて熱心に学ばれています。

初年度から果実を余すことなく全量売り切った方も出てきていたり、昨年は悩みが堂々巡りしていたのに社長を説得して業務改善をはじめた若手従業員の方が出てくるなど、皆さんの変化にとても刺激を受けながら今期も進めています。

この企画を通して私自身も学ぶことが多いです。日々一生懸命やっているからこそ、誰かの質問やアドバイスにそれは違うと感情が出る瞬間ももちろんあるのですが、立場も環境も異なるので、それぞれに合ったやり方を見つけていく作業を続けていくことに価値があると思いながら、発言を丸めたりフォローしたりする役割をさせていただいています。

次に起こる変化を楽しみに、今期も皆さんのディスカッションを見守っていきます。


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