カリフォルニアワイン繚乱 24年熟成カベルネにウナギの肝焼きの極上マリアージュ
ゴールデンウイーク終盤、久しぶりにワイン仲間で集まりカリフォルニアワイン会。周りは私のひと回り以上の先輩方ではあるが、ワインの前ではフランクにお付き合いさせてもらっている。お昼過ぎに主催者のマンションのパーティールームに集合。
ワインリストは以下、スパークリングワイン1本、白ワイン2本、赤ワイン3本の計6本。
【スパークリングワイン】ロデレール・エステート, エルミタージュ・ブリュット, AVA. アンダーソン・ヴァレー, アメリカ, カリフォルニア, 2015, 12.5%, 約8,800円(参考価格)
【白ワイン】フィリップス・ヒル・エステート, ゲヴェルツトラミネール, アンダーソン・ヴァレー, アメリカ, カリフォルニア, 2015, 13.6%, 3,200円(参考価格)
【白ワイン】マウント・エデン・ヴィンヤーズ, シャルドネ, エステート, サンタ・クルーズ・マウンテンズ, アメリカ, カリフォルニア, 2019, 14%, 約9,350円(参考価格)
【赤ワイン】ステルツナー・ヴィンヤーズ, カベルネ・ソーヴィニョン, スタッグス・リープ, アメリカ, カリフォルニア, 2011,13.9%(日本では流通していないよう)
【赤ワイン】スタッグス・リープ・ワイン・セラーズ, アルテミス, アメリカ, カリフォルニア, ノース・コースト, ナパ・ヴァレー, 2011, 13.5%, 約11,000円(2019ヴィンテージの参考価格)
【赤ワイン】ファー・ニエンテ・ワイナリー, カベルネ・ソーヴィニヨン, アメリカ, カリフォルニア, ナパ・ヴァレー, 1999, 13.5%, 約26,000円(2019ヴィンテージの参考価格)
会場へ向かう途中、日本橋高島屋の地下1階ペックで主催者が予約注文してくれていた小分けのオードブルセット人数分をピックアップ。
今回は貴重な24年熟成ワインが登場予定ということで、合わせるおつまみを買って行こう。健全なワイン好きならば、ローストビーフや牛ほほ肉の赤ワイン煮込みあたりを思い浮かべるはずだが、私はここでもシーフード偏愛が頭をもたげてしまう。デパ地下をウロウロしていると熟成カベルネとの相性を試してみたくなるお惣菜を発見。味の浜藤 鮎の塩焼(756円)、野田岩 鰻の肝焼き(728円)。それぞれ4つずつ購入。
熟成によりほどけたカベルネの甘美な果実味に、きっと鮎のワタのほろ苦、鰻の肝のほろ苦が寄り添うのではないか。
という魂胆なので、鮎のワタが取り去られていると計画が水泡に帰してしまう。高島屋のオネエさまに、『ワタは残ってますよね』と変人的質問をせざるを得なかった。この質問をナチュラルに、爽やかに言い切るのはなかなか難しい。ともあれ、カリフォルニアワイン会には似つかわしくない、オジサンのビール、焼酎のアテにぴったりのおつまみを抱えつつ会場到着。
ペックのオードブルにはワイン会にふさわしいメニューの以下が入っている。
・赤魚のロースト 野菜のマリネソース
・スモークサーモンのラザニア
・チキンカツ
先ずはスパークリングワインで乾杯!末席の私が抜栓、グラスに注いでいく。メンバーからは今回の赤ワインを現地調達されたときのお話、今年の海外ワイナリー巡りのお話(シャンパーニュにロワール、羨ましい!)、過去のワイン会の話(7年前、私がコツコツと集めていたシャトー・ラグランジュ1982年~2012年を、みなさんと一緒に同時飲み比べ)などで盛り上がりつつ、次々にグラスが空いていく。
最後はアマレットのショットグラス、コーヒーを飲んで至福に。
酔いが回るなか、みんなで後片付け。こういうときは大体グラスが割れるが、さすが紳士淑女の皆さま、粗相なく切り抜ける。ちなみに私は最後のワイン、24年熟成のコルクを抜栓の際に折ってしまった…。古酒専用の2本歯を差し入れるタイプのオープナーも持ってきていたが、面倒がって使わなかったのが失敗(ヒビ入れ+αの軽傷でワインにコルクが落ちなかったのは幸い)。熟成酒の余韻と反省に浸りつつ家路へ。留守を許可してくれた家族に、高島屋でお土産を買っていたのは我ながら。
さて、今回のカリフォルニアワインたちとのペアリングで特に気に入ったのは、赤魚のロースト 野菜のマリネソースにフィリップス・ヒル・エステートのゲヴェルツトラミネール。赤魚のリッチな脂とマリネソースの酸味に、ワインの華やかなフレーバーが極上の調和。
そしてスモークサーモンのラザニアにはマウント・エデン・ヴィンヤーズ, シャルドネ。クリーミーな生地にサーモンの塩味と旨味が絡み合うところに、ワインのこってり、クリーミーなタッチが加わり口内は完成。
極めつけは24年熟成のカベルネ・ソーヴィニョンのほぐれた甘美な果実味に、甘辛ダレが引き立てる鰻の肝焼きのほろ苦が極上のマリアージュ。山椒を振るとワインのスパイシーなヒントへの繋がりがよくなりひときわ輝く。参加メンバーからもお褒めの言葉に気をよくして、マニアックなシーフード・ワイン・マリアージュの発見にさらに勤しむことになる。
それぞれのワインと料理との相性について詳しく(ここからは少々細かいので適宜流し読み、スキップして頂ければ)。
ロデレール・エステート, エルミタージュ・ブリュット, AVA. アンダーソン・ヴァレー, アメリカ, カリフォルニア, 2015, 12.5%, 8,800円(参考価格)
Roederer Estate, L’ermitage Brut, Anderson Valley, California, USA
イギリスの専門誌『ドリンクス・インターナショナル』の「世界で最も称賛されるシャンパーニュ・ブランド2022」において、3年連続で第1位に輝いたルイ・ロデレール。そのルイ・ロデレールがカリフォルニアで手掛けるワイナリーがロデレール・エステート。ワイナリーがあるアンダーソン・ヴァレーは、カリフォルニア最北のブドウ産地。7月でも平均気温は23℃程度という冷涼地。シャルドネ52%とピノ・ノワール42%。
香りにはリンゴのコンポートを思わせる良く熟した果実香。8年の熟成を経て穏やかに広がる香り。ブリオッシュ香は控えめ。
味わいには黒ブドウのジューシーで瑞々しい果実味と白ブドウの清々しい酸味が絶妙なバランス。凝縮感は穏やかで、熟成により程よくカドが取れていてスーッと身体に染み込む。
赤魚のロースト 野菜のマリネソースにワインを合わせる。赤魚のリッチな脂とマリネソースの酸味のコンビネーションを、スパークリングワインのジューシーな果実味と酸味、泡の刺激が調和。相性: ★★★☆☆
フィリップス・ヒル・エステート, ゲヴェルツトラミネール, アンダーソン・ヴァレー, アメリカ, カリフォルニア, 2015, 13.6%, 3,200円(参考価格)
Phillips Hill Estate Gewurztraminer Anderson Valley, California, USA
サンフランシスコ出身のヒル氏は前職が色を扱う芸術家と、一風変わった職歴を持つオーナー醸造家。カリフォルニア芸術大学で美術学士号を取得後、1980年代をニューヨークで過ごし、90年代にサンフランシスコへ戻り建築関係のカラーリストとして活躍。その後、アンダーソン・ヴァレーを見下ろすメンドシーノ・リッジA.V.A.地区に土地を購入しワイナリー経営に参画。
香りにはライチ、白桃の果実香に、白い花、キンモクセイのフワラリーなフレーバーが重なる。
味わいの果実味の凝縮感は穏やか。残糖はほぼ感じず、こぎみよい酸味、みずみずしくドライでフードフレンドリー。
赤魚のロースト 野菜のマリネソースに。マリネソースの酸味にワインの華やかなフレーバーが絡みつつ、赤魚のリッチな脂の中の甘みを極上に引き立てる。相性: ★★★★☆
鮎の塩焼きに。鮎の繊細な風味に、ワインの華やかな香りと、ややスリムな風味ボリュームが調和。ただ、いまひとつ鮎の風味への踏み込みはないか。相性: ★★★☆☆
マウント・エデン・ヴィンヤーズ, シャルドネ, エステート, サンタ・クルーズ・マウンテンズ, アメリカ, カリフォルニア, 2019, 14%, 約9,350円(参考価格)
Mount Eden Vineyards, Chardonnay, Estate, Santa Cruz Mountains, California, U.S.A
所有する畑は、標高600メートル前後のマウント・エデンの山頂付近。1940年代後半と1960年代初頭に現在のマウント・エデン・ヴィンヤーズを開墾したマーティン・レイは元々ポール・マッソン・ヴィンヤードにあったシャルドネを植樹。1997年にフランス・パリで行われたフランス・ブルゴーニュの最高峰 モンラッシェの目隠し試飲コンクール。マウント・エデンのシャルドネは、ロマネ・コンティの他、名だたるドメーヌのモンラッシェに勝った。
香りには完熟リンゴ、りんごのコンポートなど厚みのある果実香に濃密に絡むバニラとエッジの効いたロースト香。
味わいには厚みのある凝縮感のある果実味。濃厚な完熟果実味とたっぷりと効いた樽香がわかりやすく魅力的。
鮎の塩焼に。鮎のカリカリの焦げ目の部分に、ワインのロースト香を帯びたバニラの香りとのシンクロが素晴らしい!が、筋肉質な果実味が白身の繊細な旨味をブルドーズしちゃう。相性: ★★★☆☆
スモークサーモンのラザニアに。この料理のためのワインかと言わんばかりの素晴らしい相性。料理のクリーミー、サーモンの塩味と旨味に絶妙に寄り添うワインのリッチでまろやかな風味。相性: ★★★★☆
ステルツナー・ヴィンヤーズ, カベルネ・ソーヴィニョン, スタッグス・リープ, アメリカ, カリフォルニア, 2011, 13.9%(日本では流通していないよう)
Stelzner Vineyards, Cabernet Sauvignon, Stags Leap District, Napa Valley, California, USA, 2011
香りには10年超の熟成とは思えないハリのあるチャーミング、ジャミーな甘美な香りが広がる。やや明瞭だがよく馴染んだ樽香。
味わいにはチャーミングで陽気な果実味。カベルネのシリアスさが見事に削ぎ落とされ、深遠な熟成の入り口にありながら果実味の親しみやすさも広がる。
鰻の肝焼きに。肝のタレの甘辛に、10年超の熟成を経ても力強く残るワインの甘美な果実味が絶妙に調和。タレとワインが一体化しつつ、肝のほろ苦を包み込む極上のマリアージュ。相性: ★★★★☆
スタッグス・リープ・ワイン・セラーズ, アルテミス, アメリカ, カリフォルニア, ノース・コースト, ナパ・ヴァレー, 2011, 13.5%, 約1,1000円(2019ヴィンテージの参考価格)
Stag's Leap Wine Cellars, Artemis, Napa Valley, North Coast, California, USA
スタッグス・リープ・ワイン・セラーズは1972年、ロバート・モンダヴィ・ワイナリーで研鑽を積んだウォレン・ウィニアルスキ氏が設立。ファースト・ヴィンテージは1973年。このヴィンテージのスタッグス・リープ・ワイン・セラーズ・カベルネ・ソーヴィニヨンは、1976年のパリスの審判と呼ばれるブラインド・テイスティングにおいて5大シャトーなどの著名なワインをおさえて1位に。
香りにはドライフルーツ、プルーンなど熟成によりほぐれた果実香。微かにヴェジェタルなニュアンスが混じりワインに骨格とメリハリ。
味わい。タンニンにはまだ力強さが残るがカドが取れ、熟成によりほぐれた甘美な果実味が広がる。さらに熟成させても面白そうだが、熟成の入り口の魅力をたっぷりと楽しめる。
鮎の塩焼に。ワタの部分に合うと踏んで合わせる。程よくほぐれた果実味との相性は悪くはないが期待したほどの踏み込みはない。ワインに甘美な果実味が力強く織り込まれていて、やや穏やかな風味ボリュームの鮎のワタにはアンバランス。相性: ★★★☆☆
鰻の肝焼きに。肝のほろ苦をありとあらゆる角度から包み込む熟成ワインの妙。ワインにまだまだ健在の果実の甘味が重なる。さらに山椒を散らして。爽やかな和のスパイスが、甘美なワインとのつながりを増し、さらに一段階上のマリアージュに。相性: ★★★★☆
ファー・ニエンテ・ワイナリー, カベルネ・ソーヴィニヨン, アメリカ, カリフォルニア, ナパ・ヴァレー, 1999, 13.5%, 約26,000円(2019ヴィンテージの参考価格)
Far Niente Winery, Cabernet Sauvignon, Napa Valley, California, USA. 1999
ファー・ニエンテは、ジョン・ベンソン氏が1885年に設立。ナパでも最古の一つに入る由緒正しきワイナリー。
香りには24年の熟成を経て、果実香にはドライフルーツの割合が多くなり、樽香ともシームレスに統合、複雑で奥ゆかしくも、嗅ぐとパッと幸せな気分になる甘美な果実香。
味わいにはほどけるところまでほどけてとろけるような果実味、微かにポートワインのような甘美なニュアンスも立つ熟成の妙。熟成ボルドーも良いが、熟成に研ぎ澄まされた風味の奥に甘美な果実味が優しくカリフォルニアの熟成ワインも楽しい。
鮎の塩焼に。狙い通りワタの部分に合わせる。ほろ苦さとのシンクロが素晴らしい。が、肝の部分が若干取り除かれていて少なめで、白身が口に入るからか全体的なシンクロはもう一歩。高島屋のオネエサマの説明の通り肝は残ってましたが、万人受けのかわいい残し方でしたね。相性: ★★★☆☆
鰻の肝焼きに。甘辛のタレにポートワインのようなニュアンスを含む甘美な果実味が絶妙に調和。さらに、ほぐれた果実味と深遠な熟成ワインの複雑な風味は、鰻の肝のほろ苦さの奥まで染み込み、包み込む。まさに熟成の妙がみせる極上のマリアージュ!相性: ★★★★☆
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?