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短編小説「人生」

2000年、僕は0歳。

新しい物語がはじまったんだ。


2001年、僕は1歳。

大きく成長してきた時期。

成長期には及ばないが、結構育ってる。


2002年、僕は2歳。

キャッキャと言ってる毎日だ。

すごく、すごく平和な毎日だ。


2003年、僕は3歳。

変な機械を見つけた。変な音がしていた。

お母さんなるものの声がした。

ぼくは目の前が見えなくなった。


2004年、僕は4歳。

ここ1年、ずっと何も見えなくなったんだ。

けど生きている心地だけ感じる。

お母さんの声も聞こえる。お父さんの声も聞こえる。

よくわからない。


2005年、僕は5歳。

ぼくはいま家にいないのかもしれない。

どうやら、幼稚園という場所にいるらしい。

変な場所だな。


2006年、僕は6歳。

痛い。誰かに殴られている気がする。

僕は何も見えないから何もわからないけど、

憎い声が聞こえる。

「こいつ反撃しないぜ!」

反撃ってなんだろう。


2007年、僕は7歳。

僕は1年生だ。立派な、立派な。

周りとはかかわらず、先生?という人とだけ関わっているらしい。

僕の味方は、お母さんとお父さんと、先生なんだな。

何もわからないのに、虚しい。


2008年、僕は8歳。

今日は平和な一日だった。

お母さん、お父さんと美味しいご飯を食べに行ったんだ!

その名前は「寿司」なんだって。

味だけじゃなくて。見た目もきれいなんだって。

見てみたいな。


2009年、僕は9歳。

お母さんから最悪なことを伝えられた。

僕は昔に、目を失ったんだと。

衝撃が走った。

なんで今まで気づかなかったのか、

だから”友達”ができないのか。

目がないだけで友達ができないなんて、

あまりにも不平等じゃないか。

絶望に苛まれる。


2010年、僕は10歳。

僕は「高学年」になったらしい。

高学年になって習ったことがあるんだ。

「◯◯の倍数」だ。

「3の倍数」とかいう、「3,6,9、12、15・・・」

というのが例だ。

算数は面白いな。


2011年、僕は11歳。

最近では算数で物事を考えるようになったんだ。

例えばー、僕の年齢。「11」は、3の倍数ではないな。

11÷3=3あまり2 だからな。

来年は3の倍数だな。

楽しみだ。


2012年、僕は12歳。

今日はいつもと違う。

医者の声が聞こえる。なんでだろう。

その後、お母さんの声がなくなった。

なんだか、急に眠くなってきた。

僕はそのまま寝た。


2013年、僕は13歳。

もう中学生!

と、言いたいところなんだが。

去年から一年、左腕の感覚がない気がするんだ。

お母さんは気のせいだよ。

とか言うんだけど、

まあ別にいいよね。


2014年、僕は14歳。

僕は数学が大好きだ。

xとかyとか、これを聞くと、関数にも聞こえるんだが、

方程式が特に好きなんだ。

変わっているかもしれないが、解があることの美しさ、

それがいいのだ。

最近では、数学IIIの「微分積分」が気になっている。

高校生で習う内容だけど、自主勉したいと思っている。


2015年、僕は15歳。

周りの声を聞く限り、受験があるらしい。

けどテストみたいなものだと聞いたので、

僕はできないなとおもった。

僕には友達がいる。優しくて面白い友達。

「お前は受験できないもんな。」

「不謹慎かもしれないが、目も、左腕もないんだから。」

、、、え?

僕って左腕なかったんだ。

、、、別に悲しくなんかない。

、、、絶望してるだけだ。


2016年、僕は16歳。

僕は中卒だ。

受ける方法はあったかもしれないけど、

そんなのわからない。

けど僕には寿司と数学と家族がいる。

うちの家族は珍しく、なかなか離婚しない。

良い家族だよ。


2017年、僕は17歳。

最近は自己流研究をしている。

僕についての研究だ。面白いだろ?

僕を一番知ってるのは僕だからな。

僕の歳、僕の性格、僕の特徴、すべてデータにして

数学につなげているんだ。

なんかナルシストみたいだよな。


2018年、僕は18歳。

気づいてしまった。

僕の歳と数学をつなげ合わせた結果だ。

ハードルは低い。

小学生の算数の内容だ。

僕の年齢は3の倍数のとき、

不幸に

「うるさい!」

大きい声が隣の部屋から聞こえた。

お母さんの声だ。

半泣きな声。

もう既に察している。

喧嘩している。お父さんと。


2019年、僕は19歳。

お母さんとお父さんは離婚した。

お母さんと僕が一緒に暮らすらしい。

お母さんは僕に、

「あなたは悪くないからね」

と、優しくいってくれている。

ありがとう、なんて言えない。


2020年、僕は20歳。

僕は心配している。

来年は3の倍数。不幸が起こる日だ。

死にやしないと思うが、

僕はお母さんに寿司を食べさせてもらった。

これが最後の晩餐だと思うと泣けてくる。

寿司の見た目すら見えてないのに。


2030年、僕は30歳。

あれから4回の不幸が起こり、

両手、両足を失った。

もう僕には頭と身体しかない。

そして今日、死ぬのかもしれない。

お寿司の見た目、見たかったな。

なぜか今はお母さんがいない。

病院に行くとか言って、、、どういうことだろう。

いや、まてよ、ここもしかして、

病院なのかもしれない。

そういえば、聴覚すら失ったから、、、

じゃあ、不幸といえばなんなんだ。


2030年、僕は30歳と1ヶ月。

1ヶ月前に、病院にいたんだけど、それから意識を失っていた。

ふとおきた。

ん?視界が眩しい。

いつも暗いはずなのに。

そして何かが聞こえる。

手足もすべてある。

今日は不幸な日のはずなのに。

完全に幸運じゃないか。

驚愕で気絶しそうになった。

お母さんを探そう。お母さんを見てみたい。

そのあと、病院の中を走り回ったが、どこにもみあたらない。

なので医者に聞いてみた。

医者は言う。

「あなたのために、他界したんですよ。」

、、、え?

信じられなかった。

あなたのためにってどういうことなんだ。

わけもわからないままその場で崩れた。

そうやってて10秒後、すべてを理解した。

目も、足も、手も、耳も、

僕にくれたんだ。


2040年、40歳。

2030年からはちっぽけな不幸しか起きなかった。

もう思い出したくもない。

僕はみんなを失った不幸なやつだ。

そういえば、寿司ってどんな形なんだろう。

行ってみるか。

寿司屋についた。

マグロ、お願いします。

「はいよ!」

それを見た瞬間、あまりに驚いた。

なんて美しいんだ、、、

その場で泣きそうになった。

流石に泣くのは迷惑かなと思ったんだ。

けど、泣いていいほど

美しかったんだ。


2050年、僕は50歳。

この10年間もちっぽけなことしか起きなかった。

そういえば、数学の数字を見たことがない。

見てみよう。

この前かったスマホで調べてみた。

ふーん。簡単な感じなんだ。

なんだこれ!?「∫」?「π」?

難しいな、、、

長年数学をやっていなかったせいかもしれない。

懐かしい気分になった。


2060年、僕は60歳。

今までの人生、難もあったけど

楽しいこともあったな。

僕の心はまだ小学生気分。楽しいよ。

「僕」という存在、「みんな」の存在。

不幸ばっかりの僕だったが、たのしいこともあったんだ。

今の人生が楽しくない人だって、

今まで楽しいこともあったんじゃないのだろうか。

僕みたいに、手足や目、耳だって失ったとしても、

愛してくれている人がいたんだ。

そんな人生に乾杯。

また人生を経験してみたいんだ。

キィイイイイイイイイイイ!!!!(トラックの音)

END.


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