squeeze~2024.2.28『拳王&大和田侑vs清宮海斗&大岩陵平』~
はじめに
先日、私がプロレスを観戦しに行った時に、カメラで撮影した1枚がある。
SNSで観戦時の写真を投稿すべく選定していた時に、この写真を見つけた。
そして、写真を見た時に、ふと『スクイズ』という言葉が頭に浮かんできた。
スクイズという単語を調べてみると、このような意味が出てくる。
「スクイズ」という言葉が私の脳内に浮かんできたのは理由があった。
以前、タッグマッチなどでコーナーに控えている選手が、相手の首や関節を絞り上げているパートナーの選手に対して「スクイーズ!」と叫んで指示していた様子を見た事があるからである。
そしてもう一つ、「スクイズ」という言葉が使われるシチュエーションがある事を思い出した。それは、野球だ。
終盤の1点を争う際に用いられる、大胆にして重要な戦術。
「スクイズ」に込められた2つの意味を見た時に、今回私が書こうと思っていた記事のタイトルと方向性が決まった。
尤も、「私自身胸を打たれた試合だったから」という点が非常に大きかったのだけれども…。
2024年2月、プロレスリング・ノアでは2020年以来となるタッグリーグ開催が発表された。
『GLOBAL TAG LEAGUE』から『Victory Challenge Tag League』に改称されて開催する今回のタッグリーグは、2020年大会が新型コロナウイルス禍により全試合無観客となったため、有観客では2019年以来実に5年振りのブランクを経ての開催となった。
全8チームが集う総当たり形式のリーグ戦で、最後の8チーム目にエントリーされたのが、拳王&大和田侑だった。
タッグリーグ開催が発表された当日、仙台サンプラザ大会でGHCヘビー級王座を失った拳王だが、その4日後に行われた横浜ラジアントホール大会で対戦した大和田侑とタッグを組んで、タッグリーグへのエントリーが決定した。
2024.1.2有明アリーナ大会でデビュー後初勝利を挙げたものの未だキャリアは7カ月しかない大和田と、前GHCヘビー級王者・拳王によるタッグチーム。
他のチームに比べて組んだ実績も浅く、何より大和田はNOAHで一番若手にあたるキャリアだ。
とはいえ、今回のタッグリーグ開催前に行われた有識者の優勝予想では、丸藤正道を含めた2名が本命候補、1名が対抗馬に挙げるなど、期待値は決して低くない。
そんな『Victory Challenge Tag League』は、開幕戦の2.24横浜ラジアントホール大会と2戦目の2.28新宿FACE大会を終えると、残りの公式戦は地方に転戦していくため、関東で観戦できる機会が無い。
私は5年越しに生でNOAHのタッグリーグを観戦しに、2.28に行われた新宿FACE大会へと足を運んだのであった。
この夜、大和田の活躍で新宿FACEが熱狂に包まれることになるとは予想だにせず…。
拳王&大和田侑vs清宮海斗&大岩陵平
タッグリーグ公式戦2戦目となる2024.2.28新宿FACE大会のメインを飾ったのは、『拳王&大和田侑vs清宮海斗&大岩陵平』。
両チームともに開幕戦黒星スタートという状況で、優勝に向けて何としても勝ち点を掴みたい一番。
NOAHでも一番キャリアの浅い大和田は、試合で清宮と大岩に喰らいついていく。
この日の拳王は前線に出ていくよりは、大和田のサポートに徹する動きの方が多かったと思う。
しかし、すぐさま大岩に襲い掛かる、清宮と大岩の猛攻の数々。
試合の最中、リングアナが「残り試合時間5分」と告げたところで、私は時間切れドローの可能性を始めて認識した。
NOAHでは30分1本や60分1本という形式が多い中、この日は公式戦20分1本勝負というレギュレーション。
故に、不利な状況を強いられている拳王&大和田が勝ち点を捥ぎ取れる可能性は大いにある。
しかし、残り試合時間5分を告げるアナウンスから、清宮と大岩の攻撃と圧は激しさを増していく。
カットに入ろうとする拳王も2人に剥がされ、大和田が2vs1のローンバトルを強いられる展開に…。
残り試合時間1分が告げられたのとほぼ同じタイミングで、清宮がチキンウイングフェイスロックのような形で大和田を捕えた。
ギリギリと搾り上げていく清宮に、堪らず右腕でタップしそうな大和田。
それを思い留まらせようと突き動かす、会場中から自然発生した大和田コール。
清宮がそこから胴締めの体勢に入るも、20分経過を伝える無常のゴング。
大和田をスクイーズするように攻め上げた清宮と、スクイズを成功させたバッターのように1点を捥ぎ取った大和田。
両チーム初の勝ち点となる1点を分け合う結果になったものの、顔を覆って悔しがる清宮と大岩、大和田に駆け寄りガッツポーズする拳王の構図は実に対照的で、どちらが試合の"勝者"だったのかを如実に示していた。
試合後、清宮がマイクを握るも、一言も発することなくマイクを叩きつけて退場。
一言も発さずとも、滲ませた悔しさ。
対する拳王と大和田のマイクアピールに、自然と沸き立った観衆達。
NOAHでキャリアが一番浅く、若手の代表的な黒いショートパンツ姿の大和田が自身初のメインイベントで存在感を示した夜に、新宿FACEは熱狂の渦となった。
後々大和田のキャリアを振り返る上で、凄まじい試合を私は目撃してしまったのかもしれない。
そう考えただけで私は、ゾクゾクする思いとワクワクする期待に駆られてしまうのだ。
まとめ
2021年秋、武藤敬司とのシングルマッチを終えた清宮海斗が奇しくも「勝てなかったけど、負けはしなかった。」と発した事との関連性も指摘されていた、試合後の大和田のマイク。
でも、今回のタッグマッチで大和田の事を「勝てなかった」と揶揄する者は、恐らく1人もいないだろう。
圧倒的なキャリアの差がある清宮の攻撃を耐え切って掴み取った勝ち点1は、大金星に値するはずだ。
勝てなかったけど、負けなかった。
相手に絞られながらも、強敵相手に大和田がスクイズの如く絞り出した1点。
記録上は1点でも、この1点に込められた執念と煌めきは、間違いなく観衆の胸を打つものになったのだから。
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?