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復帰戦の効能について考えたこと~2024.6.9『AMAKUSA&宮脇純太vsアレハンドロ&クリストバル』~


はじめに

2024.6.9プロレスリング・ノア後楽園ホール大会で、約10ヶ月ぶりに戦列復帰を果たしたAMAKUSA。


その復帰戦を終えてリングを降りる直前、目元を拭い下を向く1人の選手がいた。


彼の名は、宮脇純太。
2016年8月にデビューした、NOAHのJr.ヘビー級レスラーだ。


復帰したAMAKUSAではなく、パートナーを務めた宮脇が泣いている。
何となくだけど、外野から見ていて、思い当たる節は一つだけあった。



2023.8.10、プロレスリング・ノア後楽園ホール大会。

毎年恒例となっているシングルリーグ戦・『N-1 VICTORY』と並行する形で行われた、『GHC Jr.タッグ王座次期挑戦者決定トーナメント』。


2連勝すればタイトル挑戦が決まる全4チーム参加のトーナメントに、AMAKUSA&宮脇純太組も名を連ねていた。


そのトーナメント1回戦で実現した『小峠篤司&Hi69vsAMAKUSA&宮脇純太』の一戦だったが、試合中盤にAMAKUSAが飛び技で着地した際、左脚を負傷するアクシデントが起こる。

脚を引きずる姿は、素人目から見ても軽傷ではなさそうだと察せられるものだった。


序盤戦で小峠篤司とHi69に捕まった宮脇が場外でうずくまる中、レフェリーが宮脇に立ち上がるようジェスチャーを出す異常事態。


期せずして、2vs1のローンバトルを強いられる事になった宮脇。


再三攻撃を喰らい、3カウントを狙われる宮脇だったが、ここで予想もしていなかった出来事が起きる。

脚を負傷したはずのAMAKUSAが、リングインして宮脇をカットプレーで救ったのだ。
それも1度ではなく、何度も。

正直、あの脚の引きずり方ではリングに上がることすらままならなかっただろう。最早、AMAKUSAは本能でカットに動いていたとしか思えない。


試合は宮脇が3カウントを奪われて終わったものの、トーナメント1回戦敗退よりも「AMAKUSAが軽傷であってほしい」という、祈りにも似た思いが私の脳内を駆け巡った。


その後明らかとなった診断結果は、左膝前十字靭帯断裂。
早くても1年近く、選手によってはリングに復帰するまで1年以上を要するケースもある程の大ケガだった。



欠場の報告がYouTubeなどで成されて以降、一切音沙汰の無かったAMAKUSA。
しかし、2024.5.4NOAH両国国技館大会に来場すると、約10ヶ月ぶりに戦線復帰する事を報告。


負傷から比較的早いペースで復帰を果たしたAMAKUSAのパートナーは、AMAKUSAが負傷した状態でも、カットに入って助けてきた宮脇。

対戦相手は、清宮海斗や拳王と共に革命を起こすべく集結した新ユニット・『ALL REBELLION』のアレハンドロとクリストバル。

復帰戦から、NOAH Jrの中心位置を目指す者同士によるバトル…。


「あの日の事は忘れたくても忘れられません」


詳細に言及せずとも、宮脇の指した"あの日"が何時だったのかは明白だった。

AMAKUSAが欠場してから時が止まっていたのは、宮脇も同じだったのではないか…?
だからこそ、「AMAKUSA復帰戦は、AMAKUSA1人だけではなく、重いものを背負った一戦になるんだろう」と私は思った。


『AMAKUSA&宮脇純太vsアレハンドロ&クリストバル』

迎えたAMAKUSAの復帰戦。

大会開始時のカード発表では、AMAKUSA復帰戦で一際大きな歓声が客席から巻き起こる。
みんな、この時を切望していたのだ。


約10ヶ月前、左膝前十字靭帯断裂の大ケガを負ったことが信じられないほど、AMAKUSAの動きは欠場前と変わらぬ軽快なものだった。


この復帰戦で躍動したのは、AMAKUSAだけではなかった。
ある意味、AMAKUSAの欠場から重い十字架を背負っていたと思われる宮脇も、気合い十分の積極性を発揮して試合を盛り立てていく。


AMAKUSAとアレハンドロのマッチアップも、ブランクを感じさせない流麗さ。


負傷のキッカケとなった飛び技も無事成功させて、会場のボルテージも次第に高まっていった。


そして、AMAKUSAがピンチを迎えた場面では、宮脇が何度となくAMAKUSAを助けてみせたのだ。

それはまるで、あの時AMAKUSAから受けた恩を返しているかのような…。

宮脇の絶妙なアシストも奏効して、試合はAMAKUSAとクリストバルの一騎討ちに突入。

カンクーン式のトペ・スイシーダをクリストバルに決めると、最後はリング上で必殺技の"開国"。

自身の復帰戦を、見事白星で飾ったのである。


その試合後に生まれたのが、冒頭でも紹介した宮脇の涙であった。

涙を拭ったのは一瞬のことで、試合後のマイクも無かったけれど、紛れもなく、宮脇の中で止まっていた時が動いた瞬間でもあった。



まとめ

復帰戦というものは、(欠場期間の長短にかかわらず、)「復帰した当該選手や、ファンが一番安心して前を向ける一つの重要な儀礼ではないか?」と私は感じている。


ただ、今回のAMAKUSA復帰戦を見て、私は別の感情も抱いた。

「当該選手やファンだけでなく、負傷した試合に携わっていた宮脇をも救う効能が、今回のAMAKUSA復帰戦には備わっていたのではないか?」と。


止まっていた時が、明らかに動き出した感覚。
それは、復帰したAMAKUSAだけでなく、宮脇にとってもそうだったのかもしれない。


大ケガのブランクを一切感じさせなかったAMAKUSAの動きもさることながら、復帰戦のAMAKUSAを見事にアシストしてみせた宮脇の活躍も評価されてしかるべきだと私は感じた。

単純にAMAKUSAの勝利を御膳立てした訳ではなく、自ら積極的に攻めていく果敢さも感じられたから。


AMAKUSAの欠場期間中、宮脇は近藤修司に弟子入りして肉体改造に励んだり、


宮脇が大ファンという、オードリーのバラエティ番組にオーディションからの出演や、『オードリーのオールナイトニッポンin東京ドーム』で春日俊彰のプロレスをサポートしたりするなど、リング内外で積極性を見せていた。


今回のAMAKUSA復帰戦がAMAKUSAだけでなく、宮脇も浮上するキッカケになる事を私は願って止まない。

2人にのしかかった10ヶ月にも及ぶ重しが、この復帰戦で外れたのだから。


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