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DO YOU WANNA DANCE WITH ME?~2024.4.11『拳王vs清宮海斗』~


はじめに

だけど僕らは一つさ
表と裏とで
つながってるんだ
回っているコインみたいにさ

The Birthday『NIGHT LINE』



2010年代後半から、プロレスリング・ノアの看板カードに定着したライバル関係がある。

それは、『拳王vs清宮海斗』だ。


2019年11月の両国国技館メイン、日本武道館でもタイトルマッチが複数回組まれるなど、近年はビッグマッチでの対戦が多い両者の一戦は、これまでに11回実現した。
戦績では7勝4敗で拳王が勝ち越しているものの、直近2試合はGHCヘビー級王座戦で清宮が連勝中。

過去にGHCヘビー級王座戦5回、GHCナショナル王座戦2回と度々タイトルと団体の舵を賭けて対戦してきた2人だったが、12回目となる今回は少し事情が違った。
互いに丸腰という今の状況で、ベルトの代わりに賭けられたのは【絶縁】だったからだ。


清宮が勝ったら、宿敵でありライバルの拳王と袂を分かつ。

ある種、タイトル以上に重いものが賭けられる事になった今回のシングルマッチを前に、拳王は若手時代の清宮を用いながら、清宮に注いできた愛をアピールして揺さぶりをかける。


この拳王の振る舞いには、NOAHファン以外から「容姿を馬鹿にするのは最低だ」、「こんなシャツを作るなんて、清宮が嫌がっているじゃないか」という批判も巻き起こった。

ただ、皮肉なもので、ビッグマッチでは無い大会のノンタイトルマッチにもかかわらず、12回目を迎えた『拳王vs清宮海斗』の話題性は抜きん出ていた。


本興行のメインイベントでGHC王座戦が組まれてきた2024年1月~3月までのNOAH後楽園ホール大会に匹敵、或いはそれ以上の反響を賛否に感じ取れたからだ。
炎上沙汰が良いとは言い切れないが、明らかにNOAHを普段見ていない方々が注目している。

「きっと素晴らしい試合になるんじゃないか」という安心と信頼を抱きながら、私は大会当日の後楽園ホールにいた。


『拳王vs清宮海斗』

今のNOAHの金看板カードと言える『拳王vs清宮海斗』。
看板カード故に最近はビッグマッチ開催が多く、前回実現したのは『グレート・ムタvsシンスケ・ナカムラ』が組まれた2023.1.1日本武道館大会だった。

私の記憶が確かならば、拳王と清宮のシングルマッチが後楽園ホールで組まれたのは、2021年10月の『N-1 VICTORY』決勝トーナメント準決勝戦まで遡る。
後楽園ホールのメインイベントに限れば、まだNOAHがサイバーエージェントグループ傘下でもリデットエンターテインメント傘下でもない時期の、2019年1月に行われたGHCヘビー級王座戦以来では無いだろうか?


それだけ久方振りだった聖地での看板カードでも、今の清宮のスタンスは試合直後から一貫していた。

ゴングが鳴らされるや否や、拳王に畳み掛けるような攻撃を繰り出し、フィニッシャーであるシャイニングウィザードまで敢行。
後楽園ホールのメインイベントにもかかわらず早期決着を狙う清宮の姿勢は、拳王と絶縁する強い決意を観客に示す、この試合において重要なシーンとなった。


この2人の一戦は、「拳王の強烈な攻撃を、清宮が受けて勝機を窺う」という試合展開になっていく印象が個人的には強い。

ただ、この日は「清宮が強烈な攻撃を拳王に浴びせる」場面が試合の軸となっていった。
場外だけでなく、南側座席の通路にまで移動して拳王を痛めつけていく清宮。



劣勢を強いられる拳王に向けて、観衆から起こる声援は強まっていく。
試合中盤、場外でようやく火を吹いた拳王の強烈なキック。拳王も徐々に攻撃のリズムを取り戻していく。


一進一退の攻防は、まるで王座戦のよう。
2人の間で賭けられた【絶縁】の二文字が、タイトルと同じ意味と価値を生み出している瞬間でもあった。


そんな一戦で私の記憶に刻まれたのは、試合中盤に繰り出された清宮の攻撃だった。

拳王の膝元を狙った低空ドロップキックに、コーナートップから投げ捨てるような雪崩式フランケンシュタイナー。


極めつけは、フィニッシュにもなったシャイニングウィザード。


清宮の攻撃は、武藤敬司の存在を想起させるだけのインパクトが確実に込められていた。

とはいえ、武藤からシャイニングウィザードを直伝されて間もなかった2022年夏以降のように、ただ武藤の得意ムーヴを遂行した訳ではない。
武藤敬司という存在も自らの血肉へと馴染ませていった清宮の進化形態が、2024年春に開花したのである。


拳王コールに傾いていた会場も、試合終盤に入ると清宮と拳王の声援が真っ二つに割れるほど、場の流れを変えて見せた清宮の地力が露になった。


絶縁を賭けた一戦を制して、NOAHの中心に立つことを宣言した清宮海斗。

マイクでは若手時代の写真シャツに対して触れつつも、「全然嫌じゃないよ!何なら、これからシャツにサインしようかな!」と笑顔で言ってのけた事で、賛否が分かれた拳王の容姿弄りというリング外の話題にも決着をつけて見せた。


2020年~2022年夏にかけて続いた不振の日々を止めた時よりも、強く逞しくなった清宮海斗の存在感。

だからこそ、「容姿弄り良くない!」とか戦前のマイク合戦に否定的だった方にこそ、是非見てほしい試合だった。
本当に凄かったんだから。


まとめ

絶縁を賭けて行われた、今回の『拳王vs清宮海斗』。


清宮の勝利による絶縁が決まったとはいえ、袂を分かっても再び結び付いた過去も2人にはあるし、何より「プロレスに絶対という言葉はない」という言葉がある。
何より、このライバルストーリーが終わってしまう事が不思議と想像できない私がいるから。


ただ、私が今回の絶縁騒動を見て確信した事が一つある。
清宮海斗は「感情を出してナンボの選手だ」と。

対戦相手やファンからマイクの拙さを指摘される機会も少なくない清宮だけれども、拳王のように雄弁さが伴うマイクよりは、「端的なフレーズと感情の爆発で刺してくる方が合っているタイプなんじゃないか?」と私は感じたのだ。


振り返れば、2023年に実現したオカダ・カズチカ戦のキッカケは「ビビってんのか?ビビってんなら帰れ!」という怒りのマイクだったし、今回拳王に対して言い放った「めんどくさい」というフレーズも、執拗に絡んでくる拳王に対してストレートに刺す破壊力があった。

何より、拳王が持ってきた若手時代の写真シャツに対して嫌がる素振りを見せながらも、試合後には「全然嫌じゃないよ!何なら、これからシャツにサインしようかな!」と笑顔で言ってのけたのだ。この対応力の高さを見ても下手だとは言いづらい。


結果として「若手時代の清宮の容姿を弄るの良くない!本人も嫌がってる!」と言っていた周囲の批判にも梯子を外すアクション。
打算でやっていたなら更に凄いんだけど、そういう打算や計算が見えないからこそ余計に清宮という選手にノレる。そんな感覚。

過去を振り返ってみると、『拳王vs清宮海斗』は賛否も背負って闘う場面も少なくなかった。

2019年11月の両国国技館大会では、前哨戦でタイガースープレックスホールドを出した清宮の腹部に、拳王がフットスタンプを落として負傷に追い込んだ事がファンから批判を浴びた。
ただ、当日の王座戦では、容赦なく清宮の首を攻めていく拳王と、それを耐えて勝った清宮に覚悟を見た。


2023年1月の日本武道館大会で行われたGHCヘビー級王座戦は、『グレート・ムタvsシンスケ・ナカムラ』とのダブルメインイベント扱いで事実上のセミファイナルというシチュエーションでも、声出し禁止の会場でも試合でどよめきを一番生む試合になった。


そして今回は、容姿弄りというデリケートな案件と共に清宮の過去を持ち込む拳王に対して、清宮は動じず結果と振る舞いで超越した事で更なる逞しい姿を提示してみせた。

ここに挙げた3試合は全て拳王が敗戦を喫しているが、敗れても尚、壁で終わらない印象と爪痕を残してくる所は流石と言うべきか。


そう考えたら、絶縁宣言後も清宮海斗と拳王は未だ切っても切れない関係にあるのかもしれない…。


表と裏とで
つながってるんだ
回っているコインみたいにさ


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