"真ん中"と"横道"のジャンクション~2022.10.12『樋口和貞vs青木真也』~
はじめに
上述のやり取りは、2022年8月にDDTプロレスリングで行われた『樋口和貞vs遠藤哲哉』を前に、青木真也のインタビューで生まれたものである。
2022年6月、サイバーファイトフェスティバル2022で起きた、KO-D無差別級王者・遠藤哲哉の失神KO。
遠藤の返上により空位となった無差別級王座を、自らの手で掴み取った樋口和貞。
そんな一連の流れに対して、フリー参戦中の立場から青木がコメントしたのが、冒頭のインタビューである。
質問にある「俺たちのDDTを見せよう」とは、遠藤と樋口のマイク合戦の中で発せられた言葉だ。
インタビューの最後には、「それらの成長が見えた暁には、青木さんがKO-D無差別級王座に(挑戦)…」という質問が青木に対してなされた。
『いつでもどこでも挑戦権』が生んだドラマ
上記のインタビューが公開された前後に、DDTから、とある発表がなされた。
『いつでもどこでも挑戦権』(以下:いつどこ権)の復活である。
これまで、高梨将弘、大家健、佐々木大輔、遠藤哲哉などがKO-D無差別級王座初戴冠を果たすなど、DDTの名物アイテムであった『いつどこ権』
しかし、2020年以降は、同権利が大会内で撒かれることがなかった…。
2022.8.14、約2年半振りに復活した『いつどこ権』を獲得したのは、青木真也。
https://www.ddtpro.com/results/18634
どのタイミングで青木が同権利を行使するか注目された中、事が動いたのは約2か月後。
2022.10.12 DDTプロレスリング後楽園ホール大会だった。
この日のメインイベントは、KO-Dタッグ王座戦・『樋口和貞&吉村直巳vs佐々木大輔&KANON』
シングルとタッグの二冠王者である樋口は、序盤から挑戦者チームに右腕を攻められる展開に…。
終盤のロープエスケープでは、腕を極められた状態でロープを噛みつく場面も。
個人的に、2022年に見たタッグマッチでも上位に入る好勝負だった一戦は、樋口がブレーンクロースラムでKANONから勝利し、王座防衛。
試合後、吉村がマイクで締めようとするタイミングだった…。
「挑戦…!」
この一言により、KO-D無差別級王座戦・『樋口和貞vs青木真也』が急遽実現する運びとなった。
先述した青木の言葉を借りるなら、"メジャー"だと評した樋口と、"横道"にいた青木が、頂点をかけて交わる事になったのである。
『樋口和貞vs青木真也』
タッグ王座戦の激闘直後に実現した一戦は、一方的な展開となった。
メインで攻められ続けた樋口の右腕を、青木は容赦なく攻め立てたのである。
体格差では圧倒的に樋口が有利なはずなのに、的確に右腕のみを狙って試合を掌握する青木の姿からは、そのような身体的不利を一切感じさせなかった。
寧ろ、青木の方が大きく見える時もあったほどである。
追い込まれる樋口に対して、次第に強くなる樋口への声援。
この日は声出し応援が可能な大会となっていたが、メイン以上に、樋口への声援は強さを増していった。
終盤、青木がオクトパスホールドから樋口の右腕と首を極めた瞬間、悲鳴交じりの声援がこだまするも、何とか樋口もエスケープ…。
勢いそのままに、飛びつき式腕十字を狙う青木だったが、樋口がブレーンクロースラムで反撃。
立ち上がれない青木を起こすと、樋口が青木に強烈な頭突き…!
直後にレフェリーストップが宣告されて、勝負あり。
ダブルヘッダーかつ難敵というキツい条件を、樋口は見事に乗り越えてみせたのである。
この瞬間、私は思った。
「今年の樋口は、プロレス大賞のMVPないし三賞に入らなかったら嘘だ」と…。
KO-Dトーナメント優勝&KO-D無差別級王座戴冠、遠藤哲哉や竹下幸之介からの王座防衛、タッグ王座戴冠、今回のダブルヘッダーと、約4ヶ月で一気に賞レースの筆頭候補に立ったのだ。
そこに、疑いの余地はないと私は思った。
まとめ
試合後の青木のバックステージコメントは、2022年8月のインタビューと変わらない、現世代に対するエールに満ち溢れていた。
今回の『樋口vs青木』は、タッグ王座戦の激闘から地続きのシチュエーションで実現した事もあり、その場で流れを把握している観客達が共有できる熱を含んでいた。
恐らく、当初から青木の挑戦が決定していて前哨戦を重ねていたなら、生まれなかった方向の熱だろう、と私は感じた。
まさに、タイミングが重なりあって生まれた好勝負ではないだろうか?
個人的に、『いつでもどこでも挑戦権』が復活するまでの約2年間(2020年~2022年現在)で、DDTのプロレスは大きく変わったと思う。
所謂コミカル的な要素は残しつつ、アスリート的な部分だとか、闘いの部分だとかが色濃く反映されるようになり、KO-D無差別級王座を始めとした各王座の格も上がっていった。
デビュー当初の若手選手が、コミカルマッチの人数合わせに無理やり組み込まれるケースが明らかに減り、若手が火花を散らす試合も増えた。
(岡谷秀樹、小嶋斗偉、高鹿佑也、石田有輝etc)
2022年8月にHARASHIMAとのシングルでデビューを果たした正田壮史なんかは、その象徴的存在と言えるかもしれない。
その一方で、『いつでもどこでも挑戦権』に代表される、【自らの知恵と勢いで試合を制する】ような、度肝を抜く戴冠劇はあまり見られなくなってしまった印象がある。
だからこそ、今回の『樋口vs青木』が実現した意義は非常に大きいと、私は感じたのである。
2年半ぶりに復活した『いつでもどこでも挑戦権』は、今回の青木の挑戦を以て消滅し、再び保持者0という状態に戻った。
現時点で、どのタイミングで『いつどこ権』が撒かれるか分からないけれど、叶うならば、『いつどこ権』が定期的に流通する展開が観たい。
今回の『いつどこ権』を通じて、"横道"からだとしても"真ん中"を狙うカッコ良さを、青木真也が魅せてくれたのだから…!
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