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すっぽり包まれる"みんなの森 岐阜メディアコスモス"

昨今の図書館の進化が目覚ましい。
新建築の7月号では仙田満氏によるダイナミックな空間を有する石川県立図書館が掲載されていた。


これらの進化のひとつの節目となっているのが、この「みんなの森 岐阜メディアコスモス」だろう。
正直岐阜を訪れる機会はなかなかこれまでなかったのだが、ここを訪れずして図書館建築は語るべからず!意を決して岐阜を目指した。

この場所には元々岐阜大学の医学部があり、2004年から跡地の活用検討が始まった。2011年に伊東豊雄事務所がコンペにて設計者として選定されたが、施工者の入札不調など紆余曲折あり、2015年にオープンした。メディアコスモスという名の通り、図書館の他に市民活動交流センター、多文化交流プラザ、展示ギャラリー等からなる複合施設だ。

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伊東豊雄氏の建築はとにかく優しい。環境にやさしかったり、表情が優しかったり。細く繊細な柱にふわっととろんとした屋根がかかっていることが多い。
このメディアコスモスではそんな彼の作風の真骨頂が発揮されている。

1.地元岐阜のヒノキがとにかく「しなる」屋根

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この屋根どうなってるの?2階の図書館へ辿り着くと誰しも感じるだろう。外観のガラスと鉄骨のラインからは想像もつかない。
うねりを成す木製の格子屋根は構造体として機能している。3方向に伸びる木板は最大で7枚重ねられている。麦わら帽子を内側から見た時のような緩い盛り上がりが所々に見られる。この複雑な曲面は、現地で形状になじむように自然な「しなり」によって実現している。仕上がりは美しいが、ここに至るまで屋根の上で職人さん達は相当揉めたのではないかと推測する。
日本人だからか、とんでもないスケールではあるが、木の格子はどこか落ち着く。その隙間から感じられる光や風の様は、いつかどこかで見た光景と重なる。

2.神秘的で高性能な建築クラゲ

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屋根と共に圧倒的な存在感をもたらす、11箇所に及ぶ漏斗状の「グローブ」。まちのような建築を目指すことをコンセプトとし、大きな家の中に小さな家が内包される形態をとっている。このような手法を使う建築は近年少なくないが、外側から内側から見るグローブは、モンゴルのゲルのような、イスラム教の教会頂部のタマネギドームのような、民族的で宗教的な神秘的な空気を纏っている。
このグローブは意匠やゾーニングに留まらず、性能面でも重要な役割を果たしている。グローブの頂部には開閉式のトップライトが設置され、柔らかな光が差し込み、自然な風の流れを生み出す。敷地の直下を流れる長良川の伏流水を活用し、床からの輻射式冷暖房が効率的に熱環境を整えている。
さらに魅力的なのが、グローブそのものの柄。これはアートディレクターの原研哉氏とテキスタイルデザイナーの安東陽子氏によるもの。フロアマップにもこっそりこのデザインが用いられている。

3.建築と境目のないランドスケープ

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ランドスケープは石川幹子氏が手がけている。岐阜駅からバスで10分ほどに位置するこの施設。岐阜駅-長良川-金華山を繋ぐための緑の拠点のライン状にあり、緑のネットワークを形成している。並木道には人がくつろぎ、広場はキッチンカーもくり出し賑わっている。
また建物とランドスケープが見事に共存している。図書館から自由に出入りできるバルコニーでは、岐阜の山々を眺めながら緑を身近に読書ができる。建物の凹んだ部分にも気持ちよく緑が佇んでいる。タマネギドーム別バージョンのスターバックスも緑に囲まれている。

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図書館に配された家具もとても興味深いが、それはまた別の機会に触れたい。
この場所は図書館でありながら、グローブにすっぽり包まれながら佇む人たちの約半数は本を読んでいない。
地元の人たちは本を読みにきているのではなく、心地よさや安らぎ、気持ちの切り替えなどを求めてこの空間体験をしに来ているようだ。

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