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呼応する建築"東京都庭園美術館新館"

歴史的建造物を保存しながら新館を整備していく、という事例は昨今多く見られるが、この2つを上手く共存させるのは難しい。
建物が建てられた歴史的背景や設計者が建物に込めた想いやそのデザイン手法などを解釈し、どのように引き継ぐか、現代においてどう表現するか、そして未来にどう伝えていくか、が問われる。

東京都庭園美術館は1933年に建設された朝香野宮邸と庭園を活かして1983年に開館した。設備老朽化により修復と新館増築を開始、2014年に新館が完成、その後付属建物の修復、庭園整備など続け、2018年に全面的な開館となった。
その建物デザインを活かしてアール・デコに関連するもの以外にもユニークな展示会が催されている。

日本庭園

今回新築された新館が、本館や庭園とどのような関係性で作られたか見ていきたい。

1.アールデコとモダニズムの調和

本館と新館
本館外観

本館の外観色はライトベージュで気品があっていつの時代に左右されない色みだ。そこに規則正しく開口部が設けられている。通路を介して新館の外観も同系色の大判の石が貼られている。しかしながら形態はミニマルなキューブに大きく開口部が設けられ、細い方立てが並んでいる。正にモダニズム建築の大原則が体現されている。1930年代に共に繁栄したアール・デコとモダニズム。歴史的に見てもこの2つは必ずしも異質なものではなくその関係性は複雑だ。
本館のアール・デコを単に模倣するのではなく、モダニズムという建築文化を用いることで、それぞれの建築様式が共存し、緑豊かな環境の中でお互いによく馴染んでいる。

2.工芸デザインへのオマージュ

本館から新館への通路


本館大広間アンリラパン
ルネラリックの照明

本館から新館へ渡る通路はガラスウォールが用いられ、程良く陽光が降りそそぎ、庭園の緑が垣間見える。
ガラス面はディンプル状の加工がなされ、緩やかな揺らぎをもたらしている。これはタイムスリップ的な時空の歪みのようにも捉えられる。
そしてガラスの繊細な表情は本館のルネラリックの照明デザインなど緻密な工芸の技術を想起させる。そして連続するガラス面のドットは本館大広間の天井に見るアンリラパンによる、格子状に配置された点照明のデザインをモダンに昇華させている。
アール・デコを象徴する工芸デザインのオマージュが近代建築と融合しているのがおもしろい。

3.キューブにアールデコの記憶

新館エントランス


新館通路から庭園を臨む
本館アイアンデザイン

新館は水平ラインとガラスキューブ、細いフレームワークでミニマルなデザインであるが、それだけではない。照明によって浮かび上がる、エントランス空間はアーチ状に連続する天井が印象的だ。
これは本館の大客室のガラス扉上部のアーチ形状を思い出させる。鉄工芸家のレイモン・シェブによる直線と曲線を組み合わせた装飾は、アール・デコの真髄と言える。
本館でそのようなアール・デコを堪能した後、新館のモダニズム空間の中にどこかアール・デコの記憶が感じられるのは、どこか心地よい。

庭園美術館における新館は、建築文化の文脈を丁寧に読み解き、本館に対して尊敬の念を込めて、建築に体現それている。未来につないでいって欲しい建築だ。




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