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Vol.「わかんないよ、まだ」

Illustration&picture/text Shiratori Hiroki

 彼女に何をしてあげられるんだろう。そんなことばかり考えてしまう、何持っていないのに、何かあげるとか、そうゆう簡単なことで解決しようとしてしまう。春、彼女の仕事終わりに、桜を見に行くことにした。少し前からお花見しようねと話していたし、今日ならそれがぴったりな天気だったから、お花見に誘った。
僕は人混みや、音がうるさい場所や、身動きが取れない状態、他にもいろんな要素が重なると、パニックになる。いつからこうなるようになったかはわからないけど。初めに呼吸が浅くなって、周りの音がとても敏感に聴こえるようになる。周りにそれが知られないように、自分に「大丈夫、大丈夫」と言い聞かせると、落ち着く時もあるけど、まぁだいたい、そのまま過呼吸になって、パニックになる。いつなるのか、どうしてなるのか、なんでこうなってしまうのか。よくわからない。わかるのは今まで、パニックになった分の記憶からわかる要素の一つ一つだけだ。

 僕らの前には、カップルが幸せそうに桜並木を見ながら歩いている、どうして僕にはこんな簡単なことすら出来ないんだろう、屋台の装飾がぐらぐら、揺れてるように見え、心配そうに声をかけてくれる彼女の声が、頭の中で、響く。心臓がどんどんはやくなっていくのがわかる。パニックになると今までのトラウマが一気に想起される。
真っ暗で風のないような孤独といる気分になる。ぎゅうと強く握る彼女に僕は泣きそうになる。こんなはずじゃなくて、もっと楽しくしたくて、もっといろんな場所にこれから行きたいはずなのに。お花見すら、僕にはパニックになる。優しく元気に振る舞ってくれている彼女に僕は喋らないでと言ってしまった。こんな自分が大嫌いだ。殺したくて、殺したくて、殺したくてたまらなかった。「大丈夫。大丈夫」と声をかけ続けるあなたに僕は何もしてあげられない。屋台の焼きそばも、ディズニーのアスレチックも、フジロックの音楽も、もしパニックになってしまったらと考えると怖くてたまらなかった。

あなたは優しいから、それでもいいよと言うかもしれない。でも、それでも、それでも。僕は僕を許すことができないでいる。お花見に行ったのもほんとうに行きたかったし、もしこれでパニックにならなかったら、ディズニーにも行けるかもしれないなと考えていた。パニックが克服できるようになったらいろんなところに行けるようになれる。そんな前哨戦だった。でも実際はそんなに簡単じゃなかったなぁと公園に向かいながら思った。

 いつもパニックなるかもな、と思うような場所に行くときは公園や、落ち着ける場所を事前に調べてしまう。そしてしばらくベンチで座りながら、ふたりでいろんなことを話しているうちに少しずつ落ち着いたと思う。僕はいつになれば、世界と繋がれるんだろう。そんなことを考えてしまう。



Vol.「わかんないよ、まだ」

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