太平洋

【いつか来る春のために】㉖ 仮設からのリライブ編❼ 黒田 勇吾

 ♪ この青く静かな海に 
  あなたは眠っているだろう
  
  安らいだ思いを胸に抱いて
  楽しい夢を見ながら
    
  吹雪はもう降らないから
  春はもう来てるから
  野山に咲いた桜並木が
  風に揺れているよ
  
  あたらしい命に生まれ変わって
  美しい心のままで そのままで
  水平線を越えて 戻っておいでよ
  仮の家にいるけれど
  あなたの部屋もあるから   ♪

静かにゆっくりしたテンポで鈴ちゃんは歌っていた。美知恵は何とも言えない気持ちで歌に心をゆだねながら、ああ、自分の思いを歌にしてくれていると思った。あの日の吹雪のつらい思い出が心をよぎった。必死になって隆行を捜しつづけた幾週間もの哀しみが心に湧いてきて、涙があふれ出た。

 ♪ この青く静かな海に あなたは眠っているでしょう
  あたたかい笑顔を心に広げて
  ひとときまどろむように
  白い雲が流れているよ
  夏はもう来てるから
  街角に咲いたひまわりたちが
  太陽に照らされているよ

  新しい命に生まれ変わって
  やさしい心のままで  そのままで
  水平線を越えて  帰っておいでよ
  仮の家にいるけれど
  あなたの部屋もあるから

  幸せをひとたびは  奪われた気がした
  昔には戻れないと  泣いた夜もあった
  だけど悲しみを  乗り越えて
  いのちは とわに消えない

  水平線を越えて  帰ってきてください
  涙の夜の向こうには  希望の朝が来るから
  水平線を越えて  あたらしい太陽(ひ)が昇るよ
  悲しみばかりでは ないさ
  あなたの愛があるから
  みんなの愛があるから

  この果てしない宇宙の海に
  あなたは眠っているでしょう
  あたらしい命に 生まれ変わって
  使命に目覚める そのときまで  ♪

 やさしいギターの伴奏にのって歌われた鈴ちゃんの歌声が強くなったり、弱くなったりしながら、やがてゴスペルの囁きのように静かに歌が終わった。少し間が空いてから皆が一斉に大きな拍手をした。かたまって聴いていた茨城の学生たちも大きな拍手をしながら立ち上がった。鈴ちゃんはありがとうございました、と一礼するとギターと譜面台を持って何も言わずに出口に向かって行った。
 美知恵と加奈子は一緒に泣いていた。うつむきながら、そして時にお互いを見て頷きながら泣いていた。やがて美知恵は加奈子の肩を叩いて、鈴ちゃんのところへ行きましょう、と囁いて立ち上がり出口に向かった。集会所では次の演目の準備のために茨城の学生たちが動き始めていた。


https://www.youtube.com/watch?v=yBmIIio-v5o

           ~~㉗へつづく~~

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