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The game

目が覚めると街の中だった。木と石でできた古めかしいながらも落ち着いた街並みは、ほっとさせる気持ちさえある。

ここは街中の中心地。さまざまな場所から訪れる旅人たちは、街の外を一歩踏み出すと襲い掛かる魔物の討伐で戦力とスキルを上げるべく街の中の取引相手との交渉やパーティーの募集をひっきりなしに行っている。無論、どの旅人たちも皆、ギルドに入っているためギルド内のメンバーと組むことが圧倒的に多く、強くなるためには大前提の関門ともいえる。

今日は新しく、街の老人からの依頼があったらしいようで、人々は指定された地に向かう。喧騒から離れた草原には爽やかな風が吹いていた。マキノも、その老人からの依頼を受けてキノコを探すべく草原に向かっていたのだった。とはいっても、既に戦力が70万を超えており、草原に棲む飛べない大型の鳥や牛たちはマキノの敵とは言えず、探しているキノコとやらも簡単に手に入るものだった。それでも依頼してきた老人にはとても大変な距離にあり、いつ襲い掛かってくるかわからないゴブリンの巣窟のすぐ近くに目当てのものが顔を出している。

キノコを採り、老人の元へ戻ろうと大きく羽根を広げた時だった。とっさに双剣を構えて間合いを取る。素早く走り剣を振る。緑色の血しぶきから刃が飛び出してくると、間髪入れることなく飛躍し思い切り相手に両剣を強くたたき込んだ。華奢な体からは想像もできないような力強さとしなやかさに動き回る長い脚は、巨大で愚鈍なグールを翻弄する。距離はやや遠いか。気を溜めた手からは無数の紫色の短剣が放たれ、伴って自身も相手に突っ込みに行く。倒れたグールから散らばったコインを拾い集めると、街に向かって飛び立つのだった。

「あんたか、ありがとうよ。孫が熱出しちまって医者に聞いたらこれが必要なんだと」

老人はお礼を言い、マキノは報酬である羽を手に入れた。集めることで機織り屋の店主に持っていくと防具を作ってくれるのだからありがたい。

「早く治るといいですね」
「子供ってのはよく熱出すもんさ。しんどいとは思っているだろうが、半分くらいいつもの事みたいに思っておくほかないんだよ。そういえばわしもよく熱を出したな。こりゃ遺伝だな」

老人は笑う。マキノが少しだけ引っ掛かりを感じたのにも気づくことはないようだった。老人から離れた時、ギルドでいつもパーティーを組む大剣使いから連絡が入った。

「宴会始まりますよ」
同時にパーティー参加の通知が入るのだった。この通知も連絡もどうやって参加をしているのか拒否しているのか、連絡のやり取りにしてもどうして相手の声が聞こえるのかは不明だった。しかし、マキノ自身はそれが普通だと思っていたのだが。
相手がすぐ近くにいるわけでもないのに、頭に降ってくるように聞こえる相手の声。特に疑問に思うこともなく、この世界にいる女神の力だと信じて疑うものはない。マキノの手から短剣が飛び出すのも、法具や杖を持ち、遠くから魔物に攻撃を加える者たちがいるのも、全ては女神の力に依存しているのだから。そして今、ギルドの領地に引っ張り込まれる力がマキノに働いているのも、大剣使いであるポーターが女神の力を使っているからである。

「ポーターさん、あのクエストやった?」
「キノコ狩りですか?あの報酬、ありがたいですよね」
「へぇ、さすがだけど珍しい」

ポーターは、基本的には秘境の奥深くでいつも修行を行っている。ひたすら経験値を積んで自身の強化に励んでいるので、街の中にいることは日々行っている依頼をこなすときくらいしかない。さすがだけど珍しいというマキノの珍言は決して間違っているわけではない。
宴会が終わるころ、いつものパーティーメンバーが揃い、そのいつもの依頼をこなす時間となっていた。

いつものように双剣を振り回し、乱舞する。攻撃から素早く回避しポーターの居る魔物の背後に回り込むと強烈な打撃をたたき込んでいく。キラキラと輝くマキノや他メンバーたちの攻撃は既に魔物の周りを取り囲み、相手が見えないほどとなっている。既に満身創痍の状態だった。相手を貫くタイミングで、攻撃となるボールがマキノの腹部に直撃した。

何度味わっただろう、この痛みは。対人戦では自分よりも戦力の強い相手にぶつかり、体がちぎれ、既に骨折しているボロボロの腕を無理やり動かして双剣を振り回す事さえあった。それでも街に戻ればマキノの体は何もなかったかのようにきれいなままになっている。心臓が止まる音さえ今では慣れてしまっていた。もちろん今も、あと5秒もすれば同じように先頭に加わることができる。

ひたすら待つ。女神の声は聞こえない。なぜ、これが女神の力といえるのだろうか。女神には一言も自分の力だなんて言われたことはない。何の確証もなく、ひたすら痛みに耐え何度も奈落の底に文字通り落とされたと思えば、何度でも生き返っている。

………

目が覚めると街の中だった。木と石でできた古めかしいながらも落ち着いた街並みは、ほっとさせる気持ちさえある。

直後、マキノの頭に言葉が降ってくる。女神の力だ。

【本日をもって本サービスを終了いたします。長い間お楽しみいただき大変ありがとうございました。】


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