【短編】宇宙人

この世界はどうしてこんなに息苦しいのだろう。生まれてからずっとずっと苦しくて、苦しくて、堪らないのです。まるで僕だけが別の世界からやってきた生き物で、何らかの形で人間の赤子の体に宿り、人間として育ってしまった。でないと、説明がつかない。いや、納得ができない。最初からこの世界に生まれてきたはずなのに、僕だけがこの世界に適応できない!家族も、友達も、なんでそんなに上手く呼吸ができるのだろう。
だから、物心ついた時から、僕は人間じゃないんだと思っていた。僕は遠い星の何処かからやってきた宇宙人なんだ。母さん、父さん、貴方たちの欲しかったであろう人間の息子でなくてごめんなさい。僕、本当は人間の器をした、得体の知れない何かなんだよ。


僕は何者なのだろう。











母さんと父さんが死んだ。
どうやら、練炭による心中を図ったらしい。
原因はわからない、あんなに一緒に過ごしてきたのに何もわからない。
もしかしたら母さんらも、上手く呼吸をするフリをしてただけだったのかもしれない。


僕はいつの間にか海に来ていた。どうやってここまで来たかは、よく覚えていない。けれど、僕が幼稚園の頃、よく家族旅行の海水浴で行った海だ。

美しい。

何故か昔から海を見るたびに、目の奥が熱くなり、入水したくなるのだ。海が僕を呼んでいる。このどうしようもない懐かしさは、一体何なんだろう。今日の海はいつも以上に綺麗で、服が濡れたって、顔に水がかかる深さに達しようが、海水が口の中に入ろうが、脚が止まらなかった。僕の身体が、魂が、海に吸い込まれていく。
(僕は、海で死にたいんだ。)
人間も、その他陸上動物も、元々は海の生き物で、何億年という時をかけて陸に上がってきたという。きっとこんなにも海に取り憑かれているのは、海が故郷だから。海に還ろう。醜くも美しいこの世界よ、さらば!



少年の呼吸は水圧により途絶えた。


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