ガンダーラ美術の特質

問題

難易度: ★★★★☆
オリエントあるいは西アジアに浸透したヘレニズム文明は,さらにインドにも影響を及ぼしている。とりわけ,1世紀頃から西北インドにおいてヘレニズムの影響を受けながら発達した美術には注目すべきものがある。その美術の特質について90字以内で説明しなさい。

配点: 6点 東京大学(2006)

解法へのアプローチ

問題文を読んで「ガンダーラ美術の特質について説明しなさい」と解釈できた受験生は多いでしょう。しかし与えられた文字数をみると90字以内とあります。外観の特徴だけ書いても少ない文字数で収まってしまう。ここで「他に何が求めれているのか?」を考えられなければ、高得点は得られない。問題文からも、当時の文化流入の経緯が丁寧に解説されていることから、「教科書レベルの知識でガンダーラ美術が発展した背景を踏まえ、その特質を具体的に説明してください」と解釈し、
・どの王朝のもとで
・どんな文化を継承し
・どこで発展し
・どんな美術的特徴をもったのか
という要点を記述できるよう、知識を整理しながら問題に取り掛かりましょう 🏃‍♀️

採点基準

① ガンダーラ美術を生んだ時代背景
・ヘレニズム文明がバクトリアから流入したことに触れていれば +1点
・クシャーナ朝のもとで発展したことに触れていれば +1点
・大乗仏教の拡大に貢献したことに触れていれば +1点

② ガンダーラ美術の具体的な特徴
・ガンダーラ地方で生まれたことに触れていれば +1点
・顔と衣装の彫りが深い(写実的)であることに触れていれば +2点

解説

ガンダーラ美術が生まれた背景

アーリア人が興したマウリヤ朝は紀元前180年頃に滅びてしまいました。その後、北インド・イラン方面で勢力を拡大していたギリシア系民族がインドへの侵入を繰り返し、北インドにはアーリア人だけではなくギリシア系民族も住むようになりました。その代表例がクシャーナ人です。彼らはバクトリア地方の文化もインドに持ち込んだため、結果としてインド文化との融合を生みました。その例として仏教が挙げられます。アーリア人文化圏のもとで独自発展を遂げていた仏教はもともとは偶像崇拝を嫌う思想でしたが、ギリシア思想が輸入されることにより、偶像崇拝が広がりをみせました。ギリシア人はオリンポス12神にみられる通り、自然・神様を擬人化する文化を持っていましたから、その価値観をインドでも広めたのでしょうね。

ガンダーラ美術の外観

かくして仏像が造られ始めたのですが、現代ではガンダーラ地方で生まれた美術をガンダーラ美術、マトゥラー地方で生まれたものをマトゥラー美術と区別しています。ガンダーラ美術は、ヘレニズム文明の影響を強く受けたものとして有名で、目鼻・顔立ちがくっきりして仏が着ている衣もはっきりと表現していることが特徴的です。この問題のスコープから外れますが、マトゥラー美術についても少しだけ説明を。実はマトゥラー美術もガンダーラ美術と同時期に生まれたと推測されており、どっちが仏像の起源なのか?という点では議論中だったりします。マトゥラーはガンダーラ地方よりもインド中央部に近く、よりインド的な美術的特徴があり、その特徴はグプタ美術に受け継がれています。

解答例

紀元前後にバクトリアからヘレニズム文明が伝わったことにより、クシャーナ朝期のガンダーラ地方で発展した。ギリシア・ペルシャ調の写実的な特徴を持ち、大乗仏教の拡大に貢献した。(85)

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