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韻文

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#詩

詩「空疎な午後」

白い光の中にいると思ってたここは黒 揺れる君の眼に映る僕、偽善者に見えるね 為政者が辻褄合わせて喜ぶ世界に、君は何を期待しているのか。痛いくらいの君の涙に触れる資格が欲しい訳ではない僕は世界を敵に回そう、と主語を大きくする。深夜の本屋が何色かなんて知らない僕に朝日の見える場所なんか聞かないでいて。通り行く車の音とすれ違う人の影が孤独を誘う夕暮れに、悶える夏の残り香。いつしか幸せになれると良いね、なんて幸せの定義すら考えずに呟く僕の手は赤く染まっていた。 惑う君の眼に映る僕

詩「切り傷」

右腕の痣がほんのり温度を上げて、僕は生を感じる。いつのものか知らない紫の一部は確かに僕で、だから僕の中に吸い込まれていく、排水口みたいに、全部吸い取って殺してよ。 一発でも拳は痛いのって悲劇のヒロイン、朝ドラだけの存在でいて。僕は別に痛くないし、夜中の自動販売機より寂しくない生活。コーンポタージュなんてなかった、そんな星の物語。 傷つくだけの学校行きたくない、朝から満潮の眼に映る優しさは葬式の日の親類一同と同じ、気持ち悪い、吐き気する、南無阿弥陀仏に救われるみんな思いやりの朝

詩「余分な私、因子@染色体」

四十日も経っていたから忘れてた ああ、私も……だった 〈教科書訂正〉 ×少量の→○多量の 頭の片隅に赤黒い、自我 これがある限り 勝てない 勝てないの 君に分かるか、この悔しさが 三つ編みしたっていいでしょう? パフスリーブのロリータも 天使がモチーフのペンダントも ほんのり香る金木犀も 私のためのお洒落なの 赤黒い海に溺れていく、身体 私の中を抉るように 意識不明の重体、なんて大袈裟な いまさら何を被害者面? 君に分かるか、この苦しみが アイス要らない、薬くれ ア

詩「f(x)=-|x^2-2|」

溶けていくの、私 あるいは、放物線の動揺 抜け出せないの、私 どうして、絶対値の宿命 セイの値、とれない どうしても下に凸 それならいっそ、微分して 調和しようか? 単調増加の過去 尖っているの、私 それなら、導関数の限界 誤魔化せないの、私 いつでも、極大値の不在 接線、寄り添いたい ことごとく判別式、負 それでもずっと探してる 迎合しようか? 微分係数の記憶 仮初めの定義域 場合分けしたけれど 交わる関数も無いし 私は微分不可能 こんなことばっかり考え