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おいでという言葉の魔法。

○○こっちおいで。この言葉に私は弱い。
大学3年生9月。サークル最後の夏合宿が終わり3年生はほぼ引退、これから就活に本腰を入れそれぞれが新しい道へ進んでいく季節。

まだ気持ちの切り替えられない私たちはいつものように大学近くの後輩の家で宅飲みをしていた。後輩の男の子2人と彼と私。いわゆる大学生の酔っ払うことが目的の飲み会。そこそこにお酒が強いメンバーがそろって思い出話に盛り上がった結果、気づけば鏡月7本が開いていた。後輩2人が寝落ちて、私も意識朦朧としながら寝床の場所を確保しようとしていたら、彼に○○こっちおいでと引き寄せられた。うん、きょとんとしながら彼の横に横たわる。

彼とは一番の男友達、最後の合宿も相思相愛で同じ班になり、サークル内でも、また2人いちゃいちゃしてるよと煽られるくらい仲がよかった。しかし彼にはバイト先に彼女がいた。さほどかっこいいわけではないがなぜかモテる彼には大学1年で出会った時から常に彼女がいた。20年間一度も付き合ったことのない私は、付き合うの意味も、この感情の意味にもこの時は気づいていなかった。ただ一番一緒にいて楽で、楽しい、この関係がずっと続いてくれたらいいなそう思っていた。

私たちのサークルは少し特殊で、少人数制、合宿は強制参加で、1ヶ月間島にこもって24時間一緒に生活をする。本当に家族みたいな関係で、雑魚寝なんて日常茶飯事、周りに理解してもらうのは難しいが、一緒に寝ても何かが起こることなんてなかった。だからこの日も何の抵抗もなく彼の横で眠ろうとした。でも彼はいつもと違った。男の人のような優しい手つき、頭を撫でられながら、彼の腕枕で眠りについた。少し戸惑いはあったものの、包まれているようで心地がよかった。

翌日、私はインターンに行くため、始発の時間に起きてそーっと出て行こうとする。彼が、ん?と眠気まなこでこちらをみながら、〇〇おいでとまた手を取ってくる。ごめん、先に行くね。すると手の甲に優しいキス、行ってらっしゃい。とそのまま彼は眠りについた。手の甲とはいえ男の子にキスされるのが初めての私は帰り道、彼は何を意図していたのかモヤモヤしながらも、思い出す度に何だかとても幸せなものに包まれた。その後これをきっかけに彼は私の初めての彼氏になる。

それからというもの、進んではいけない関係性と頭ではわかっていても、〇〇こっちおいでと言われたら、何だか幸せな時間が始まる気がして、断れない自分がいる。「おいで」は魔法の言葉だ。


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